第6話 力こそ正義かもしれない
◆◇◆◇◆◇
「ーーガッ!?」
強烈な一撃を喰らい吹き飛ばされてしまう。
オーク戦と似た動きで斬り掛かったが、大鬼こと仮称オーガの体皮は非常に頑丈だった。
振り下ろした出刃包丁は弾かれ、その隙にショルダータックルを喰らわされた次第だ。
格上かつ相性が悪いとみるべきだろうか。
全身がバラバラになりそうな衝撃と痛みにクラクラする。
右半分の視界が赤い。
ああ、出血しているのか……。
「チッ。都合良くはいかないな」
周りを見ると吹き飛ばされた先はスーパーの店の中だった。
破壊により発生した粉塵の先にオーガのシルエットが見える。
このまま動かなかったら間違いなく殺されるだろう。
こんな生存競争の激しそうな世界で生き続けるのは大変だ。
そんな苦労をするぐらいなら、今ここで死んでおくのも一つの選択だろう。
「……俺はゴメンだがね」
視界の端に見えるとある物を拾うために、痛む身体を無理矢理動かして横に転がっていく。
そうして辿り着いた先で背後を振り返ると、先ほどまで俺が倒れていた場所にオーガがいた。
俺を見下ろしてくるオーガの足元にとある商品を幾つも投擲し続ける。
そんな行動をどう思ったのか、オーガは此方を馬鹿にするように嗤っていた。
「笑いたきゃ笑え。これを喰らった後もな」
ライターの火をつけると、勢いよくオーガに向けてスプレーを噴射させる。
なんちゃって火炎放射器に驚いてオーガが後退りし、先ほど足元に複数投げたカセットボンベの一つを踏み抜いた。
次の瞬間、目の前で爆発が起き、俺はまた吹き飛ばされた。
「……生きてるな」
顔に当たる水で目が覚めた。
どうやらスプリンクラーの水らしい。
頑張って身体を起こすと、両足が吹き飛んだオーガが床に伏せた体勢で苦しんでいる姿が見えた。
「思い付きにしては上々だ」
片足を引き摺りながらオーガの死角に回り込むと、動く片足で床を蹴ってオーガの背中に飛び乗った。
「やはり包丁では無理か」
となると、手で抉ってみるか。
オーガの首筋に刃が立たなかった出刃包丁を捨てて動く両手でオーガの首に指を突き立てた。
強化して得た怪力を駆使して何度もオーガの首を掻いていると、ついに皮膚が剥げた。
その剥げた場所から傷を広げ、肉を抉っていく。
暴れ馬のように暴れるオーガを無視して、ただひたすらに指先で肉を抉っていった。
首の三割ほどの肉を抉ってもなお、オーガは死んでいない。
人間と似た身体構造なら死ぬはずなのだが、人外の生命力でしぶとく生きていた。
必死に背中にいる俺へと手を伸ばすが、うつ伏せ状態では手は届かない。
肉を抉り続けるのを止めると、矛先を背椎へと変更した。
少し掘削して見つけた太い骨の連なりを強引に引っ張る。
なんとなく子供の頃にした芋掘りのことを思い出した。
やがて、オーガの絶叫とともに脊椎が引っこ抜け、その勢いでオーガの頭部が胴体から離れて転がっていった。
「はは、はっ。これだけの強敵なら強化も期待できるよな……」
オーガの血肉に塗れた無惨な状態のまま俺はオーガの死体の真横で意識を失った。
◆◇◆◇◆◇
特に何がきっかけというわけでもなく意識が覚醒した。
眼球だけを動かして周りを確認したところ、現在地は変わらずスーパーの店内だった。
横には意識を失う前と変わらずオーガの死体がある。
コキリと首を鳴らしながら身体を起こし、今度は上半身も動かして周りを確認する。
どうやらカセットボンベの爆発の衝撃で二つの出入り口が倒壊したらしい。
建物全体が倒壊しなかったのは運が良かったのだろう。
「よし。両足とも動くな」
意識を失っている間に身体の負傷が回復していた。
また、意識を失う前にはなかった力強さを全身から感じる。
何よりも一番の変化は、俺の両腕が鋼色になっていることだった。
指先から肘の辺りまでが金属のような質感に変化しており、見た目通りの硬さがあるようだ。
怪力と同様に、意識すると元の腕に戻った。
逆に鋭さを意識すると、指先が鋭利な鉤爪のような形状に変化することもできた。
おそらく、俺の攻撃行動と出刃包丁の攻撃力不足を嘆いたことが原因だろう。
他には、このような金属化は両腕だけだが、全体的に身体の耐久力が上がっていた。
頑丈なオーガを倒したことか、全身にダメージを受けた末に勝利したことか、或いはその二つが強化原因だと思われる。
「あー、スーパーが、物資調達先が……」
ボロボロになった店内は最早利用不可能だろう。
足元に転がってきたお茶のペットボトルを開けて一気に飲み干す。
「泣けるぜ……」
仕方ないので比較的な状態がマシな冷食や飲料水を無事なカゴに入れていく。
出入り口を塞ぐ瓦礫の山を金属腕で掘り進めてから外に脱出した。
「はぁ……まぁ、生き延びれただけマシか」
能力〈怪力〉と能力〈金属腕〉とでも呼称すべき二つの力の組み合わせは、今後役に立ってくれそうだ。
能力〈感覚鋭敏〉も合わせると更に凶悪さが増すだろう。
包丁やナイフを大量に用意したのにほぼ使わなくなりそうなことが、ちょっとだけ悲しい。
「……帰るか」
精神的に歩いて帰るのが億劫だったが、オークにぶつけるのに使った中型トラックがまだ動いたので、これに乗って家に帰るとしよう。
エンジンを掛け直すと、もう二度と来ることはないだろう凄惨な有り様のスーパーを後にした。
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