第61話 相性って大事という話



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー連絡が付かない?」


「ええ。繋がってはいるけど応答がないわね」



 管理用の建物の外へと移動を開始してすぐにシオンに屋外待機組のグループに連絡を取ってもらったのだが、どうやら反応がないらしい。

 屋外待機組も含めた各グループにはそれぞれ通信機を持たせてあるが、数に余裕はないのでグループごとに一つずつだ。

 その唯一の通信機を持っていた者がモンスターにやられて、通信機を回収する間も無く他のメンバーもやられたら応答はないだろうな。



「死んだか」


「他のグループには連絡はつくのデス?」


「そうね、試しておいたほうがいいわね。ついでにさっさの空間にいた柱の情報も報告しておくわ」



 シオンが屋内突入組の残る二つのグループに連絡を取っているのを聞きつつ、行きにも通った廊下を歩いていく。

 〈地形操作〉で埋めた穴も埋まったままだし、〈超感覚〉で探ってみても近くにモンスターの気配は感じられないのでこの辺りは安全のようだ。

 今のうちに魔力を補給しておくとしよう。



「黒ミノタウルスの肉ですカ?」


「ああ。魔力を結構使ったからな」



 〈空間保環レア〉の〈亜空間保管庫〉からジューシーな黒ミノタウルスの肉串を取り出して食べる。

 ボスモンスターである黒ミノタウルスの肉に含まれている魔力を取り込み、戦闘で消費した体内魔力を回復していく。

 夜食にしては重いが、魔力だけでなく体力も消耗して空腹感を覚えていたため非常に美味い。

 空腹は最高のスパイスとはこのことだな。



「……」


「……ほれ」


「ありがとうございマス!」



 ソフィアからの物欲しげな無言の圧に屈し、新たな黒ミノタウルスの肉串を一本取り出して手渡した。

 まぁ、まだまだ黒ミノタウルスの肉はあるからいいか。



「人が他所と連絡を取り合ってるのに楽しそうね?」


「シオンも食べるか?」


「本当にマイペースね。勿論食べるけど」



 更に肉串を一本取り出してシオンに手渡す。

 


「んで、状況は?」


「私達と屋内に突入した他のグループは全員無事よ。やられたのはこのグループだけみたいね。一つのグループは私達と同じような空間に出たそうだけど、そこにも根の柱が空間の中央に聳え立っているそうよ。現在戦闘中みたいね」



 屋内突入組の四グループ中、一つは廊下でやられて、二つは根の柱と遭遇、残る一つは特筆することはなし、ってところか。



「援軍は?」


「いらないって。情報は与えたし、後は任せましょう」


「そうだな。屋内組には連絡がついたなら、やっぱり屋外組は全滅か?」


「戦闘中で出れないというパターンもありマス」


「それもあるわね。通信に出れないほどとなると、かなりの激戦だろうけど」



 通信機を持っていたやつが倒れて、他の奴らが回収できずにいる可能性もあるだろうな。

 まぁ、どちらにせよ激戦or全滅な状況か。


 そのまま暫く歩き続けていると、救出した味方の超人達を背中に乗せて横を這いずるメルクリウス製大蛇の音以外にも音が聞こえてきた。

 聞こえてくるのは進行方向先の屋外からで、音の感じからして戦闘音だと思われる。



「通信に出れないパターンだったか」


「急ぎましょう」


「ハイ!」



 駆け足で出入り口へと向かい外に出る。

 そこでは、屋内突入前の時にはなかった太い枝を振り回す攻撃や、枝から生える葉っぱを弾丸のように放つ攻撃を仕掛けてくる大樹モンスターと戦っている屋外待機組の姿があった。

 人数は多少減っているが意外と善戦している。

 特に先行量産されたマジックアイテムであるグレイヴ型の〈MAI-GR01 ラーミナ壱式〉が結構活躍しているように見える。

 振り下ろされてきた枝による攻撃を回避した後も、その攻撃に使われた枝を危なげなく斬り落としていた。

 この大樹モンスターのような自分よりも巨大な相手にリーチの長い武器は有効のようだ。


 前衛で戦っている三人の超人達がラーミナを振るうと、〈衝撃刃〉が発動して飛ぶ斬撃が放たれる。

 大樹モンスターから放たれた葉っぱ弾丸の弾幕と上空で衝突し、その鋭利な葉っぱを切り裂いていった。

 更にその際に発生した衝撃波が周囲に撒き散らされ、他の葉っぱ弾丸も吹き飛ばしていた。

 結果、葉っぱ弾丸は一つも屋外待機組に着弾することはなく、逆に後衛にいる属性放射系の遠距離能力持ち達の攻撃が大樹モンスターに着弾していく。

 遠距離攻撃が当たるたびに大樹モンスターは震えており、あの反応はおそらくダメージを受けていることを意味しているのだろう。



「大丈夫そうだし、俺達はこのまま観戦でいいかな」


「良いわけないでしょう。話を聞いてくるから、二人も攻撃に参加していてちょうだい」


「了解」


「分かりマシタ」



 後衛の方に駆けていくシオンを見送ると、俺とソフィアは前衛の近くに移動してから攻撃に参加した。

 〈黒金雷掌ヤルングレイプ〉の〈雷光〉を応用した〈雷光剣〉で大樹モンスターを両断出来るかは気になるが、大樹モンスターは根の柱とは比較にならないほどに太い幹をしている。

 両断するまでにかかる魔力消費量も尋常ではないだろうし、ヤルングレイプは少し不向きかな。



「ムラマサも不向きだし、俺もグレイヴにしとくか」



 手に持っていた〈解体鬼剣ムラマサ〉をレアに収納すると、代わりにラーミナの元になった〈アラドヴァル〉を取り出した。

 〈魔力操作〉と〈使役〉を使用してからアラドヴァルを振るうと、アラドヴァルの素材に使われている〈神秘金属メルクリウス〉の形状が変化し、まるで鞭のようにしなりながら先端の剣刃が伸びていった。

 一気に伸長した剣刃が大樹モンスターの幹を斬り裂き、メルクリウスを素材にしたことによるアラドヴァルの能力〈能力同期〉で〈双炎掌〉を発動させた。

 〈双炎掌〉の弱体化効果を持つ蒼紫色の炎が剣刃の斬撃痕に沿って大樹モンスターに着火したことで、大樹モンスターが苦しむように暴れだす。

 大樹モンスターの弱点属性と思われる炎だけでも十分だろうが、その炎に弱体化効果があれば今の状況にはかなり有効のはずだ。


 アラドヴァルが〈錬金竜〉のメルクリウス製になったことと、〈魔力操作〉〈使役〉の能力の存在によってアラドヴァルによる伸縮自在の剣鞭攻撃が可能になった。

 この剣鞭攻撃も初お披露目だったのでソフィア達が驚いているが、今は攻撃に集中してもらいたいものだ。

 雷光剣よりも超低燃費な剣鞭攻撃と〈双炎掌〉のコンボを連発して、大樹モンスターに確実にダメージを与えていった。




 

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