第9話 才能の有無は経験しないと分からない



 ◆◇◆◇◆◇



 スマホで時間を確認したところ、開演から一時間が経っていた。

 自警団リーダーと自警団モブが二人。

 大型店舗リーダーと大型店舗モブが四人。

 この八人にまで数が減ってからは戦力が拮抗したらしく、八人になってから既に十五分ぐらいは経過しているはずだ。

 持ってきた乾物も全部食べ終えたし、いい加減飽きてきたな……。



「疲弊具合も良い感じだし、そろそろ終わらせよう」



 観戦中に近付いてきていたオオカミ系モンスターを処理した際に、近くの家の玄関で拾ったヒーロー物のお面を装着する。

 安物なのも理由だろうが、子供用なので単純にサイズがキツい。

 大型店舗内にいる者達から正体を隠せればいいので、外れさえしなければ問題はない。

 大型店舗内で不安気に戦いを見守る者達も倒せば身バレを気にすることはないが、超人化も進んでない者を積極的に倒すような悪人ではないのだ。



「やあやあ、ご機嫌は如何かな? ここからは私も参加させてもらうよ」



 右手に剣鉈、左手に近くに落ちていた車の扉を装備して舞台へと上がる。

 登場の仕方は悩んだが、ヒーロー物のお面を付けているので正々堂々の声を掛けてから登場することにした。

 登場早々に大型店舗リーダーから「イカれ野郎は去れ!」と言われたので、まずは彼から退治するとしよう。



「まずはキミに決めた!」


 

 扉の盾を前に大型店舗リーダーへと向かって突進する。

 すかさず大型店舗リーダーが手から電撃を放ってきたので、こちらも即座に扉の盾から手を離して前方へと思いっきり蹴り飛ばした。

 吹き飛んでいく扉の盾が電撃を受け止めている間に、一気に速度を上げて駆け抜ける。

 道中、油断している自警団リーダーに向かって、フリーになった左手で胸ポケットから引き抜いたゴブリンナイフを四本投擲した。

 完全に油断していた自警団リーダーの顔面付近に全弾命中したのを横目に見ながら、電撃と扉の盾を左に迂回し、道中にいる大型店舗モブ達の首を剣鉈で斬り裂いていく。



「油断は禁物というやつです」



 四人目のモブの首を裂いたタイミングで、此方の接近に気付いた大型店舗リーダーが再度電撃を放ってきた。



「ナントカの一つ覚えですね」



 発動兆候が見えた瞬間に、斬り裂いたばかりの四人目のモブを前に蹴り出して避雷針にする。

 眩く発光するモブの陰から剣鉈をリーダーに向かって投擲すると、剣鉈の後を追いかけるように前方にジャンプし、渾身の蹴りをかました。

 剣鉈が肩に突き刺さって反射的に痛みに呻くリーダーの頭部に跳び蹴りが炸裂する。

 ヒーロー物のお面を被っているおかげもあり、跳び蹴りを受け止めた大型店舗リーダーの頭部が風船のように破裂した。



「いやー、汚い花火ですねー。そう思いませんか?」



 残る自警団モブ二人にそう話しかけると、二人は悲鳴を上げながら逃げていく。

 足元の剣鉈を引き抜き、落ちていた扉の盾を拾い上げると逃げる二人に向かって投擲した。

 勢いよく縦回転する扉の盾が一人を左右に両断し、剣鉈がもう一人の頭部に突き刺さった。



「おや、まだ生きていたのですね」



 逃走者の始末を終えて舞台を見渡すと、一人だけピクピクと動いている者がいた。

 自警団リーダーに近づくと、擦れた声で久しぶりに聞く俺の名前を告げてきた。



「おや? 私を知っているのですか?」



 聞くところによると会社の同僚らしい。

 言われてみれば同僚にこんな感じの人がいた気がする。

 元々人の名前と顔を覚えるのが凄く苦手なのに、こんな世界になって激動の体験の連続だったせいで忘れてしまっていた。



「そうでしたか。色々聞きたいことはありますが、私は生き延びるためにアナタの力が欲しいのです。申し訳ありませんが私の平穏な生活の糧になってくださいね」



 これ以上の問答は必要ないので、指先を刃に変えて元同僚らしき男の首を切断した。

 大型店舗内の者達からは死角になっているので、以前会った俺だと分かることはないだろう。

 初めて同族を相手に戦闘を行なったが、これまでも数々のモンスターを殺してきたからか、今更そこに超人が増えたところで特に思うことはなかった。


 その後は武器の類いや使えそうな物資を死体から回収していく。

 回収作業の間も大型店舗から人が出てくることはなかった。

 せっかくなので店舗内を少し物色し、買い物カゴに商品を入れてからテイクアウトした。

 店内にいた者達は怯えて勝手に離れてくれるのでスムーズに物資を調達できた。

 自警団が使っていた荷車に武器や物資を満載したカゴを複数個載せると、片手で荷車を引いて舞台を後にした。

 



 

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