第11話 悔いのない行動をしよう



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーん? うおっ!?」



 周りの気配の動きに違和感を感じた次の瞬間、轟音と共にこれまで以上の衝撃を受けた怪物トカゲの身体が揺れる。

 一体何事かと思ったが、遠くから連続して砲撃音が聞こえるのに気付いた。

 遠方から飛来してくる幾つもの投射物は、おそらく戦車の砲撃によって放たれた砲弾だろう。



「軍人崩れが持ち出したか、あるいは国の部隊ってところか」



 流石に戦車の砲撃に耐えられる自信はないので撤退を考えたが、状況的に砲弾が降り注ぐ中逃げることになると思われる。

 同じ砲弾の雨の中を進むならば、一縷の望みに賭けて怪物トカゲの討伐に参加するのがいいだろう。



「ま、案外当たっても平気かもしれないし。死ぬ時は死ぬだけだ」



 身体系の強化に適性があるらしき現在の自分の肉体の耐久力は、一体どれほどのモノだろうか。

 気にはなっていたが、ここで明らかになるかもしれないな。


 一歩ずつ着実に進むのを止めて一気に怪物トカゲの背中を駆け上がる。

 揺れる地面は非常に厄介だが揺れ方にはパターンがあるため、暫く走っているうちに段々と慣れてきた。

 程なくして目的地である首部分に到着すると、足元へとグレイヴを叩きつけるように振り下ろす。

 首という急所だからか、先ほどの胴体を斬り付けた時よりも硬さを感じる。



「でも、斬れないわけではないな」



 少なくとも自作骨グレイヴは、怪物トカゲの頑丈な首の皮を斬り裂くことができている。

 何度も斬り付けることで徐々に首が抉れていく。

 切り傷の上から新たな切り傷を刻み続ける。

 耳の鼓膜が破れるんじゃないかというほどの怪物トカゲの悲鳴の原因は俺なのだろうか?

 俺の身体が埋まるほどに掘り進んでいるため周りの状況を知ることができない。

 気配の位置は分かっても、それぞれが正確に何をしているかまでは分からないのだ。

 

 やがて、非常に硬い物が切っ先を掠めた感触があった。

 場所的にも骨、つまりは背椎だろう。

 あとは此処を粉砕すれば確実に致命傷のはずだ。



「斬るより殴った方がいいーー」



 ーー気付いた時には怪物トカゲの肉の中に埋まっていた。

 破壊痕を見る限り、どうやら超至近距離に砲弾が着弾したらしい。

 反射的に左手を盾に変形させた気がするので、その無意識の行動のおかげで助かったのだろう。

 その代わり左手を失ってしまったが、やはりまだ戦車の砲撃に耐えられるほどの肉体ではなかったようだ。

 身バレ防止に装着していた骨カラスの仮面も砕けていたので、案外砲撃の衝撃から頭部を守ってくれたのかもしれないな。


 ネット情報によれば高まった生命力次第では、再生系能力が無くとも欠損した部位を再生できるらしい。

 部位欠損レベルの大怪我は初めてなので再生できるかは不明だ。

 利き手じゃないだけマシだが、無いと困るので元通りに再生されることを祈るしかない。

 右手に持っていたグレイヴも無事ではなく、衝撃で所々に罅が入っていた。

 長柄部分はもう駄目だが、剣刃の部分はまだ使えそうだ。



「骨製武器なのに凄い耐久力だよな……さて、今度こそこっちの骨を砕くとしようか」



 痛む全身をどうにか動かして右腕に意識を集中する。

 身体のバランスが悪い上に今もなお足元が揺れているが、どうにか頑張って踏ん張る。

 右の金属腕の大きさを一回りほど膨れ上がらせると、駄目押しに〈炎熱掌〉も発動させて右の拳に炎を纏わせた。


 出来る限りの準備を済ませると、全身の力が右腕に集まるように身体を捻りながら拳を何度も振り下ろした。

 一撃目では何ともなかったが、二撃目で怪物トカゲの背椎に罅が入り、轟音が鳴り響く度にその亀裂は大きくなっていった。

 途中からは機械的に拳を振り下ろしていたので、今が何撃目かは分からない。

 それでも確実に巨大な骨は砕け続けており、骨の中からは何だかよく分からない液体が溢れてきていた。

 この体液が出てきてからは怪物トカゲの反応が激しいので、きっと大ダメージを受けた証明なのだろう。


 血肉に謎の体液、そして骨粉に塗れたまま拳で掘削作業を行い続けてどれほどの時間が経ったのだろう?

 無我の境地からふと我に返ると、視界を確保するために色々なモノで汚れた顔をで拭った。



「……生えてきたな」



 いつの間に生えたのやらと思いつつ、変化させていた右腕を元に戻す。

 何となく若々しさを感じる左腕の動きを確かめながら周りを見渡すと、かなり深いところまで掘り進んでいたことに気付いた。

 初めにグレイヴによって付けた切り傷の痕跡は最早存在せず、拳撃によって肉や骨が弾け飛んだことでできた大穴だけがある。

 また、拳の振り下ろしを止めても足元が揺れていないことに気付いた。

 砲撃音などの他人による攻撃音も聞こえないことから怪物トカゲは死んだようだ。



「流石に疲れたな……あー、まだ人間がいたか。どうするかな」



 疲労感は凄まじいのだが、何故か力が溢れているような気もしている。

 だから頑張れば外の人間達の相手もできるだろう。

 ロケット弾や戦車の砲弾を喰らったことは勿論だが、何よりも彼らと怪物トカゲの戦闘のせいで家を失ったのだ。

 その代償を支払わせる必要がある。

 だが非常に疲れているのもまた事実だ。



「……人間達の対応次第かな」



 最初よりも数の減った気配が近付いてくるのを感じながら、近くに落ちていたグレイヴの残骸を拾うのだった。



 

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