パチンコ店の前に立っていた上野橋は、その時のことを振り返る。

 勝負に勝ったというのに、負債を全て肩代わりしてくれた少女のことを。

「どうして助けてくれるんだ?」。

 そう問い掛けた青年に対し、ギャンブラーは答えた。


『あなたが、まだ自分のお金で賭けていないから。何十万、何百万を、自分で稼いで、賭けられるようになって、それでもまだギャンブルをやっていたら……。また、勝負しよう。今度は本気で相手になるよ』


 それで納得できないなら、と少女はこう続けたのだ。


『冗談か、気遣い(トリック・オア・トリート)とでも、考えておいて。十月だしね』


 上野橋龍は勝負に負けた。

 百二十万の負債を背負うはずだった。

 けれども結局、それは帳消しになり、綺麗な身体でここに立っている。

 少女のことを「甘い」と見做す者もいるだろう。そんな情を掛けたところで、ギャンブル中毒者は反省せず、これ幸いと賭博に走ると。

 確かに。そうかもしれない。

 彼女は甘い人間なのかもしれない。

 だとしたら、彼女と出逢わせてくれた神様だって、随分と甘い奴だと上野橋は小さく笑う。神様の悪戯に助けられた。救われたのだ。あるいは、もしかしたら、賭けてくれたのかもしれない。自分という人間の将来に。



 青年は足元のパチンコ玉を拾うと、それを指で弾く。

 高く、青い秋の空へ。

 さあ初出勤だ。そろそろ行こう。

 そして、上野橋龍は店舗裏手の従業員入り口へと向かった。




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