第59話 どちらにも長所と短所がある
◆◇◆◇◆◇
廊下を這う大樹モンスターの蔓を排除しながら進んでいると、やがて横にも上にも開けた空間に出た。
建物の壁や天井を崩して出来た空間の中心地には、木の幹……というよりも、複数の木の根が集まり絡み合って形成された太い柱のようなモノがあった。
その柱から四方の壁に伸びた枝からは、多数の木の瘤のようなモノが吊り下がっており、瘤の一つ一つが脈動しているように感じられる。
「何だろうな、アレは?」
「中央の柱が大樹の根っこみたいだし、吸収した電気や魔力をあの瘤に集めているんじゃない?」
「養分を蓄える地下茎みたいに?」
「ええ。〈魔眼〉で見る限りだと、魔力らしきモノが蓄えられてるわね」
シオンに言われてから〈超感覚〉で感覚を強化して探ってみると、少し分かり難かったが確かに魔力が瘤の中で渦巻いているのを感じられた。
「つまり、アレを排除すれば大樹モンスターは弱体化するってことか」
「もしくは暴走状態になるってところじゃない?」
「……そっちのパターンもあるか。どちらにせよ放置は出来ないし、纏めて焼いてみるか」
「お兄さん、ストップデス!」
指先から銀色の電撃をバチバチと発し、その矛先を目の前の空間全体に向けようとしたら、ソフィアが俺の腰に抱きついて静止してきた。
「どうした?」
「あそこに人がいマス! 纏めて焼いたら焼死体確実デス!」
ソフィアが指し示す場所へ顔を向けると、彼女から俺が攻撃したら焼死体確実と判断された人間がいた。
その人間は柱から伸びている蔓に拘束されており、蔓が移動してきた方向的に別の通路から連れて来られたようだ。
「……別働隊の超人か?」
「見たことある顔だから間違いないでしょうね」
「全体攻撃の直前に連れて来られるとは、俺も運が悪いな」
生きている気配はあるのにピクリとも動かないことから、どうやら気絶しているらしい。
捕まったのは彼だけではないようで、同じ通路から次々と超人達が連行されてきた。
人数的にも分かれ道を進んでいった一つのグループ全員が捕まったようだ。
「こうして見ると、多人数で問題に対処するのも考えものなんだな」
「基本的には人数が多い方が効率がいいから、時と場合によるんでしょうね」
「二人ともアノ人達の心配をしましょうヨ……」
「そうは言ってもな。見る限りではただ捕まっているだけだし……あっ」
助けるにしてもどうやって助けるか、と考えていたら、柱の一部が突然上下に裂けて、そこに出来た穴の中に超人の一人が放り込まれた。
穴の中に超人が放り込まれると、勢いよく穴が閉じられて裂け目の開閉部分から血飛沫が上がった。
どうやら、あの柱には口のような役割があるらしい。
蔓での吸収との違いは分からないが、別働隊のグループ全員を生きたまま連れてきたのには理由がありそうだ。
「何というか、ホントにモンスターだよな」
「お兄さん!」
「流石に分かってるとも。二人共、取り敢えずアイツらを蔦から解放するぞ!」
「ええ!」
「分かりマシタ!」
〈強蹴〉で地面を強く蹴って加速をつけると、〈グルメ〉から得た能力の一つ〈駿脚〉を使って軽快な身のこなしと素早さの強化を行う。
一気に強化された敏捷性と〈超感覚〉の感知能力を駆使し、迎撃のために柱から伸びてきた蔓だけでなく、鞭のように鋭くしなる攻撃を行なってきた細い根による攻撃を避けていく。
柱からの二種の攻撃を回避しつつ、刀形態の〈解体鬼剣ムラマサ〉を振るって真横を通り過ぎる蔓と根を斬り落とす。
ムラマサの能力〈解体妙理〉で最適な太刀筋を見抜き、〈血喰戦刃〉で蔓と根に流れる体液を啜りムラマサの性能を強化し、〈生命喰い〉で蔓と根への攻撃を通して大樹モンスターから生命力を奪って俺自身を強化する。
道中の廊下で遭遇した蔓の攻撃速度は大したことはなかった。
だが、目の前の柱から放たれてくる蔓と根の攻撃速度はかなり速く、完全に見切ることが出来ずに僅かにダメージを負っていた。
〈錬金竜〉で全身金属鎧化すれば容易に無傷で済む話だが、新たな能力の獲得を狙うために〈錬金竜〉は使わずに距離を詰めていく。
「この程度なら無傷みたいなものだな」
「大丈夫ッ、なんデスカ!?」
「大丈夫、大丈夫」
先頭を行く俺への攻撃が最も激しいが、後に続くソフィアとシオンにもかなりの攻撃が向かっていた。
だが、二人は俺とは違って元々スピードタイプな上に、それぞれ風を読んだり〈魔眼〉で攻撃を先読みしたりして難なく攻撃を避けている。
身体に当たりそうな攻撃も風や重力を操って形成した不可視の盾で危なげなく防いでいるためノーダメージだ。
流石は数少ないBランクに認定されただけはあると感心しつつ、〈グルメ〉との戦いを経て〈再生〉から〈生存体〉へと進化した異能でダメージを即座に完治させながら、人質救出までの障害を排除していった。
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