08話 交渉、意思疎通が出来るのなら


 両掌を上にし、黒紫の球と白金の球を押し出す。

「相談があります」

 俺がそう言うと2つの球は浮き沈みを起こす。

 ───意思疎通できてますやん…

「Yesなら上下にNoなら左右に。分からないもしくは無回答は前後に揺れて欲しい」

 両方とも上下に揺れた。

「貴方がたは別の存在?それとも属性があるだけの単一存在?」

 両方とも前後に揺れている。

「質問が悪かった。貴方がたは一対もしくは三位一体の存在?」

 上下に揺れている。

 全部もしくはどれかとセットという事か?

「次の質問だ。貴方がたに神以外上司は存在する?」

 両方とも左右に揺れている。

 大精霊とか上位存在は神しか居ないって事か?

「次。術式構築の際に消費量等を音声と動作の両方で指定できるか?」

 俺の言葉に両方の球はグルグルと回転し出す。

 待つこと数分。

 両方とも同時に上下に揺れた。

 そっかーできるのかー…どうしよう。今考えることじゃないな。

「わかった。質問に答えてくれてありがとう。決まり次第お願いするよ」

 そう言うと2つの球体は俺の掌の中へと戻っていった。

 ───いや、そこが君達の基本ポジションなのか?

 ため息を吐き顔を上げる。

 と、全員が無言でこちらを見ていた。

「ああ、話し合いは終わりましたか?」

「いえあの、神子様?話し合い以上に今ちょっと話し合いどころか学術史が破壊されるようなことが起きていたのですが?」

 えっ?いつの間にそんな事が…って、今のかぁ…

「王国は大精霊が守護していると彼等は言っていましたが、それが間違いであると」

「いえ、そう断定は出来ません。なぜなら今対話をしたのは儀式法関係者と魔技法関係者…と言って良いのかなんですが、それらなので自然法側には別の取り決めがあるかも知れません」

「まあ、やりとり以前にここまで見える状態というのも初めてですから望みすぎでしょう」

 神官長がそう言って頷くと、全員納得したように頷き返した。

「確かに、急ぎすぎました」

「目の前に答えがあると興奮しすぎて解き明かす楽しみを忘れてしまいました」

「学務棟へ緊急連絡を二教合同で来るようにと…彼奴ら調べ尽くしたと言うてこれだからな…」

「鍛えるだけの脳筋共と言われましたからね…頭だけの穀潰しと言い返してやりましょうか…」

「「フフフフフ…」」

「「すぐに呼んで参りますっ!」」

 さっきまで喧嘩していた神官方が血相変えて走り去っていった。

 ただの恨み骨髄に徹した人が漸くザマァ出来ると笑みを浮かべているってだけじゃないか。


 その人達は十数分後に来た。

 インテリマッチョの集団が。

 ただ、神官長の「チッ、見せ筋集団が…使えん筋肉に何の意味がある」と低い声で呟くのが聞こえた。

「神官長、我々は貴方がたみたいに暇ではありません。神学の最奥を求めるのに忙しいので」

 眼鏡をキランと光らせそう言ってくる七三見せ筋神官。

「ハッ、神学の最奥以前の問題だ。魔技法の深淵どころか触りすら解明できなかったくせに何を偉そうに」

 神官長が煽る煽る。

 七三見せ筋神官の表情が憤怒の顔になった。

「エベリート貴様!魔技法なんぞ枯れた技術を今更持ち出して喧嘩を売っているのか!?」

 ───んんっ?神官長のお婆さんと同等かそれよりも上の人?種族が違う?

「ハッ!だったらそのご自慢の知恵と力でうちの神官の魔技法を止めてみせな!」

「神官長、どれほどの力で…」

「20%でやりな。それくらいでなければ奴は納得しない。焼き尽くせ」

「はっ!」

 うっわ…殺意高ぁ…

 2人は訓練場の中央に立ち、底から互いに3歩下がる。

「さあ、私の結界を破れるも「──ァ死ねぇぇぇ!!」」

 リュウ神官が炎の槍を全力で七三見せ筋神官へと投擲した。

 さっきの殺し合いの時の数倍殺意高いんだけど、どういう事?

「っ!!?」

 結界が軋みをあげ数秒と経たず砕け散り、着弾点に火柱が上がった。

「ッシャアアアッ!まずは一殺!」

「ご自慢の結界(木製)は大層頑張ったなぁ!」

「でかした!」

「ええ、ええ…ザマァ」

 驚愕の表情を浮かべる学務棟の神官方に対し、罵声を浴びせたり嗜虐的な笑みを浮かべる神官達…いやマジここ世紀末過ぎん?

 我に返った学務棟神官の1人が慌てて七三見せ筋神官を蘇生する。

「…まさか、あんなにもあっけなく破るとは。貴様ら、何をした!」

「ああん?教えてくださいお願いしますダルォ!?無駄飯喰らいが人を下に見て言いたい放題だったくせに!」

 神官長…本当にどれだけ闇抱えていたんですか。

 しかも全員頷いて居るあたり、法国、皇法国共に学務棟と対立しているとか…?

 いやそれよりも神職者って全部こんな感じの世界なのかぁ…

「まだだ!他の属性では出来ないに違いない!」

「なら儀式法でやってやりな」

「応ッ!」

「なにっ!?」

「───っ、これが俺らの、怒りの拳だあああああっっ!」

「ッ結界!」

 七三見せ筋神官は慌てて結界を張るも拳によって一瞬で粉砕され、肉塊となった。

 哀れ七三。マジでこれまで何をしていたらこんなにもヘイトを…

 また慌てて蘇生を行う学務棟神官。

 なんか、ゴメン。でも、きっと因果応報なんだと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る