第54話 プロトタイプって言葉にワクワクする



 ◆◇◆◇◆◇



 現在住んでいる新都エリアには様々な施設が存在している。

 元々が国際的な超大規模イベント会場として開発されていた場所であるため、国内外からやって来る参加者用にホテルといった宿泊施設の数も充実していた。

 イベント後はリゾート施設に転用することも視野に入れて開発されていたからなのか、設計段階で拡張性を持たせられていたのも新都に選ばれたポイントなのだろう。

 会場内の電気や水といったインフラ設備にはイベントで発表される技術や設備が使われている、という宣伝文句が連日テレビで流れていただけあって、水と電気などの心配もないらしい。

 そのため、招き入れた生存者達が最低限生活できるだけの環境は整っていた。


 そんな色々と快適な新都エリア内に作られたとある施設に来ていた。

 そこの玄関口で俺を待っていたのは、ザ・研究員な白衣姿をした者達だった。

 彼らから歓迎の言葉をもらうと、さっそく目的の物が置かれている場所へと移動した。



「これが試作品プロトタイプですか?」


「はい。マインさんの〈アラドヴァル〉のデータを元に製作された試作〈マジックアイテム〉のグレイヴになります。本日はこのグレイヴのテストをよろしくお願いします」


「分かりました。総称はマジックアイテムに決まったんですね?」


「ええ。多数決で」


「多数決……まぁ、早く決まって何よりです」



 目の前の台の上には、どことなく俺のグレイヴに似た雰囲気を放つ別のグレイヴが置かれていた。

 データ管理の都合上、この試作品と区別するためにアラドヴァルと名付けられた俺の自作グレイヴは、ただのハンドメイド武器ではない。

 そのことに薄々気付いていた俺が、新都エリアでモンスターやゲート、超人などを研究している研究所があると聞き、アラドヴァルを持ち込み調べてもらった結果、アラドヴァル量産計画が立ち上がった。

 世界変革前の普通の武器とは根本的に異なる力を持つことから、ファンタジー知識に則って分類上の名称として〈マジックアイテム〉か〈人工アーティファクト〉のどちらかの名前が付けられることになっていた。

 個人的には別にどちらでも良かったのだが、最終的に多数決で決まったことに何とも言えない気持ちになった。

 とはいえ、分かりやすい名前に越したことはない。

 

 そのマジックアイテムであるアラドヴァルの量産計画が立ち上がった際に、俺が個人的に使っていた〈魔力〉という呼称も採用されており、その魔力を計測する機器の開発と研究も行われている。

 これは、アラドヴァルを作った経緯からマジックアイテムの製作には、この魔力を含んだ素材を使用する必要があることが分かっているからだ。

 だが現状では、超人化により魔力らしき力を感知できる一部の超人達の力でしか魔力を計測することができない。

 魔力を安定して計測できれば他にも多くのことに活用できるようになるため、魔力計測機器の開発はマジックアイテムの生産よりも急務だったりする。

 だが、研究員自体が少ないので今のところ殆ど開発は進んでおらず、俺のように空いた時間に研究所に出向させられている超人がいる始末だ。

 早いところ研究員達には開発に漕ぎ着けてもらいたいものである。

 


「これは鉄タイプですか?」


「はい。マインさんから提供していただいた〈魔化金属アマルガム〉の中では、この鉄タイプが加工しやすかったので」


「なるほど。確かに鉄は扱いやすそうですね。銅タイプも加工しやすそうですが?」


「銅タイプは単体では実用に耐える物が出来なかったんです。ですが、合金タイプには期待できそうなので、近いうちにまたテスターをお願いします」


「分かりました」



 〈錬金竜〉は通常生成で生み出される〈神秘金属メルクリウス〉以外にも、鉄といった世界変革前から存在する金属の魔力含有バージョンであるアマルガムも生成することができる。

 この生成できるアマルガムの種類は、見た目が水銀っぽいメルクリウスを使って取り込んだ金属に由来するらしく、そういった理由から総称には水銀と他の金属との合金を意味するアマルガムという名前を採用した。

 アマルガムはメルクリウスよりも凡ゆる面で劣るものの、その性質は元となった金属と基本的に変わらないため他人でも扱いやすいという利点がある。


 ちなみに、〈錬金竜〉はメルクリウスとアマルガム以外にも魔力を含まない通常金属も生成可能だ。

 そのため、質や強度、希少性などは下から通常金属→アマルガム→メルクリウスとなっている。

 建築ラッシュな新都エリアの建材には通常金属も通常金属よりも強靭なアマルガムも両方使われており、おかげで今の俺は一ヶ月も経たない内に新都で一二を争うほどの金持ちーー以前の貨幣は使えないので臨時政府発行の仮の貨幣での支払いだがーーになっていた。

 我ながら〈鉱山マイン〉のコードネームに相応しい能力だと常々思う。



「それでは試しますよ」


「お願いします」



 試作マジックアイテムのグレイヴを手に取ると、アラドヴァルで行なっていた使い方や、試作マジックアイテムに使われている素材元のモンスターの力を意識した力の使い方をしてみたりした。

 全く未知の技術と力を実用化するためには、こうして手探りで色々やってみるしかないのが面倒なところだ。

 まぁ、テスター報酬は良いので頑張るとしよう。




 

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