第67話 旅行先では油断してはならない



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー良い天気ですネ!」


「そうだなぁ」



 ソフィアの言う通り、今日は良い天気だ。

 そんな雲一つ無い青空の下で元装甲機動車である〈試作魔甲機動車〉を走らせていた。

 主に俺の異能〈錬金竜〉の能力によって生成した〈神秘金属メルクリウス〉を使って改良された機動車が、軽快な走りで国道を進んでいく。

 軽油が燃料であるディーゼル車から、電気が燃料の電気自動車へと造り替えられている上に、メルクリウスを経由することでアーティファクト〈黒金雷掌ヤルングレイプ〉の銀雷で充電することが可能になっている。

 久しぶりの今回の遠出の目的の一つは、この試作車両の試運転である。


 放置車両や瓦礫などを避けたりしながら進む目的地は、拠点である新都エリアを東に暫く進んだところにある沿岸部だ。

 沿岸部に向かう目的は、世界変革から半年以上経った現在の海鮮食材や海水、沿岸部の治安などの現地調査になる。

 だが、そういった現地調査はあくまでもオマケであり、実際のところは休暇目的での遠出だ。

 新都エリアでの諸々のプロジェクトが一先ず落ち着いたので、臨時政府から数日間の自由行動許可をもぎ取ってきた。

 貴重なAランク超人なのもあって部隊員であるソフィアとシオンも連れていくのが条件だったが、そこは別に構わないので受け入れた次第だ。



「お兄さん、凄くダラけてますネ」


「久しぶりの纏った休みだからな。運転を交代するまでは全力でダラけるぞ」


「少し前まで家でゴロゴロしてましたよネ?」


「その後のウサギゲート周りの整備に駆り出されていたからな。その疲れを癒しているんだよ」



 新都エリアの管理下にあるウサギ系モンスターを定期的に掃き出す黄色ゲートは、住民達からは〈ウサギゲート〉と呼称されている。

 食料不足と人材不足の解決へと繋がるウサギゲートを管理下に置くための作業は、ここ最近まで昼夜問わず行われた。

 他の勢力組織に気付かれる前に防備を固める必要があったので急ピッチで進められたが、その甲斐もあって先日、ウサギゲートを内側に内包するための新都エリアの拡張工事は終了した。

 超人達の重機ばりの身体性能と各種能力の高さを再確認した拡張工事も終わり、現在は一先ずの安全が確保されたウサギゲート周りの土地や拡張された区画の建設作業が行われている。


 この建設作業は急ぎではないので、新都エリアの拡張工事の時とは違って、俺のような超人化してから長いベテラン超人達は作業に駆り出されていない。

 現状では手に職をつけていない非超人の一般人や、ほぼ一般人並みの力しかない低ランクの超人達が普通の重機などを使い、作業員として従事している。

 俺達のようなベテラン超人が作業を行えば早期に終わるだろう。

 だが、ベテラン超人達以外の者達にも仕事を用意する必要がある、と言う神凪大臣の言葉も尤もなので、少し不安ではあるが一般勢に任せることになった。

 


「まぁ、作業を任せられるだけの人手がいるおかげで自由時間が取れたんだから、良いことだよな」

 

「工事のこと?」



 運転席のシオンの言葉に頷きを返す。

 後部座席で寝転がりながら更に言葉を続ける。



「ああ。作業員が一般人と一般人並みの超人ばかりで不安だけど、この休暇もある意味彼らの存在のおかげだから感謝しているんだよ」


「まぁ、そうよね。働く人が多ければ、それだけ自由な時間が取れるのは当然よね」


「人が増えれば休みも増える、か。新都エリア店では一緒に働いてくれる超人を募集中でーす」


「ウサギゲートがあるから、すぐに新人超人も成長して戦力になってくれるわよ」


「だと良いんだけどな」



 俺の負担が減って自由行動時間が増えるようになるのは、一体いつになることやら。



「んー、確か新都に他の勢力を吸収するのは、一先ずもう終わったんですよネ?」


「ええ。比較的まともな、つまり善良な勢力を新都の民として招く事業は終わったわ。今確認できている残りの勢力を吸収するのはデメリットが大きいの」


「そうなんですカ?」


「カルト宗教グループや反社グループ、元軍人グループ、不良グループとか色々いるみたいよ」


「世界変革から半年経った今も生き残っているだけあって、どの集団もそれなりの規模らしいぞ」


「そうなんですネ。じゃあ、今近付いてきているのは、その何処かの勢力なんでしょうカ?」


「おそらくな」



 〈超感覚〉による索敵に引っかかている複数の気配にソフィアも気付いていたようだ。

 走行中の車との距離を徐々に詰めていることから、相手側も何かしらの移動手段を使っているのだろう。

 敵意はビンビン感じているので、取り敢えず迎撃するとしようか。



 

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