第48話 美食家、悪食家 前編
◆◇◆◇◆◇
移動を始めて大体二時間が過ぎた頃。
目的地であるテレビ局に到着した。
少し離れたところで車を降り、出来るだけ気配を消してからやってきたが、おそらくグルメには気付かれている可能性が高い。
そのため、グルメに遭遇した際の対応は予め決めていた。
それでも、依頼主である黒鐘紫音はまだ完全には納得していないようだった。
「本当に一人で大丈夫なの?」
「敵は一人で、救出対象が複数人ならば、此方の人数の振り分けは自然とこうなりますよ」
幸いにも救出対象である超人部隊の隊員達はまだ生きていた。
昼を過ぎたことで数自体は更に減っていたので、正確にはまだ生き残りがいると言うべきか。
グルメの気配も感じるため、討伐対象も救出対象も全てテレビ局内にいることになる。
今は気配を抑えているかは不明だが、グルメが発する気配はボスモンスターの黒ミノタウルスと良い勝負といったレベルだ。
「気配が感じられる位置からの推測ですが、捕まっている隊員達はそれぞれ離れた場所に隔離されているようです。大人しく捕まっていることから、肉体的か精神的か何かしらの手段で身動きを取れなくされている可能性もありますですので、残る三人全員を救出するまで時間が掛かると思われます」
「そうなるでしょうね」
「本当に此方の方が二人でいいのですか?」
「救出最優先ですからね。それに、戦闘の余波で建物が倒壊しないとも限りませんし、一人で戦った方が味方への被害を気にせず力を振るえます。だから、自己犠牲的な判断ではなく合理的な判断というやつなので、黒鐘さんはお気になさらず救出に専念なさってください」
「……分かりました。そういうことでしたら、お言葉に甘えさせてもらいます」
どうにか承諾してくれたようだ。
思いのほか粘られたが、それもこれも現地に着いてから感じたグルメが発する気配が、想定していたよりもかなり上だったからだろう。
「お兄さん、気をつけてくださいネ」
「ああ。そっちも一応気をつけろよ」
「ハイッ! 行きましょう、紫音さん」
「ええ。では、また後で」
「はい。また後で」
二人が生き残りの救出に向かうのを見送ると、俺はグルメがいる場所へと向かった。
俺が真っ直ぐ向かってきているのに気付いているはずだが、グルメに動きはない。
程なくして、上階の撮影スタジオに到着した。
そこには二十代から三十代ほどの見た目の細身の男性が待ち受けていた。
実年齢は五十に近いはずだが、超人化の影響かとても若々しい外見をしている。
そこまではまだ常識的な光景だが、彼の口元や衣服が血で赤く染まっているのと、スタジオの各所に複数人の男女の死体が転がっていることが異様な光景だった。
周りに転がっている幾つかの死体の服装が、先日放送された番組に映り込んでいたスタッフ達の物に似ているのは、おそらく気のせいではないんだろう。
超人部隊と敵対した時に邪魔だったから処分されたのかな?
まぁ、単に用済みになったからかもしれないけど。
「やぁ、いらっしゃい。もしかして超人部隊の関係者かな?」
「関係者といえば関係者になるだろうだが、まぁ、雇われの身だよ。彼らの救出のためのね」
「なるほど。確かにキミぐらいの力ならスカウトや依頼をされるのは当然か……とても、うん。本当にとても美味しそうだ」
「……超人を食したら強化される能力か?」
半分は知的好奇心からだが、ソフィア達が生き残りを救出する時間を稼ぐのも兼ねて、会話による情報収集を行なってみることにした。
此方の意図を理解しているのかは不明だが、グルメは会話に応じてきた。
「おお、鋭いね。ああ、その通りだとも。普通の人、モンスター、超人またはボスモンスターの順に食べた時に強くなれるんだよ。まぁ、超人は質の差が激しいけどね。分類的には異能に属すると思うけど……異能といった能力の分類についての知識は?」
「ネット上で〈討伐能力〉〈才覚能力〉〈派生能力〉〈異能〉の大きく四つに分けられているやつだろ?」
「そうそれだよ。世界が変革して間もない頃に不定形の粘体モンスターを倒してね。ボクは〈スライム〉って呼んでるんだけど、このスライムを倒した時に、本来の討伐能力から変質して獲得した異能なんだ。シンプルに〈捕食〉と呼んでいるよ」
「分かりやすいな」
「そうだろう? 最初の頃こそ、何でも食べれて食あたりもしない程度の能力だったんだ。でも、ネット上で〈
なるほど。あくまでもイメージからの名付けではあるが、スライムにグールの討伐がキッカケとは、今の異能に至るのに相応しいモンスターだと言える。
あと、こうして直接話してみて分かったが、おそらくグルメは元々人に何かを教えるのが好きなタイプだ。
案外、あの番組を企画した何割かは善意だったのかもしれないな。
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