第47話 無償の善意ほど怪しいものだ
◆◇◆◇◆◇
「ーー〈
『そうよ。貴方に会う前に彼をスカウトしに向かい、その後部隊との連絡が途絶えたの』
助手席に座るソフィアが持つ俺のスマホから黒鐘紫音の声が聞こえてくる。
装甲機動車に乗る俺達の前方では、荒廃した道路を軽快にバイクで進んでいく彼女の後ろ姿が見えている。
当然ながら顔は見えないが、スピーカーモードのスマホから発せられる彼女の声には苦々しいものが混じっている気がする。
「……放送されている番組を見てスカウトを決めたのですか?」
『臨時政府が取り組んでいる食料問題対策に協力してもらうためにね。あんな番組を企画するぐらいだから友好的な相手だと思っていたんだけど、どうやら違ったみたい』
「あの番組ってグルメ自身が企画した番組だったんですか?」
『事前に連絡を取った際にそう言っていたらしいわ』
「連絡先を知ってたのですか?」
『番組を放送しているテレビ局の番号に電話したら普通に出たのよ。そこから電話越しに面談して詳しい話は直接会ってからと言ってきたから、かの部隊が向かったというわけ』
「なるほど。そういう流れなら確かに敵意がありますね。まぁ、両者揃ってモンスターにやられたという可能性もありますが……」
電話越しではあるが、事前のやり取りでの友好的な態度を考えればそっちの可能性の方が高いだろう。
『……臨時政府に属する遠距離探知能力者が、某テレビ局にいる彼らしき気配と部隊員の気配を感知したわ。そして時間経過と共に部隊員の気配の数が減っていくのもね』
「……なるほど。どれぐらいのペースで減っているんですか?」
『昨日の朝にスカウトに向かった時で七人。異変に気付いて探知能力者をテレビ局の近くに派遣して気配を探らせたのが、確か同日の夕方手前ぐらいだったわ。その時で部隊員の気配は六人。そして今朝のタイミングで四人にまで数が減っていたわね』
「ふむ……」
何故一気に殺さないのだろうか?
超人部隊の能力を手に入れるのが目的ならさっさと殺すはず。
加虐趣味、あるいは拷問趣味とかがあるのか……いや、待てよ?
「黒鐘さん。その探知能力者は、グルメの気配の変化については何か言ってましたか?」
『グルメの気配の変化? えっと、あっ。そういえば、昼、夜、朝のタイミングで気配がかなり上がっていたと言ってたわね。部隊の者を殺したことで強化された結果だろうというのが臨時政府の見解よ』
「……食ってるのかもしれませんね」
『……えっ?』
「超人部隊の人達を食べている可能性があります。朝昼夜のタイミングで気配が増大していることからして、三食に分けてるみたいですね」
『……番組でグルメと名乗っていることからの想像でしょう?』
確かに、グルメという自称や番組名の〈美食か悪食か〉からの想像というのは否定しない。
だが、能力の中には〈異能〉という通常の能力とは異なるイレギュラーな力を発揮する固有能力が存在する。
グルメがそういう食人に関連する異能を持っている可能性はある。
それに、俺もボスモンスターである黒ミノタウルスの肉を食って身体能力が強化された経験があったのも、こんな荒唐無稽な想像をした理由だ。
黒ミノタウルス以外の肉ではそんな現象は起こっていないが、超人相手に同じような強化現象を起こす異能がないと断言することは出来ないのが今の世の中だ。
もし、その異能の効果対象が〈超人〉限定ならば、あのような番組を自ら企画した理由にも納得がいく。
モンスターの肉を得るということはモンスターを倒すということ。
そして、モンスターを倒すということは超人化が進むということになる。
つまり、世の中に効果対象が増えるということになるわけだ。
『異能か。確かに異能だったら有り得ない話じゃないけど……仮にあの番組の真の狙いが超人を増やすことなら嫌な話ね』
「一昨日にあった最新の放送では人型モンスターであるオークを扱っていたのも根拠の一つですね。ゴブリンやオーガは食用向きではないとかも言ってましたし、その時のことを語っている様子からも、人型を食することへの忌避感は全く無さそうです」
『……人とモンスターは違うわ』
「私達からすればそうですが、彼にとっては違う可能性はありますよ。まぁ、半分以上は勘です。これから向かう先で答えは分かるでしょう」
『……そうね。それで、この依頼だけど受けてくれるかしら?』
俺達が今向かっているのは、グルメが拠点にしているテレビ局だ。
紫音を通して臨時政府から依頼されたのが、超人部隊の生き残りの救出とグルメの討伐作戦への協力だった。
超人部隊と出会ったキッカケである怪物トカゲ戦での俺の戦いっぷりが臨時政府にも伝わっており、この作品の協力者として白羽の矢が立ったわけだ。
成功報酬は、臨時政府との交渉において此方の要望を最大限叶えるというもの。
現在の状況的にも空手形なのは仕方ないが、今後の交渉においては最高の報酬だと言える。
「答えを出す前にもう一度聞きますけど、本当に実行者は俺達だけなんですか?」
『ええ。元々超人部隊全体の数が少ない上に、各地をスカウトやモンスター退治で飛び回っているし、重要施設の警備を行なったりしているわ。だから、この近辺ですぐに救出に動けるのは私達ぐらいしかいないのよ』
まぁ、そんなに潤沢に使える人材がいるわけがないものな。
たぶん、常に人手不足なんだろうな……ブラックの匂いがするぜ。
「いいですよ。依頼を受けましょう」
『ありがとう! 本当に助かるわ』
まぁ、報酬が魅力的だし、美女を一人で向かわせるのも後味が悪いしね。
「最優先は生き残りの救出で間違いありませんね?」
『ええ。グルメの討伐は数を集めてから行なう予定だから、彼らの救出を最優先でお願い』
「了解です。ソフィアも構わないか?」
「ハイッ! あの番組には助けられましたケド、それとこれとは話が別デス。生きている人達を助けまショウ!」
ソフィアも気合いは十分のようだ。
今となっては臨時政府との伝手には紫音がいるので命の優先順位は正直言えば低いが、依頼の成功報酬とは別に臨時政府に恩を売れるというのは悪くない。
それに、かなり超人化が進んでいるグルメの能力も魅力的だ。
食人能力は別に要らないが、それ以外の能力をグルメから得たいので救出は彼女達に任せて、俺はグルメの足止めという名の討伐を行なうとしよう。
全ては想像でしかないグルメの食人能力だが、本当に想像通りの異能だった場合、今のうちに倒しておかないと将来的に誰も手の付けられない怪物に育つだろう。
俺の今後の平和な暮らしを守るためにも頑張って倒しとかないとな。
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