第62話 モンスターの攻略情報が欲しい今日この頃
◆◇◆◇◆◇
「ーーつまり、根の柱を切り倒したことが原因で大樹モンスターが動き出したってことか?」
「おそらくね。タイミング的にはあってるわ」
シオンが後衛の超人達から聞いてきた話を要約するとそうなるようだ。
屋外待機組が通信に出れなかったのは、大樹モンスターが動き出した際の攻撃によって、通信機を持っていた彼らのリーダーが吹き飛ばされたかららしい。
そのリーダーは大樹モンスターにほど近い場所で気絶しており、まだ生きている彼に敵が注意を向けさせないためにも攻撃を止められないんだとか。
救出しようにも大樹モンスターとの距離が近くて、敵の攻撃が降り注ぐ中を無事にリーダーを回収してこれるか不安があって悩んでいたところに俺達がやってきたそうだ。
「んで、俺に行ってこいと」
「適材適所よ。マインの防御力ならあの程度の攻撃はノーダメージでしょう?」
「まぁ、そうだけど。でも、俺が行かなくても大丈夫だぞ」
「どういうこと?」
「こういうことだ」
離れたところへ救出した屋内突入組の一グループの者達を下ろしたばかりのメルクリウス製大蛇に手を翳す。
すると、メルクリウス製大蛇が大蛇形態から大玉形態へと変化した。
その大玉をリーダーが倒れている場所へと転がらせて移動させる。
「アレに連れて来させるのね?」
「イメージは危険地帯で救助活動を行なう無人ロボットだ」
「まぁ、概ね間違ってはいないわね」
敵味方の攻撃が飛び交う中を転がっていった金属大玉が、倒れ伏しているリーダーの元に辿り着いた。
〈使役〉による思念的な繋がりを通して追加の指示を出して、形状を球体形態から蜘蛛形態へと変化させる。
金属大玉から金属大蜘蛛となった〈
足元の金属大蜘蛛の存在に気付いた大樹モンスターが葉っぱ弾丸を放ってきたので、背中のリーダーを覆うようにドームを構築して守らせる。
大量の葉っぱ弾丸が全身に着弾したが、メルクリウス製の大蜘蛛のボディには傷一つ付くことはなく、動きが阻害されることもなく俺達の元まで戻ってきた。
「……これでよく使い道がないなんて思ったわね?」
「平時では使い道はないだろ?」
「あるわよ」
「マジか」
「まぁ、その辺は後で話すとして、外の大樹部分が暴れ出したなら慎重に行動する必要もなさそうね」
確かに、こうなってしまった以上は当初予定していた動きは出来ないだろうな。
慎重に動くよりは大胆に動いたほうがいいかもしれない。
「そうだな。まだ屋内にいるグループを撤退させるか?」
「もう一つ見つかった根の柱は排除した方が良さそうだけど……まぁ、安全第一ということで撤退するよう伝えるわね」
「そうしてくれ。よし、特攻せよ、平蜘蛛くん!」
屋内突入組に撤退するようシオンに伝えてもらう間に、手元で待機しているメルクリウス製大蜘蛛を〈平蜘蛛くん〉と名付けてから再び大樹モンスターへと接近させる。
慎重に事を進める必要がなくなったならば、試してみたかったメルクリウス爆弾の威力の検証を行なうことにした。
〈錬金鎧〉の時のメルクリウスですら暫定Aランクの敵性超人〈グルメ〉を爆殺できるほどの威力があった。
そこから進化して〈錬金竜〉となった今のメルクリウスの威力が、一体どれほどのモノになったか気になるのは当然のことだろう。
平蜘蛛くんが堂々とした歩みで大樹モンスターへと近付いていく。
その姿に何かを感じ取ったのか、大樹モンスターの攻撃が平蜘蛛くんに集中する。
蔓や細い根が伸びてきて平蜘蛛くんを強引に止めようとするが、金属ボディの全身から発せられた〈双炎掌〉の炎がそれら全ての拘束を燃やし尽くし、そして振り切ってから進み続けていった。
「屋内にいるグループが外に向かって移動を開始したから、彼らが脱出するまで爆発は待ってね」
「分かってるとも」
大樹モンスターの足元に到着した平蜘蛛くんが、敵の下部と一体化している管理用の建物の壁を登っていく。
どの辺で爆発させるべきか悩んだが、大樹モンスターの上部辺りに顔っぽい穴が空いているのが見えるので其処を目指すとしよう。
攻撃を中止した屋外待機組とソフィアも、俺とシオンと同じように平蜘蛛くんの動きを目で追っている。
こうして見ると、金属ボディであるからか、メルクリウス製擬似モンスターの移動スピードは速くはない。
まぁ、速くはないとは言っても、非超人の一般人が走るぐらいの速さはありそうだが、超人とモンスターの溢れる今の世界では少し遅いぐらいの速さだ。
大蜘蛛形態から狼形態とか速そうな形態に変えれば多少スピードは上がりそうだが、ほぼ垂直の壁を登る場合は今の形態が最適だろう。
形態ごとのスピードの比較はそのうちやるべきかな?
