27話 脱出、準備段階…のはずが


 結局午後4時までこの状態は続き、途中戻って来たラナに金貨5枚を渡して追加で買えるだけの食料と水をお願いしたら、

「水は問題無いのでは?出せますし」

 と言われたのだが、念のため水も数日の飲料分確保をお願いしておいた。

 買い出しの終了と勉強会の終了がほぼ同時だったのは…狙っての事なのだろう。

 所感も含め今日の報告書に記載しておこう。


 食後、全体での打ち合わせをするとやはりここでの逗留引き延ばしをエキメウスから提案された。

 ただ、それには皇法国側からも当初の予定を皇法国こちらの不手際などで超過している、と反対が上がった。

 中には「むしろ神子様に強いている結果となっている」との意見まで出たがそれすらエキメウスたちによって黙殺された。

「───貴方がた皇法国は神子様をこの地に閉じ込めるおつもりか!?」

「神は神子を守れと仰ったのですよ?」

「言葉を間違えるな!「時がくるまで自由にさせよ、だが、守れ」だ!」

 法国の武装神官が吠える。が、エキメウスが涼しい顔だ。

「この国の中で自由にさせているではありませんか」

「神が神子に与えたオーダーを無視するおつもりか?」

「それは我々には示されておりませんので」

 どう言われてものらりくらりと言い逃れるエキメウスと恐らくその派閥達。

「何かあっても貴方がただけの解釈が違っていた…で罰が下っても最小限に済ますおつもりでしょうが…この暴挙、国が認めたと看做しても?」

「いえいえ、これはあくまでも私達の提案ですから」

「今日の勉強会、神子に食事すら与えずひたすら学者達の餌食にした事も提案の結果という事ですか」

「ああ、あれは貴方がた護衛が止めると思ったのですが…私もこちらにいる間は何かと忙しいので早々に離席してしまいましたので」

「時間直前の離席でしたね。約束の10時になる2分前にソッと席を立ちましたし」

 俺の言葉にピクリと反応する。

「それにこちらには何も言わず出られた。すぐに戻ってくると思い待っていたのですが…1時間待っても戻ってこない。更には学務派の目付役すら置かずどう止めろと?殴って止めてもそちらは何も言わなかったという見解で良かったのですか?」

「それは「更に、正午の鐘が鳴っても食事を知らせる者は来なかった…と言う事はそもそも食事を用意していない事になる。

 この国に来て自分はろくな休息を与えられていない。これで体調を崩し倒れた場合、この国はどう言うんですかね?」っ、」

 食事を知らせる係員が居るのは確認していた。と言うかそれは世話係だ。

 が、その係員も11時50分頃には講堂から出て行きそのまま戻らなかった。

 ジッと見ていたから分かる。

 目を逸らし逃げるように出ていったから誰かの指示だろう。

「エキメウスおよび世話係への信頼は一切ありませんし、この国に対しては不信感しか感じていません」

 俺はそうハッキリと言い切ったその時、鐘の音が響き渡った。



 教皇はいつもの日課の通り政務を熟し、その合間の祈りを行おうとした時だった。

 あの竜族を裁いたときと同じ鐘の音が聞こえた。

 神託の音ではなく、裁きの鐘の音。

 そして聞こえた神託に教皇は震えた。

『神を愚弄せし皇法国よ、汝等の神子に対する態度は良く分かった。それは即ち私の顔に唾吐く事と理解しての行為…汝等の土地に恵みを与えず、汝等は神子に対し行った万倍の飢えと渇きに苦しむが良い』

 何が、起きている?いや、襲撃はあった者ものの神子様は手厚く扱い、今も予定準備に取りかかっていると聞いていたが…

「どういう事ですか!?教補、参事!貴方がたは私に偽りを伝えていたというのですか!?」

 教皇の叫びにも似た声に隣室で待機していた補佐2名が執務室へ飛び込んできた。

「いえ!確かに神子様は教導に励まれているとの連絡を」

「私めもそのように伺っております」

 2人は教皇の前で膝を突き口々にそう告げる。

「それは誰からですか?」

「エキメウスからです」

「…私は神子様の世話係からです」

 教補と参事が答える。

「……世話係は誰の指示で任命されたのですか?」

「エキメウスです」

「あの者の頭の硬さと視野の狭さは貴方がたも分かっていたでしょう!恐らくこの国のためと言いその時思いついたような自分勝手な行動を取っているのです!彼を中位より上に上げぬのはそういった意味があるのに、何故…」

「恐らく彼が神子随伴役という役目を受けたため周囲が忖度したのかと」

 教補の台詞に教皇はジロリと睨む。

「その忖度の結果がこれですよ…神託では神子は余り飲み食いをさせてもらってない様子。恐らくそれだけではないでしょう…エキメウスはその場の対処に優れ武力もあるが、先の先…更にその先を読む能力は全くない」

 教皇は諦めたように呟く。

「どうしようもありません。エキメウス1人、いやその取り巻き含め彼等だけの問題ではなくなりました。ただ、今すぐに情報を集めなさい。我々の周辺で情報を遮断している者達が居たはずです。そのもの達も捕まえなさい」

 教皇の指示に2人は急ぎ執務室を出て行った。

「…そう言えば教補、貴方もエキメウスを後押ししていましたね…有能な無能、それがエキメウスの評定だったのに…姉上は何故奴を送り出した…」

 扉が閉まったあと、教皇はポツリとそう呟き息を吐いた。


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