第7話 衣食住足りて礼節を知るかは人次第
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今日も今日とて肉を喰らいながらテレビとスマホを操作して情報を集める。
世界が変質して今日で一ヶ月が経った。
ここ半月ほどは自宅であるマンションの敷地からは出ていない。
オーク二体に快勝し、直後の不意の遭遇を余儀なくされたオーガに辛勝した日の翌日から一週間掛けて、自宅周辺の店舗から目ぼしい物資を掻き集めた。
物資の中でも生鮮食品の類は、マンションの他の部屋から持ってきた冷蔵庫や冷凍庫に入れて保存している。
壁をブチ抜いて空間を繋げた隣の部屋は、多数の冷蔵庫と冷凍庫を設置して食料庫として使っていた。
隣の部屋の扉もベランダも完全に封鎖し暗くしていることもあって倉庫感が強い。
こんなことができるのも、今もライフラインが生きているからである。
ライフラインを維持し管理・支配している行政や個人には頭が下がる思いだ。
ネットによると様々な思惑からライフラインを維持しているようだが、そのお溢れが貰えるならば文句はない。
物資を独占する過程で他人との衝突はあったが穏便に事は済んだ。
俺が怪我をすることは一度もなく、一方的に解決したのだから穏便に済んだのは間違いない。
とある大型店舗内の物資を管理し、避難してきた一般市民の集団を統制していた元警察官達から拳銃と銃弾が手に入ったのは僥倖だった。
ゴブリンナイフの投擲以外の遠距離攻撃手段が増えたのは非常に嬉しい。
高圧的かつ銃口を向けて従うよう命令してきたので、一瞬で距離を詰めて拳銃を構えている腕を〈金属腕〉の手刀で切断し、奪い取った拳銃で同じ台詞を返してやった。
店内の使える物資を根刮ぎ持っていかなかったあたり俺は優しい方だろう。
また、拳銃以外にも剣鉈やチェーンソーなどの近接武器も手に入った。
ただ、この半月はマンションの敷地内に入ってきたモンスターのみを相手にしているが、どれもこれも手足を振るって瞬殺できる程度のモンスターだったので使っていない。
おかげでここ最近は素の肉体ばかり使う所為で腕力や脚力ばかりが強化されている。
最新のネット情報によれば、ゴブリンとホブゴブリンは身体能力全般が、オオカミ系は脚力が、デカウサギ系はジャンプ力が、それぞれ該当モンスターを倒すことで強化されるとのこと。
ちなみに、オークを倒すと生命力が強化されることで自然治癒力が上がり、オーガを倒すと筋骨と皮膚が頑強になることで筋力と耐久力が大幅に強化される。
そして、モンスターだけでなく人を倒すことでも強化されることが検証によって判明したらしい。
正確には〈超人化〉ーー人間がモンスターを倒すことで、モンスターの力を自らの身に取り込んだり肉体を最適化させて変質することーーを果たした人を倒すことで、その力の一部を取り込めるそうだ。
結果、超人化が進んだ人間を倒すと強化効率が良いことが明らかになり、世界各地で人同士の殺し合いが加速することとなった。
俺もそのターゲットに狙われる可能性は十分にあるので、最近は昼間は出歩かずに大人しくしているわけだ。
未だに殺さないことには生き残れないほどの人間には会っていないが、その時が来たら躊躇わないようにしないといけないだろう。
「まぁ、どうにかなるさ」
毎日恒例の朝食を終えると、一ヶ月経っても放送を続けているチャンネルから切り替え、契約しているオンラインサービスを使ってBGM代わりに適当な映画を垂れ流しにしておく。
他所の部屋から持ってきた高そうなソファに寝転がり、テーブルには各種スナック菓子と炭酸飲料を並べてからスマホでSNSの閲覧を続けた。
「……集団か?」
ソファで寛ぐこと数時間。
今日の昼食は何にするか考えていると、自宅であるマンションが面する道路の一つ隣の道路を人間の集団が徒歩で移動しているのを感知した。
俺の初期能力〈感覚鋭敏〉も、今や能力〈超感覚〉とでも称したくなるほどに強化され研ぎ澄まされている。
気配の特徴から、オークぐらいの強さの気配を発するほどの超人化を果たしているのは五人、それ以下のゴブリンよりは強いレベルの超人が二十人いるようだ。
一部の者の歩き方からして荷車を引いているようなので、おそらくは食料調達のためにやって来たのだろう。
「調達人員でこの人数なら、拠点にはもっと数がいるってことか」
拠点の全員で出てきた可能性もあるが、まぁどちらでもいい。
脳裏に超人は強化効率が良いという言葉が過ぎる。
オークやゴブリン並みの雑魚でも、俺の〈超感覚〉や〈金属腕〉のような特殊な能力を持っている可能性はある。
そんな特殊能力の類いは才能や適性と行動環境に由来するそうだが、当人に才能や適性があるならば、その特殊能力を有する超人を殺すだけで効率良く取得できるらしい。
「……使えそうな能力なら狩るか」
いずれ人間同士で殺し合うならば、自分の意思で今のうちに経験しておくのもアリだろう。
以前のオーガ戦のような不意打ちの戦闘はゴメンだ。
傲慢警官から拳銃を奪った時とは違い、今では殺したほうが生き延びる際に有効な理由が生まれている。
彼らがどんな力を持っているか今から楽しみだ。
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