第44話 俺のこの手が光って轟く



 ◆◇◆◇◆◇



 各種能力によって強化されたグレイヴを振るい、まるでゾンビ達雑魚アンデッドを屠るようにデュラハン達を薙ぎ払っていく。

 強化グレイヴを振るう度に黒い炎と雷が放たれるため、この短時間で周囲の公園は酷い有り様になっていた。

 テレビでも観た覚えのある自然豊かな公園だったのだが、最早見る影もないな。



「ぐっ、ええい、鬱陶しいッ!」



 いつの間にか地面から空中へと移動していたリッチが、上空から俺に向けて魔法を放ってきていた。

 主に放ってくるのが氷や石の礫なのは、俺が炎と雷を使っているからだろうか?

 デュラハン達と戦っていると、リッチが俺の頭部や胴体に氷や石の礫をぶつけてくるのだが、金属化した身体に届かないどころか、その上の外装鎧すらも破壊出来ない程度の威力なので当然ダメージはない。

 だが、その衝撃音は全身金属故にしっかりと響いてくるため非常に鬱陶しかった。

 それに加えて、その攻撃の合間に追加のデュラハン達を召喚してくるため、一向にデュラハンが殲滅できないでいる。



「攻撃の予兆を読まれてるのか……?」



 続々と召喚されるデュラハン達との戦闘中に、唐突にヤルングレイプの〈雷光〉をリッチへ放ったりもしたのだが、今のところ全て紙一重で回避されていた。

 距離がある上に上空から俯瞰して見れるからか、此方の挙動は全て筒抜けのようだ。

 範囲攻撃である〈放電〉なら命中するだろうが、〈放電〉は〈雷光〉よりも射程距離が短い。

 当てるならば空中にいるリッチに近付く必要がある。



「ま、最低限の仕込みは済んだからやってみるかッ!」



 デュラハン達と戦いながら密かに一帯の地面にばら撒いていた謎金属塊を遠隔操作する。

 すると、瞬く間に周囲の地面から十メートル前後の金属柱が次々と形成されていく。

 そのうちの一つに乗ると、追加の金属塊を足裏から生み出して金属柱を更に伸ばしていき、リッチがいる上空に向かって上昇していった。

 骨と皮だけだから分かり難いが、リッチが驚愕の表情を浮かべているような気がする。

 慌てたように上昇してくる俺から離れようとするが、その前にリッチへとヤルングレイプの〈放電〉を放った。

 広範囲に放たれた黒雷のシャワーに呑まれたリッチの身体が硬直する。


 狙い通りに感電し麻痺状態になったリッチに向けて、左腕から謎金属製の触手を伸ばす。

 金属触手をリッチの胴体に巻き付かせると、即座に〈双炎掌〉の蒼紫色の炎を発動させる。

 〈黒化〉によって黒炎と化している弱体化の炎を金属触手越しにリッチに直接灯す。

 ここまですれば空中を自由自在に逃げ回られることはないだろう。


 金属柱から〈強蹴〉を使ってジャンプすると、理解出来ない言語で絶叫するリッチへと飛び掛かる。

 更に金属触手を収縮させて一気に距離を詰めると、リッチの胴体へと強化グレイヴを突き刺した。



「◼️◼️◼️◼️◼️ーーーッ!?」


「煩いな。喰らえ、〈雷拳〉ッ!」



 強化グレイヴの長柄から右手を離すと、ギャアギャア何か騒いでいるリッチの頭部を鷲掴みにする。

 頭部を掴まれてもなお喚くリッチへとヤルングレイプの〈雷拳〉を発動させた。

 〈黒化〉によって強化された〈雷拳〉の銀雷が、圧縮された黒雷となってリッチの頭部と接触している右の掌から放たれる。

 本来は拳打と共に放つ能力だが、このような使い方も可能だ。

 右の掌からリッチの頭部へと送り込まれた圧縮黒雷が、骨と皮だけのリッチの全身を蹂躙していった。


 圧縮黒雷に灼かれるリッチを下にして地上へと落ちていく。

 地面に墜落する直前に強化グレイヴを引き抜くと、リッチの身体を〈強蹴〉で地上へと蹴り飛ばして落下速度を殺すとともに、その勢いで一帯に生やした金属柱の上に着地した。


 勢いを増して地上に落ちたリッチに視線を向けると、リッチらしき肉体がバラバラに砕け散っていた。

 圧縮黒雷のダメージと落下ダメージ、そこに〈闘牛本能〉で強化された〈強蹴〉のダメージが加わったことでああなったのだろう。

 そんな爆散死体の近くで、リッチが身に付けていた豪奢な王冠と杖、ローブが虚しく地面に転がっているのが見える。



「……良しキタ!」



 召喚主が死んだことで召喚されたデュラハン達が消滅していくのを視界の端に見ながら金属柱を回収していると、以前に黒ミノタウルスで見たのと同じ発光現象がリッチのローブにも起こった。

 〈錬金鎧〉の全身金属化を解いてから眺めているうちに、リッチのローブがシンプルなデザインの黒いコートへと変化した。

 次の瞬間、黒いコート型アーティファクトが飛来してきて身体に直撃すると、身に付けていた革ジャンが消えて代わりに黒いコートが装着されていた。



「おお、涼しい。冷房、いや冷暖房機能付きかな?」



 ヤルングレイプの時のことを踏まえると、おそらく今のロングコート形態から変えられるはず……あ、やっぱり変わった。

 取り込んだ革ジャンに似た形態は勿論のこと、ジャケットならば大体の形態に変化することができるようだ。

 ヤルングレイプの革手袋形態同様に通気性も良く、着心地も素晴らしい謎素材製の上着型アーティファクトを手に入れた。



「冷暖房機能は能力の一部か。他にはーー」


「お兄さん!」



 上着型アーティファクトの詳細を確認していると、俺とほぼ同じぐらいに戦闘を終わらせていたソフィアが手を振りながら駆け寄ってきた。

 彼女の手には彼女が持っていた刀に良く似たデザインの紅刃を持つ刀が握られており、デスナイトの妖しい気配を放つ長剣に似た雰囲気を漂わせている。



「お、ソフィアもアーティファクトを手に入れたみたいだな。おめでとう」


「ありがとうございマス。お兄さんも手に入れたんですネ?」


「ああ。このジャケットだ」


「元はリッチのローブですカ?」


「正解。そっちはデスナイトの剣だろ?」


「ハイ! 中々使えそうな刀デス! 能力はですネーー」


「待て待て。詳しくは帰ってから聞かせてくれ。今はさっさと脱出するぞ」



 ソフィアの言葉を止めてから公園の一角を指差す。

 そこには此方に向かってくる様々なアンデッド達の姿があった。



「……確かにボス戦の後にあの数は御免デスネ」


「だろ? 微妙に腹が減ってきたから、たぶん魔力の余裕もない。今はさっさと帰るぞ」


「了解デス! ずらかりまショウ!」



 なんだか犯罪者感のあるソフィアの言葉に頷くと、公園の外の車を停めてある場所へと駆けていく。



「あ、ついでにアレも拾ってからいこう」


「リッチの王冠と杖デスカ? 確かにデスナイトの剣に似た気配を感じますネ」



 ソフィアの言う通り不思議な気配を感じるアイテムなので念のため拾っておく。

 アーティファクトではないが、何か特別なアイテムかもしれないからな。

 少し寄り道をしてから王冠と杖を拾い上げると、今度こそ公園を脱出した。




 

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