第55話 性能は重要だけど、使いやすさも重要



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーへぇ、コレがお兄さんが開発に協力したマジックアイテムですカ。でも、剣とか銃じゃないんですネ?」


「元になったのが俺が作ったグレイヴだからな。開発ノウハウを培うためにも同じグレイヴが一番最初のモデルになったんだよ。あとは、剣と銃の知識に明るい研究者がいないのと、リーチのある長柄武器ポールウェポンの方が素人でも使いやすいからだ」


「そうなんデスカ?」


「……寧ろ、何故ソフィアは刀を普通に使えてるんだ?」


「……何故ですかネ?」


「実戦で自然と鍛えられたんじゃない?」


「ナルホド。そうに違いありまセン!」


「ホントかな……?」



 俺の前には、先行量産されたグレイヴ型マジックアイテム〈MAI-GR01 ラーミナ壱式〉が並べられていた。

 此処にいるのはテスターを務めた俺だけでなく、ソフィアやシオンなど新都エリアに住む他の超人達も集まっている。

 俺達三人以外の超人達の半分は別の超人部隊の者達で、残る半分は一般人に毛が生えた程度にしか超人化が進んでいないEランク超人達だ。


 この超人のランク分けは新都エリアの保有戦力を管理する上で最近になって設けられた制度で、一番下のEからD、C、Bと上がっていき、一番上はAランクになる。

 ランクの選定については、臨時政府が集めた各種情報と、実際の超人自身の力を見てから決められている。

 ちなみに、俺はAランクでソフィアとシオンはBランクだ。

 AランクとBランク判定を受けた超人は、二つ合わせても新都エリアに住む超人全体の一割もいないため、非常に希少で重要な戦力だったりする。


 まぁ、現状では凡ゆる情報が不足しているため、このランクも仮でしかない。

 今は五段階しかないが、これから超人が増えていって個々人の力の差異が広がっていった場合は更に増えるとのこと。

 ランク制度の発案者である臨時政府のトップ曰く、Aランクの上にSランクとかSSランクとか作っていきたいんだとか。



「えー、多忙の中お集まりいただきありがとうございます。本計画の責任者の真田です。既にご存知のことかと思いますが、今日は皆様にこのラーミナ壱式をテストしていただきます」



 開発時に何度も顔を合わせた主席研究員の真田が前に出てきて簡単に挨拶をした。

 真田は、ヒョロっとした草臥れたような雰囲気を放つ中年男性然とした外見をしているが、実年齢は二十代半ばと結構若い。

 元より新都エリアにいる研究者の数は少なく、それ故にまだ若い彼が主席になった……というわけではないらしい。

 詳しくは知らないし興味もないので聞いていないが、世界変革以前から頭の良い者ばかりの業界でも一際優秀だったという話だ。


 テスターを務めていた時も此方が言いたいことをすぐに理解してくれていたので、やりやすくはあった。

 本人曰く、理解力や解析力といった知能に由来する能力に目覚めたおかげとのこと。

 たぶん才覚能力や異能に分類される力なのだろう。

 


「開発テスターのマイン氏のおかげでAランク超人のデータはありますが、他のランクのデータが不足しているため今回皆様にご協力してもらうわけですね。まぁ、そもそもAランク超人がいなさ過ぎて、極少数の高ランク超人は忙しく各地を飛び回っていて時間の都合が付かなかったのが一番の理由なんですが。ああホント、もっと高ランク超人のデータが揃えばしっかりとした選定基準を決められるのに。アチラもコチラも忙しすぎて時間が全く足りない。面白い未知の存在が多すぎて身体が足りない。そういった諸々を解決するためにも、このマジックアイテムで戦力を強化して各地で活動できる人手を増やすというわけですね。迎え入れるリスクを気にするよりも早急に人手を増やしーー」


「真田さん。それは上層部に直接仰ってください。先ほど真田さん自身が言われていたように全員忙しい身なので」



 いつまで愚痴が続くか分からないので横から口を出して止めておく。

 現状の新都エリアの運営方針については臨時政府の方と話し合ってほしいものだ。

 まぁ、その話し合う時間自体が無いのだが、それは此方の知ったことではないので彼らには頑張ってもらうしかない。



「……失礼しました。つい愚痴が。では、まずは〈魔力〉と名付けた世界変革後に現れた新エネルギーについて説明します。この魔力はモンスターや超人達の体内に内包されていると考えられておりーー」



 開発中にテスターとして試行錯誤したことで明らかになった魔力の特性や、その体内魔力の使い方についてを真田が説明していく。

 色々と話しているが纏めると、魔力は超人達やアーティファクトの能力を発動されるのに使われる特殊なエネルギーであり、体内にある魔力を使い切った時は代わりにカロリーを消費して能力を行使することができる。

 また、魔力を使い切った際は食事によってカロリーを摂取することで、ある程度は体内魔力を回復することができる。

 このことから、肉体を作るのに食事が必要なように、魔力を生み出すにも食事が必要なのだと考えられている。



 超人やアーティファクトの能力行使時は自動的に魔力が消費されるようだが、マジックアイテムの能力を使用する際には自動的に魔力は消費されない。

 そのため、マジックアイテムの能力発動には体内魔力が使えるのが大前提だ。

 一度分かれば簡単に使えるのだが、体内魔力を使用する感覚が分かるまでが大変なので、このマジックアイテムのテストが開始されるまで時間が掛かるだろう。


 これも新都エリアの戦力を向上させて人類の活動範囲を広げるためだが、この様子だと今日一日ではテストは終わりそうにないな。

 ラーミナ壱式の長柄を握り、体内にある魔力という存在を認識すると、胸中でラーミナ壱式が有する〈衝撃刃〉の能力を使用するという意思を強く意識する。

 すると、振り抜いたラーミナ壱式の剣刃から飛ぶ斬撃が放たれた。

 飛んでいった斬撃は、標的用に用意されたコンクリートブロックを容易く斬り裂き砕いてみせた。

 その威力は体感ではオーククラスの肉体までならば、遠距離から一方的に斬り裂くことができると感じられる。

 この使い方を無意識にできるようになるのが理想的だが、いつになることやら。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る