「……来たか」
「ええ。聞いていた人数は全員無事に脱出したみたいね」
「平蜘蛛くんもちょうど到着したし爆発させるぞ?」
「ええ。爆発するわよ! 全員その場で伏せて!」
シオンの警告に従って脱出してきた者達も含めて俺以外の全員が地面に伏せた。
そのことを周囲の気配の動きで察すると、平蜘蛛くんに〈肉片爆発〉を発動させた。
直後、一般的な成人男性以上の質量を持つ平蜘蛛くんが強烈な光を発すると、夜の大気を轟かせるほどの爆音を鳴り響かせながら大爆発した。
〈錬金竜〉で自分の肉体を金属竜鎧化させてから、大爆発で発生した衝撃波と轟音を全身で受け止めつつ、平蜘蛛くんによる戦果を確認する。
大樹モンスターの上部で起きた大爆発は、顔っぽい穴を大きく上回るサイズの巨大な穴を作り出していた。
かろうじて折れていないというレベルの大穴であり、あと少しダメージを与えたらモンスターの大樹の身体が真っ二つに折れそうだ。
爆発の破壊力とその範囲は、グルメ戦の頃とは比較にならないほどに上がっていた。
「もうちょっとかな。それッ!」
手元に生み出したメルクリウス製ボールを〈怪力〉も使って大樹モンスターへと遠投すると、先ほどの爆発部分の辺りに届いたメルクリウス製ボールを爆発させた。
すると、爆発音の後にメキメキと木がへし折れるような音が大樹モンスターから聞こえてきた。
「……折れたわね」
「折れましたネ」
シオンの言葉に続いて、いつの間にか近くに来ていたソフィアも目の前で起こっている光景について同じ感想を漏らしていた。
「今のマインなら一人で巨大モンスターを倒せるみたいね」
「まだ倒せたとは限らないぞ」
「……いえ、たぶん倒せたわよ。感じられる気配も魔力も急激に低下していってるもの」
「まだ重要そうな根の柱は残ってるんだろ?」
「脱出寸前に破壊できたそうよ」
「あ、そうなんだ。ということは屋内にあった根の柱が心臓みたいな役割だったのかな?」
「単純にお兄さんの爆発が致命的だったんじゃないですカ? もしくはあの顔みたいなところが弱点だったのかもしれませんネ」
「……ま、倒せたからいいか」
事前に屋内組と屋外組の両方でダメージを与えていたのも理由かもしれないしな。
現実ではゲームやマンガみたいに、敵を倒せた理由を第三者やら何やらが親切丁寧に教えてくれたりしないから困ったものだ。
また同じ大樹モンスターに遭遇したら少しは分かるだろうか……まぁ、その時には俺も今以上に強くなっているから、それはそれで比較が難しくなっていそうだな。
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