第9話「勇者、魔法を鑑定する」

『レベルアップとは、生物が窮地に陥った時、最大魔力が上昇する現象のことです。また技能面でも以前より卓越する傾向にあるとか。まぁ俗説ですけどね』

『いろんな敵と戦ってれば勝手に強くなるってことか』

『ええ、しかし地道に研鑽を積む方がよほど安易でしょう』

『ありがとう。任務に戻ってくれ』

『あの二人のお守りは面倒です……』

『そこをなんとか。無事四天王を倒せたらそれなりの地位を与えるからさ』

『本当ですか? 忘れませんよ、その約束』

『もちろんだとも。この魔王に二言はない』

『ではよろしくお願いしますね』


 ……と、メイドちゃんと通信魔法をしている間に馬車が隣町についた。結局謎の煙幕は正体不明のまま、忘れ去られてしまったようだ。まぁその方が俺にとっても助かるんだけど。


 隣町は勇者ちゃんの村より随分と栄えた様子だ。

 この辺りの中心地と見ていいようだね。勇者ちゃん達はさっそく飛空挺のチケットを手に入れようとしているようだけど……。


「はぁあああ!? 飛空挺に乗れるのは一週間先ってどういうことよ!?」

「ですから申し上げたとおり予約でいっぱいでして……」


 剣士ちゃんが飛空挺乗り場の受付に向かって怒鳴り散らしている。どうやら席がいっぱいみたいだ。


「金ならあるって言ってるじゃない! 金なら!!」

「まぁまぁ、ケーちゃん。一週間とりあえず待とうよ」

「チッ……でもただ待つだけなのも癪ね。何か依頼でも受ける?」


 どうどう、と剣士ちゃんを沈める勇者ちゃん。

 剣士ちゃんも落ち着いたのか腕を組んで、ベンチに座った。


「いえ、まずは鑑定屋に行きましょう」

「鑑定屋って……鑑定してもらうものなんてなくない?」

「勇者様の魔法を鑑定してもらうのです。魔法が扱えるようになったらずいぶん違いますよ」

「そーいえばこいつ自分の魔法がなんなのかわかってなかったわね。いいわ、行きましょう」

「え!? いいの!?」

「ツケよ! あとでたっぷり身体で払ってもらうから!」

「身体で!?」

「いやらしい意味じゃないわよ!?」

「あ、なんだ……」


 ほっ、とその大きい胸を撫で下ろす勇者ちゃん。

 なんだと思ってたのか。

 しかしそんな会話を聞いて気になることが一つ出来た。

 こっそりとメイドちゃんに通信魔法で聞く。


『魔法を知らないってどういうことだ? 魔法なんていくらでも使えるじゃないか』

『それは魔王様のような方のみです。通常の者は一つ。多くても三つまでしか魔法は持っていないのです。道具を使えば魔術は使えますがね』

『へぇ、俺って例外だったんだ』


 初手例外ってやつね。

 となると、メイドちゃんは銀を操る魔法。

 剣士ちゃんは氷を操る魔法で。勇者ちゃんはなんの魔法か分かってないと。そりゃあ調べてもらった方がいいよなぁ。


 そんなわけで一行は鑑定屋に。と言っても向かったのは街の中央にある冒険者ギルド。大体この中に鑑定屋がいるとかなんとか。


 中に入ると、なかなかの活気。

 老若男女様々な人種がいる一方、酒場の片隅に黒いフードを被った怪しげな女性がいる。彼女が鑑定屋かな。


「すみません。えーっと、僕の魔法を鑑定して欲しいんですけど……」

「………銀貨五枚」


 言われて剣士ちゃんが懐から銀貨を取り出し、鑑定屋に渡した。

 勇者ちゃんの手をとって、まじまじと手相を見るように観察する鑑定屋。しばらくすると「おお……」と感嘆の声を上げた。


「これは珍しい。光魔法だのぅ」

「光魔法?」

「魔力を光のオーラに変える魔法じゃ。周りを明るくしたり、アンデットを討伐したり、熱線として撃ち出したり、ああ、仲間の傷や病を癒したりもできるのぅ」

「ど、どうやれば使えますか?」

「心にポッと灯りを照らすイメージじゃ。そう、目を瞑ってイメージして……」


 言われた通りに勇者ちゃんが目を瞑る。

 するとその手がどんどん輝き出してきた。


「イメージを掴めたようじゃな。慣れてくれば徐々に出力を上げられるぞ」

「わぁい! ありがとうございます!!」

「ああ、だが気をつけよ。そなたには大いなる闇の加護がある……。それは強力ですが同時に危険でもある……」

「は、はぁ……」


 うげ! 俺のことを言われてんのかな?

 さっきから水晶玉からこっちの方をチラチラ見てる気がするし。

 鑑定屋……恐ろしい連中だ……。


「良かったわね、これからキリキリ働きなさいよユウマ」

「うん!! ありがとねケーちゃん」

「それでは依頼でも受けにいきましょうか、ありがとうございました」


 メイドちゃんが会釈をして、その場を離れようとすると……。

 突如として鑑定屋がメイドちゃんの手を掴んだ。


『あのお方は女神様の意思を汲んでおるのか?』

『ええ、通信魔法で話しますか?』

『よい、あのお方と会話するなど恐れ多いわ』

『では私はこれで……』

『ああ、我らが人狼の末裔よ。偉大なる女神の加護があらんことを……』


 うわっ、なんか通信魔法が伝わってきたよ。

 あのフードの下ってもしかして犬耳生えてる? メイドちゃんと同じワーウルフなのかな。人狼とワーウルフと獣人族の違いっていまいち分かってないんだよな。どれもおんなじなのか?


『……獣人族は獣の相を持つ人類全般。ワーウルフはその中でも女神に使える誇り高き人狼の一族です』

『あ、そうなんだ』

『卓越した者はああして通信魔法や鑑定魔法を行えます。まぁ種族特徴というか女神の加護というか、ああ、私は魔王様の補助がないと出来ませんよ』

『へぇ、色々便利なんだね』

『それより本当にこのまま勇者を育てていいんですか?』

『うん、敵対する気ないし何より……』

『何より?』

『最近推しなんだよね……勇者ちゃん』

『………………通信を切ります』


 ちょっと余計なことを言ったかもしれない。まぁいいや!


 次の依頼はなんだろうか?

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