47話 開戦、マジで滅する5分前


 変に崇め奉って増長した結果があの麻呂であって、他の竜族は違うと言う事で話を打ち切り就寝する事にした。

 そして翌日、夜が明けないうちに起きて片付けをし、法国旗と皇法国旗を掲げる。

 それは何故か。

 答えは日が昇り、鐘の音と共に城壁の門が開いたときに分かる。

 ゆっくりと城門が開き、そこに待ち受けていたのは十数人の竜種の兵士達数名。

 そして勢いよくこちらへ向かってこようとして…全員が動きを止めた。

 視線は2つの国旗に釘付け。

 そして一気に顔色が悪くなる兵士達。

 掲げられているのは国旗であって国旗ではない。

 正確に言えば法国旗・聖人章と言い、国旗と聖人。つまり聖女や聖者が居ますよという証でもあるらしい。

 しかもそれが2カ国。

 凄い事なんだろうな…と思ったら様子がおかしい。

 兵士達がガクガク震えている。

 ああ、この光景知ってるわ。

 下っ端が別組織の親分衆の車に何も知らずに喧嘩を売ってしまったときと同じだ。

 権威とか権力ではなく強大な暴力を前にした覚悟も何もないイキリ三下の状態。

 超絶関わってはいけない2カ国の走鳥車目掛けて突貫しようとした兵士達。

「「へぇ?」」

 それぞれの御者台に座っていた雑務神官達が薄く反応した。

「武器を構えこちらに走り寄るという事は、我々に対して敵意があるという事か?」

「ひいっ!?ちがっ、違いましゅ!」

「俺ッ、自分たちは昨夜美味しそうな食事をしていた奴等を…」

「馬鹿ッ!」

 他の兵士が慌てて仲間の台詞を遮ろうとしたが、それは叶わなかった。

「奴等を?一体その者達をどうするつもりだったのか聞かせて貰いましょうか?」

「えっ!?え、それは…」

 言い淀む兵士に神官は静かに、しかし圧を掛ける。

「どうするつもりだったのかと聞いているのです」

「いえっ!あのっ!我々はそのぉ…へへへ…」

 視線を泳がせ、笑って誤魔化そうとするその兵士に御者台に座っていたもう一人の女性…武装神官がスッと眼を細め、

「疾く答えよ。我等も暇ではない」

 雑務神官とは比べものにならないほどの圧と殺気を叩きつけた。

「捕まえて食材や調理法をはかせようと思っていましたああああっっっ!」

 その瞬間だった。

 カロンカロンカロンカロン

 走鳥車の上につけていた鐘が鳴らされる。

 それが意味するものは…敵の襲来。

「そうかそうか…我々を捕まえて食材や調理法を吐かせようとしたと。そう言うことかぁ!」

 待機していた武装神官が一斉に降り、聖女の正装をしていたアスハロアも馬車を降りた。

 いよいよ洒落にならない事態になったと悟り慌て出す竜種兵士達。

 そして何事かと駆けつけてきた他の兵士達に対してアスハロアが大音声を発した。

「商国は皇法国及び法国を蔑ろにし、聖人職の者を捕まえると…つまりは二国に対して敵対行為を取るという事で宜しいですね?」

 なっ……!?

「まあ、この都市であれば聖女3人で十分ですね」

「法国聖女として、売られた喧嘩は買いますのでご安心を」

 更に姿を現すアマネとイムネの聖女2名。

 3人で都市を陥落させられる?何その戦略兵器。

 しかも竜種やら何やら色々いるのに?

 首をかしげているとラナが察したのか教えてくれた。

 あの神柱島に居る全員がそれぞれの国の中間以上の武力を持った者達で在る事。

 理由は聖人となった際に強くなったと調子に乗らせないため。

 まあ、普通の武装神官がワイバーン倒すんだから調子乗らないと思うんだ。

 皇法国に居るときに他の神官に聞いたらそんなとんでもない事が出来るのは本当に一部の連中異常者だと即答された。

 ───俺、それが基準としか思ってなかったんですが?スタートだっただけに。

 おっと、外が(一方的に)ヒートアップしているからそろそろ止めに入らないと不味い事になる。

 俺が動こうとすると、

「大丈夫です。軽い威嚇ですから」

 ラナがそう言って俺を止めた。

 威嚇?

 周りがとんでもない事になっているのに?

 遺跡ダンジョンレベルで警戒態勢を取り、全員がやる気満々なんだが?

 あと、パールも「いつもとの姿に戻れば良いの?」と目で訴えてくる。

 頼むから抑えてくれ。

 核兵器のボタンで遊んでいるような気分だぞ?あっ、また威嚇した。城門の外にいる人達、腰を抜かして涙目じゃないか。

「そろそろお偉いさんが来るはずだからそれまで待機です」

 なんて迷惑な…

「国旗を掲げた一団に武器を構えて突っ込んできた挙げ句、実はその人達を締め上げてモノを奪おうって思っていたわけですから仕方ないですよ」

 タチカが苦笑しながらそういうが、まあ、そうか。

 国の代表団の列に強盗目的で警官が突っ込んできたら大問題だな。

「あ、我慢出来なくなった奴が居る」

 え?

 兵士の1人が槍を御者をしている雑務神官目掛けて投げつけた。

 恐ろしい早さで投げられた槍だったが…雑務神官にアッサリと弾かれ、更にはその槍を投げた本人に投げ返した。

 そして着弾。

 腹部を貫かれ、何が起きたのかという驚きの表情のまま固まる兵士。

「国として敵対の意思があるという事で、宜しいか?それとも種としての敵対か?」

「───開戦待ったなしじゃないのか?」

「お遊びレベルですよ。私達的には」

 ……まあ、死ね言いながら攻撃してくる神官も居たわけですし…いやいや。

 マズイでしょ!


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