30話 進行、いざダンジョンへ


 ───耳長ウサギの腕は思ったよりも細かった、というか干からびた腕そのものだった。

 違うのは骨がないのと、腕の外側と内側の方に外皮のような薄い膜がある程度。

 どうやら外皮のような膜は軟骨らしい。肉の水分を外に出さないようその軟骨部分が吸い上げ貯えているらしく、コリコリしていて美味しいらしい。

「普段はかなり硬くて岩を殴っても全然傷付かない軟骨なんですけどね」

 軟骨とは…


 準備するものは殆ど無く、買い増した物を自身のストレージに入れるくらいだった。

 白亜の城壁を通り抜け、外へと出る。

「物資の補給を早めにしておいて正解でしたが…騎士団を使えないのが痛いですね」

 アスハロアがため息を吐くが、俺としてはそこまで危機的状況とは思っていない。

「ラナとルイ、そしてアスハロアの実力派分かったわけですし、法国聖女お二人と聖者が居ます。

 それに武装神官も居ますから…下手な部隊よりオーバーキル状態では?」

 俺の台詞に全員が唸る。

「確かに現時点で騎士団要るのかとは思っていましたが…」

「荷物運び要員としてですかね~?」

 アスハロアが結構毒を吐くんだが。

「神子様、こちらが皇法国内の地図とダンジョンの位置になります」

 雑務神官が俺に地図を渡してきた。

「距離的には…一番近いダンジョンまでどれくらいですか?」

「通常走鳥車で2日掛かる南山脈の麓にあるダンジョンが最も近いのですが…どうやらそちらがレステーナ副団長含めた部隊終焉の地との事なので皇法国が総力を挙げて叩き伏せるとの事なので…東へ2日半の商国国境手前にある森のダンジョンを目指したいと思います」

 雑務神官の説明に成る程と頷く。

「進路に関してはお任せします」

「神子様、発言宜しいでしょうか」

 そこでスッと護衛官とよく似た軍服のような物を着た女性、法国聖女のアマネが挙手をした。

「はい。挙手をせずとも自由に発言どうぞ」

「ありがとうございます。現在購入した物資ではおよそ1週間から10日で枯渇すると予想されます。一度商国に入りそのダンジョンの情報収集にあたりその上で挑まれては如何でしょうか」

 アマネの発言は正しい。ダンジョンの情報が足りないという現状では───

「情報はあるのです。ただ、商国側との関係があり攻略を止めていた…というのが現状でして」

 別の雑務神官が申し訳なさそうにそう言ってきた。

「国際情勢問題か…成る程。だから強行してでもそのダンジョンを始末すると」

「「はい」」

 …この雑務神官、皇法国側の人間なんだが…良いのかそれで。

 良いんだろうな…優先順位的にエキメウス以外は俺が上のようだし。

 アスハロアに関しては同等だったようだが、陶芸問題以降俺側に傾き、あの騎士団の件で完全にこちらになったようだしな…

 ちょっとため息を吐く。

「問題無いのであれば先の通りそのまま向かうという事で。自分が買い増しした食料も入れて10日という事ですか?」

「いえ、そちらは神子様の私物ですので」

「いくら何でもこんなに食べきれませんよ…これらの半分はこの一団の共有物という事で」

「しかしそれでは神子様が損を」

「損はしていませんよ~?神子様既に半分を商人に売った事で購入分の金貨を稼いでいますから~」

 アスハロアがそう言うが、それをお前が言うか…

「それも神子様の利益だ。従って───」

「権利を主張してくれるのはありがたいけど、自分が皆と共有したいんだ。分かってくれるかな、アマネ」

「っ!はい!」

 アマネが一瞬言葉に詰まりすぐに返事をして後ろに下がった。

 それであれはどれだけ保つんだろうか…

「もしそれらを合わせたら何日くらい保つかな?」

 雑務神官に聞くと10日から13日との回答だった。

 まあ、この人数だしな…と思ったら、飲み水とドライフルーツ関係での問題らしい。

 何でもタイミング悪くドライフルーツや野菜関係の輸入が少し遅れていたという。

 まあ、皇法国にとっては助かる話だろうけど。水はそこまで問題無いのでは?と思ったが、ダンジョン内で数日となると話が変わってくるらしい。

「こちらのダンジョンは踏破まで2日は掛かりませんが、安全を考慮するとどうしても…」

 と、少し言いにくそうな様子。

 あ、はい。俺が足手まといッスね。

「この辺りのモンスターや獣を狩って食料としながら進めば良いのでは?」

 えっ?

 全員がその声の方を向く。

 そこに居たのはアマネと同じ法国聖女のイムネだった。

「いえ、野営をするのであればその時にでも食材を現地調達すれば問題無いのでは?」

「部隊規模なのでありと言えばありですね~」

 アスハロアも頷く。

「私とアマネ、タチと武装神官数名で野営時に狩りを「私も主様のために狩りをします」…という事で」

 竜族のパールもやる気だ。

「……これ、周辺全て狩り尽くされるまで食料に問題無いのでは?」

 俺の呟きに雑務神官含めほぼ全員が頷いた。

 考えてみたらパールに竜化してもらい物資輸送お願いすれば完結しそうじゃね?

「パールも頼りになるなぁ」

 そう呟いたら凄く嬉しそうな笑顔で俺に抱きついてきた。


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