第22話 不浄は消毒じゃー



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーお兄さん、これって本当に大丈夫なんデスカ!?」


「大丈夫、大丈夫」



 今後の行動方針を決めた二日後の夜。

 俺とソフィアは再びオフィス街を訪れていた。

 前回とは異なり、今の時間帯は夜なのでアンデッド系モンスターが活性化しており、昼間に蔓延っていたゾンビの姿はなく、代わりに巨大な腐肉の巨人や剣や槍を持ったファンタジー系ゾンビ達などの姿があった。

 そんなアンデッド達の大群に追われながらのソフィアとの会話である。



「ふむ。そろそろだな。ソフィア、転ぶなよ。そして踏むなよ?」


「死にたくないので転びまセン、踏みまセンッ!!」



 必死な様子のソフィアとともに、予め目的地に付けておいた目印の線の上を走っていく。

 夜でも分かる蛍光塗料の線上を暫く走っていくと、広く開けた交差点の真ん中に愛車である装甲機動車の姿が見えた。



「予定通りソフィアは機銃を使ってくれ。合図をしたらあの肉の巨人を優先して狙うように。倒した後は臨機応変に好きに狙え」


「分かりまシタ!!」



 反転して立ち止まった俺を追い抜いたソフィアが装甲機動車の上へと跳び乗る。

 足の遅い昼間の現代系ゾンビ達とは違い、夜間のファンタジー系ゾンビ達の足はまぁまぁ速い。

 俺達よりかは遅いが、強化されていない一般人や、一般人とあまり変わらない強さの超人では、スタミナ切れですぐに追いつかれるほどには速かった。

 なので、振り返ると俺達の元まで残り百メートルの距離を切っていた。



「汚物は消毒じゃー」



 両腕の〈金属腕〉に〈炎熱掌〉を発動させると、燃え盛る両手を足元のーーガソリンが大量に撒かれている地面へと叩きつけた。

 ここまで走ってきた道路上へと〈炎熱掌〉の炎が一気に燃え広がる。

 炎に巻かれた夜間アンデッドの大群の悲鳴が心地良い。

 昼間の内に、周辺の放置車両に残っていたガソリンを頑張って撒いた甲斐があったというものだ。



「ヨシ、撃て!」


「撃ちマス!」



 後方から聞こえてくる重厚な銃撃音に耳を傾けながら、背負っていた自作グレイヴを手に取る。

 グレイヴを手に取りはしたがコレの出番はまだだ。

 グレイヴを地面に突き刺すと、事前に交差点の各所に積んでおいた瓦礫を拾い上げ、〈怪力〉を駆使して夜間アンデッド達へと投擲していった。

 投擲した瓦礫が炎上していた夜間アンデッド達を数体連続で貫通し粉砕していく。



「結構な数が釣れたし、この調子ならかなり超人化も進むな」



 今後の行動方針を決めると、半日後に起きてきたソフィアと色々なことを話し合った。

 その一つが、超人部隊と再会するまでに出来るだけ強くなっておくことだった。

 再会の場ではスカウトを受けるか否かの答えを出すことになっているため、その際の交渉を優位に進めるには彼らよりも圧倒的に強くなっておく必要がある。

 以前、怪物トカゲ戦の後に会った時は、気配的に最も強いと感じたリーダーよりも俺の方が少し強い程度だった。

 この差は、一人でモンスターを倒しまくっていた俺と、部隊でモンスターを倒し続けていたリーダーとでは、まるでゲームのように経験値的なモノの獲得率が違うからだろう。


 部隊で動く彼らのモンスター殲滅力と強化率を圧倒的に上回るためには、俺達も多くのモンスターを狩る必要がある。

 だからといってモンスターを探して各地を彷徨うのは効率が悪いため、大量に出現すると言われている夜のオフィス街でアンデッド達を狩ることにした次第だ。


 上空にいたローブ姿の幽鬼のようなアンデッドが青い炎を放とうとしていたので、足元のバケツに入れてあるガソリンで瓦礫を濡らしてから、〈炎熱掌〉で引火させた瓦礫を幽鬼へと投擲した。

 ネット情報によれば、あの幽鬼のような幽霊系の非実体タイプのアンデッドモンスターには普通の銃弾や瓦礫ではダメージを与えられないとのこと。

 だが、超人化によって得た属性系の能力で生みだした炎や風などを使えば倒せるらしいので、今回のように〈炎熱掌〉の炎を活用した罠や攻撃を行なっていた。


 燃焼瓦礫の投擲によって幽鬼が一撃で霧散したのを確認すると、他の幽霊系モンスターにも〈炎熱掌〉製の燃焼瓦礫をお見舞いしていった。



「お兄さん、正面の分は撃ち尽くしまシタ!」


「分かった! なら、こっからは〈風刃〉で風を起こしまくってやれ!」


「了解デス! 〈風刃〉を使いマス!」



 俺の横へと降り立ったソフィアが刀を振るって〈風刃〉を放っていく。

 燃え盛る〈炎熱掌〉の炎が、〈風刃〉の風を受けて更に強く燃え盛り、夜間アンデッド達の中でも耐久力に秀でたモンスターをも焼滅させていった。

 なお、俺の〈風刃〉という名付けを採用したソフィアにも〈風刃〉という名称で通じている。


 夜間アンデッドの大群の中には気配的にオーガレベルの強さのアンデッドも多数いたのだが、この炎の海の中では長くは保たなかった。

 機銃による鉛玉だけでなく、風の刃に瓦礫弾によるダメージも殲滅速度を加速させた要因だろう。



「っと、正面以外からも接近してきたな。そっちも燃やしていくぞ」


「分かりまシタ。機銃はどうしマスカ?」


「大して強いのは感じられないから取り敢えず保留で」


「了解デス!」



 今いる場所は交差点であるため、燃え盛っている正面道路以外にも三方に道路がある。

 全ての道路を焼くと俺達の逃げ場が無くなるため、正面道路と同じようにガソリンを撒いているのは二つだけだ。

 幸いにも次に接近してきた夜間アンデッドの群れが現れたのは、ガソリンを撒いてある道路だった。


 さて、いつまで戦いは続くのやら。

 こればっかりはやってみないと分からないので、状況次第では囲まれる前に撤退しないとな。




 

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