霰石

 目を閉じ、石に耳を近付けてみた。

 縁日の喧騒がほんの少しだけ遠ざかり、石の中からパラパラと、音が聞こえた。

 これは霰石と言うんだと、石屋の屋台で店番をしていたお兄さんが教えてくれた。

 他の屋台では、威勢のいい掛け声が響いていたが、この石屋の屋台だけは物静かで、まるで別の世界のようだった。

 屋台の中には入口以外の三方に棚が設けられていて、名前も知らない石がズラリと並べられている。どれも均一に五百円で、その中に例の霰石があったのだ。

 それを指さしたのは、最も手近にあった石だから。あまり遠くのものを指さしたらお兄さんが大変だという思いが働いたのは、幼い子どもながら殊勝なことだったと思う。

 石の中に雲が入り込んで、霰を降らすんだと、お兄さんは説明してくれた。実際に石の中から聞こえるパラパラという音が、そんな荒唐無稽な説明に妙な説得力を与えていた。

 親からもらった小遣いで、私はその霰石を買った。大切にするとお兄さんと約束した。

 霰石は一週間後、悪戯な弟が割った。

 泣きながら、二つに割れ、音も消えた霰石を見たが、中には何も入っていなかった。

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