第58話 期待する気持ちは完全に捨ててはならない



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー廊下が真っ暗デス」


「照明に回す電気も奪われてるみたいだな」


「そういえば非常灯も点いていませんネ」


「バッテリーが切れたか、その電力すらも奪われたのかもしれないな」



 光源が全くない廊下を俺、ソフィア、シオンの三人で歩いていく。

 それぞれが有する能力のおかげで真っ暗な闇の中でも視界は良好だ。

 変電所施設の管理用の建物内への突入するグループは、俺達以外に三つ。

 計四つのグループに属する超人達は十五人。

 その全員が暗視関連の能力を持つ近接戦闘スタイルの者達だ。

 建物の入り口に屋内マップが掲示されていたので、それを頼りに四つのルートに分かれて屋内を進んでいる。


 屋内探索の目的は、管理用の建物と一体化している大樹モンスターの情報収集だ。

 外からは弱点らしき部位は確認出来なかったので、大樹モンスターの内部を調査できると思われる建物内を探索していた。

 施設の資料などを確保するのも目的ではあるが、安全を確保しなければ資料の捜索はできないのは明確だ。



「やっぱり屋内にもあの蔓があるわね」



 俺達三人の中で最も探知能力の高いシオンの言葉を受けて彼女の視線の先を追う。

 そこでは、大蛇のような動きで廊下の突き当たりから大樹モンスターの蔓が姿を現したところだった。



「……多いな」


「多いわね」


「多いデスネ」



 這い出てきた蔓は一本ではなく、成人男性の腕ほどの太さの蔓が十数本も姿を現した。

 ウネウネというより、数的にもウジャウジャと表現したくなる光景だな。



「ここはマインに任せたわ」


「任せマシタ!」


「まぁ、それが最適解か」



 周りに破壊厳禁な重要そうな物は見当たらないし、纏めて焼いても大丈夫だろう。

 籠手形態の〈黒金雷掌ヤルングレイプ〉を装着した右手を廊下の先へと向けると、広範囲攻撃能力である〈放電〉を発動させた。

 黒い金属製の籠手から放たれた大量の銀色の電撃が、廊下の先から迫る蔓の群れ呑み込んでいく。

 電撃による発光現象の合間に見える蔓の状態から判断して〈放電〉を止める。


 炭化して動かなくなった蔓の群れに近づき足先で小突くとボロボロと崩れた。

 間違いなく活動を停止したのを確認すると、蔓の根元の部分へと辿っていく。

 すると、黒ずんだ蔓は途中で途切れており、周りを見渡すと少し離れた天井部分に蔓ぐらいの太さが通りそうな穴が空いていた。



「ここから伸びてきたようね」


「そうみたいだな。この穴を辿っていけば重要部分にたどり着くか?」


「蔓や大樹の生態について知らないから何とも言えないわね。そもそもモンスターも同じ生態という保証はないし」


「それもそうか」



 俺の異能〈錬金竜〉で生成した〈神秘金属メルクリウス〉を操って、蔓が通っていた穴を這わせていって逆探知でもしようかと思ったが、何だか微妙な感じだな。

 蔓が血管みたいな役割をしているなら大樹モンスターの重要部位に辿り着けるかもしれないが、ここまで集めた情報的に使い捨て可能な手足みたいな役割で間違いない。

 重要部位に直通することなく、大樹の幹とか枝とかそういう部位に到達するのがオチだろうな。



「取り敢えず、穴を塞いでおきませんカ? 再利用が難しくなりマスシ、背後からの奇襲を防げると思いマス」


「なるほど。シオンはどう思う?」


「元々建物内を通っていたパイプとかもありそうだけど……ここの施設は破棄することになるでしょうし、また使うことがあっても改修は必須だから埋めていいと思うわよ」


「じゃあ、穴は塞いでおくか」



 以前倒した〈グルメ〉から得た能力の一つである〈地形操作〉を発動させ、蔓の通り道だった穴を潰していく。

 肉体に触れている地面や建物などの形状を操作する能力で、そこまで大規模なことは出来ないが、この程度の穴を塞ぐことは容易い。

 操作スピードがもっと速ければ戦闘にも活用できるのだが、現状で戦闘時に使う場合は〈グルメ〉が俺に対して使ったように不意打ちでの足場の拘束とかぐらいだろう。

 非戦闘時の使用においては、今の荒廃した世界の状況的に大変素晴らしい能力なのは言うまでもない。


 今さら気付いたが、〈錬金竜〉やこの〈地形操作〉の能力からして、俺は無生物系能力とでもカテゴライズできるような能力への適性もありそうだ。

 そう考えると、真逆の生物系能力とかが得られそうな今回の大樹モンスターからの能力はあまり期待できないかもしれない。

 まぁ、個人の適性に合わせて能力が変質して獲得することもあるので完全には期待を捨てないでおくとしよう。



 

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