26話 教授、ただし俺が教える側という…俺に教えろ!


 3素についてや詠唱関連について、神柱島での話を踏まえ真っ当な学務派中心に教えることとなった。

 これには事情がある。

 あのレステーナ副団長の偽物、ダンジョン関連資料を全て破損もしくは書き換えを行っていた。

 時には団長権限を使い稀少本を閲覧…と見せかけ中身を全て何らかの手段で白紙化にするなど破壊工作を取っていた。

 慌てた上層部が全職員を検査すると他にも6名出て来た。

 この6人は重要なポストには居なかったものの、彼等が行動に移れば間違いなくとんでもない事になっていた。

 すぐに法国側にも連絡を入れたらしいが…あちらは基本国自体が4層構造で、儀式法を使えないと3層の一般神官層にすら入ることができないとのこと。

 理由は度々流れ弾があるから…という色々恐ろしい内容だった。

 しかも3層に入る際に実際使えるか、運命値に余裕があるかも確認されるという徹底ぶり。

 それを聞いた皇法国の方々はというと、

「うちもそうしようか」

「流れ弾、良くあるしなぁ」

「この前左半身吹き飛ばされましたよ」

「それ治したの俺だよ」

「お前が吹き飛ばした犯人だろうが!」

 ───などとにこやかに修羅っぷりを発揮していた。


 話を戻すが、皇法国はダンジョンからの刺客によって色々マズイ状態になっている事が分かり、更にはその危険性もアナウンスしなければならないというとんでもない事態に陥っていた。

 何よりも今回は治安担当の第3騎士団でありいずれは騎士総長になれるのではないかと言われていたレステーナ副団長が既に亡き者となり、その偽物が皇国内を闊歩していた事に問題があった。

 ダンジョン攻略にブレーキが掛かったのだ。

 俺らと共にダンジョン攻略に向かう騎士団は第2だが、第3騎士団の団長及び副団長が不在という事態に内部の見直しが急務となったのだから仕方ない。

 そしてその空いた時間に情報収集を…と思ったら学務派の真っ当な連中懐柔のために勉強会をと…いう事で冒頭の話に繋がるわけだ。

 だからといって何故俺?

「神子様…貴方以外その3素を目に見える形で現すことができ、意思疎通もできる人間が何処にいますか?」

「頑張ってください」

「すぐには無理です」

「…どれくらい掛かりそうですか?」

「部隊再編成に2日は掛かります」

 結局か…仕方ない。

 と、

「講師時間は午前2時間午後2時間で1日のみ。神子様をこれ以上こき使うな」

「そうですよ~これ以前に色々やらかした負い目もありますからね~」

 ラナとアスハロアが待ったを掛けた

 あの事件以降、女性陣が俺に対して過保護になっている気がする。

 男性陣が厳しいというわけでは決して無いが、皇法国男性陣は自身の国のことでもある以上やはり気が気では無いのだろう。

「神子様、通行許可証等は既に頂いておりますのでここは騎士団を待たずに先行するというのは如何でしょうか」

 ルイがそんな提案をしてきた。

「分かりました!分かりましたから…1日だけ、それでよろしくお願いします」

 結局エキメウスが折れ(恐らく元々妥当な線はこの辺りだろう)、明日1日俺は講師役。護衛官以外は物資の調達と言うことで話はまとまった。

 ハズだった。


 現在翌日の午前11時。

 8時から始まった勉強会は白熱している。

 元々10時に終わる予定が現在11時。

 恐らくノンストップで午後の勉強会まで行くんだろうな…とちょっと遠い目をしてしまう。

 あと懸念事項が…

 ルイとラナが静かにキレている。

 元々学者含め興味のある人がこんな美味しそうな餌を前にしたらどうなるか…薄々分かってはいたが、10時直前にエキメウスがソッと席を立った時点で「ああ、こいつ謀ったな」と確信した。

 だが、これは酷い。

 徹頭徹尾この国の利になる事しか考えていない。

 その方向に対しての思い込みが激しいのだろう。

 直近の事には思考を張り巡らせてはいるが、長期的な部分が抜けているように思える。

「神子様。これは明らかな違反行為です」

「今すぐこの国を出ましょう」

 2人はそう言ってくるが、実際問題そうも行かない。が、相応の礼をすれば問題無いと考えているのだろう。

「商国について何か知っていますか?」

 2人に問う。

「多少であれば自分が」

 ルイが頷く。

「商国から大陸を渡る船は?」

「ありますが…かなり割高で、また渡航成功率も6割となっていますので」

「竜族のパールや法国の神官がいてもですか?」

「それがあって8割あれば良い方かと」

「十分です。ただこれはサブプランという事で…午後の勉強会が終わり次第出立します。皇法国側で信頼していい方には伝えてください」

「…では私がメンバーに連絡を」

 ラナがそう言うと姿を消した。

「ただ恐らくこれもヤツの想定内でしょうね」

 ルイがため息交じりに呟く。

 十中八九そうだろう。ただ、その事を甘く見ている。

「報告書は既に上へ上げています。竜族の件は独断で行ったためにそれぞれに罰が下された…なんて甘い結論を下していたら死んでも死にきれないほど後悔すると思いますが」

「神子様?」

「神は個別を見ていません。人を特別視もしていません。恐らくこのやらかしは国全体に及ぶでしょうが…最悪、この数日の比ではないくらいに荒れますよ」

 そんな話をしている中、正午を知らせる鐘が鳴った。

 ただ、やはり勉強会は終わらなかった。


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