魔王様の推しごと! ~今日も今日とて勇者の活躍を見て癒やされる。あっピンチじゃん。勘違いするなよ勇者、俺はおまえを助けたわけじゃない~

能見底猫

Chapter1

はじまりの村

第1話「勇者、スライムに負ける」

 魔王になっちゃったァ。

 なったからにはもうね。


 世界を支配していきたいと思います。


 ……なんて、そんな欲望はありません。

 ただ気楽にスローライフを送るだけでいいよ、うん。

 でもそういうわけにもいかないんだよなぁ。

 俺を転生させた女神さんがね。


 魔族どもを集めて魔大陸に引っ越せって言ってんのよね。

 でも俺、魔王だけど生まれたばっかりだし。

 カリスマなんてあったもんじゃないし。 

 誰も言うこと聞いてくれない。


 困ったなあ、なんとかしないと。

 態度だけでもやってるふりしないと女神様キレちゃうよ。

 俺も強いと思うけど、何されるかわかったもんじゃないからね。

 相手女神だし。


 うん。


 あ、俺転生者なんだよね。

 言ってなかったっけ。

 現世はさえないサラリーマンだったんだけどね。

 不摂生が祟って早死しちゃった。

 ははは。


 まぁ、今更どうでもいいんだけどさ。

 イケメンに転生できたし。

 ラノベの主人公っぽい、黒髪の中肉中背男子。

 なんか頭に角生えてるけど。

 なにこれ?


 あ、一応ドラゴンなんだ。へ~~。

 ドラゴニュートって種族なの?

 面白いね。


 でさ~~。

 魔族ども、どうすればいいと思う?

 え?

 皆殺し?

 それはちょっと最終手段だね。


 このメイド、血の気が多いね。

 ワーウルフだから?

 そういう種族もあるんだ。

 耳と尻尾がある以外人間に見えるけどね。

 二度と言うなって?

 わぁごめん。

 その鳶色の髪、可愛いよ。

 もっと伸ばしたら?


 ありがとうございます?

 いえいえ、どういたしまして。


 じゃあ真面目な話しよっか。

 どうすればいいと思うよ。


 上手い具合に魔族どもを追い詰めてさ。

 撤退を余儀なくすればいいと思うんだよね。


 勇者を使えばいい?

 そういえば五つぐらい聖剣があるんだっけ。

 ちょっと見てみよっか。


 よいしょ。水晶玉。

 うん、これにね。

 勇者っぽい人を映してみるから。

 水晶よ、今抜かれている聖剣の持ち主を映して。


 え~~~? 一人なの?

 しかも弱そうだし。


 うおっデッカ、あのデカパイで勇者やってんの……?

 肩までの銀髪で。

 白いローブで。

 全身白って感じ。

 可愛いよね。


 メイドさんなんで頬膨らませてんの?


 そういえば勇者さ。

 さっきからスライムと戦っているね。

 スライムって強いの?

 対処法がわかってれば弱い?

 火で炙ればいいのか。

 それなら簡単に倒せそうだね。


 でも勇者ちゃん、全然勝てそうにないね。

 聖剣振り回してるし。

 あ、スライムに取り込まれた。

 あのままじゃ死ぬんじゃないの?


 …………ちょ、ちょっと行ってくる。


 せっかく俺の目的を叶えてくれそうな人材なのに。

 ここで死なれたら困るしね。


 間に合わないって? 

 大丈夫……。

 転移魔法を使えば……。


 よし、転移完了。

 あ、でもメイドちゃんの声が聞こえるね。

 へぇ~~通信魔法なんだ。

 便利だね。

 水晶玉もそのままのはずだろうし。

 こっちの様子を見られるね。

 

 さて、スライムから勇者ちゃんを引き抜いてっと……。

 おっ、抵抗するな、こいつ!!

 火炎魔法!!


 よし、消し飛ばしたぞ。

 危うく勇者ちゃんも燃やしちゃうとこだった。


 ひとまず最寄りの村まで送っていこう。

 一応角だけ透明魔法で隠しておいてっと……。


 飛翔魔法!!

 わぁ、これ気持ちいいね。

 さて、なんとか村まで辿り着いたし。

 教会に入って、と。


 勇者ちゃんをね、うん、引き渡してっと。

 よし、完了。

 今度からスライムを退治する時は松明を持っていけ──。

 と神官さんに伝えてもらおう。

 それじゃあ村から出て……。


 あ、メイドちゃんになにかお土産買っていこうかな。

 何がいい? パン? いいよ。


 一応人間のお金は持っていたはず。

 あったあった。

 パン屋でパンを買ってと。

 それじゃあ帰るとしようかな。


 しかしこの調子じゃ先が思いやられるな。

 勇者ちゃん、上手く成長するといいけど。

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