第5話「勇者、下水道へ行く」

「なぜ私がゴブリン退治などという粗雑な仕事をしなければならないのか……」

「ごめんね、メイドちゃん。ありがとね」


 帰ってきたメイドちゃんはプンスコと怒っていた。

 しかし頭を撫でると、機嫌を治したようでブンブンと尻尾を振ってくれる。


 ちなみに夕食は俺が作った。

 味は……まぁまぁだな。


 前世だと一人ぐらいでそこそこ自炊はしていたから。

 これぐらいのことは出来る。


 その夕食にメイドちゃんは目を輝かせて食べていた。

 頑張って作った甲斐があるというものだ。


 メイドちゃんが出かけている間の家事は俺がしないとな~~。

 さて、翌日。


 メイドちゃんを再び転移させ、水晶玉で監視することに。

 勇者ちゃんはちゃんと冒険者ギルドに来ているみたいだな。

 無事、合流。昨日の件もあって、メイドちゃんからは溜息が漏れた。


「旅するための資金を稼ごうと思うんだ!」

「それは構いませんけど、なにをして……?」

「へへへ、特に仕事がなかったから下水道のネズミ退治だよ!」

「………………」


 うわ、メイドちゃんすっごい嫌そう。

 まぁ、俺も下水道のネズミ退治なんてしたくないよ。

 しかしそんな仕事まで冒険者に頼むんだな。


「なんとか別の仕事になりませんかね?」

「でもこんな田舎じゃ大した仕事はないから……」

「とっとと都会に出ましょうよ」

「都会に出るにもお金がかかるからさぁ~~」

「…………わかりました。とっとと済ませましょう」


 やれやれと言わんばかりに首を振って、下水道へと向かう二人。

 そういう施設からドンドンと奥に入っていく。


 煉瓦作りの割としっかりした下水道だが、臭いはきつそうだ。

 メイドちゃんも勇者ちゃんも嫌そうな顔をしている。


「ネズミって普通サイズのですか? それならなにか道具が必要ですが」

「ああ、いや! 今回退治するのはボールラットっていう大きいネズミだよ!」

「あのビスケットボールサイズのネズミどもですか……」


 ビスケットボール。

 バスケみたいなスポーツが異世界でもあるらしい。

 ビスケっていうのかな。


 二人はさっそく下水道を進んでいく。

 途中現れたボールラットを何体か倒していき、依頼は順調そうだ。

 今回は俺の出番なさそうだな! うん!


 ……そう思っていると。


「うわ、なんだ!?」

「でかいボールラットですね……。ビッグボールラットとでも名付けましょうか」


 二人の倍ほどは巨大な突然変異種が現れたのだ。

 と言ってもしょせんはネズミ。倒せそうなものだけど……。

 ビッグボールラットが転がってきた。


「うわああああああああああ!?」

「なにを……これぐらい!!」


 メイドちゃんが飛び上がって、トゲトゲグローブで殴りかかる。しかしふんわりとダメージが吸収され、まるでトランポリンのように吹き飛ばされた。


「のわっ!?」

「メイちゃぁあああああああああん!?」


 ようやく戦う気になったのか、勇者ちゃんも剣を構えて斬りかかる。

 しかし結果は同じで吹き飛ばされる。

 どうやら打撃や斬撃は無効化してしまうようだ。


「こんなの勝てないよ~~!」

「くっ、勇者様はなにか魔法が使えないんですか!?」

「ま、魔法……僕、何が使えるのかわからないよ~!!」

「使えないですね……」


 このままでは押しつぶされそうだ。

 仕方ないので、蔵からなにか取り出して渡そう。

 ええっと……下水道だから炎はちょっとまずいよな。


 おっ、氷結の魔石。

 これなら倒せるんじゃないか。

 すぐさまメイドちゃんへと転移魔法で送る。


 それに気づいたメイドちゃんはこれみよがしに懐から魔石を取り出し──。


「仕方ありません! とっておきですが……」


 メイドちゃんが氷結の魔石をビッグボールラットに投げると、そのまま爆発的に凍りついた。へぇ、結構便利なアイテムだな。


「っ! これなら……!」


 勇者ちゃんが聖剣で凍ったラットに斬りかかると、パリィイインと割れる。

 そのまま残骸は煙となって消えていった。アイツ魔物だったのか……。


「やったね、メイちゃん!!」

「はい。勇者様、抱きつかないでください。臭いので」


 その豊満なデカパイをメイドちゃんに押し付けようとする勇者ちゃん。

 しかしメイドちゃんは塩対応だ。なにはともあれ一件落着かな。

 そのまま二人は下水道を出ると、近くの川場で水浴びをした。


 あのまま戻ってこられては困るので、二人を映さないように浄化の魔石を差し入れる。ほぼ石鹸みたいなものだ。


 無事帰ってきたメイドちゃんは毛並みがフカフカになっていた。

 …………が、一日中機嫌が悪かった。


 まぁ、大変そうだったからね、今回の依頼。

 今日は豪勢な夕食にしてあげよう。

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