第4話 これがレベルアップというものか



 ◆◇◆◇◆◇



「ーーん、ううん。暗いな。もう夜か」



 かなりぐっすりと眠れたのか、寝落ちする前の身体の不調は一切感じられない。

 今からマラソンに出ろと言われても完走できるぐらいにはコンディションは絶好調だ。



「まぁ、マラソンとか出たことないんだけど」



 室内を見渡すが特に変化はない。

 ベッドから降りて両手に包丁を構えてから家の中を巡回する。

 どうやら俺が熟睡している間の侵入者はいなかったようだ。

 テーブルを元の場所に戻してからテレビを点けた。

 暫しチャンネルを変えたりして情報を集めた結果、驚くことが分かった。



「うわっ、俺、丸々一日も寝てたのか」



 昼頃に寝たから長くても八時間ぐらいだと思ったが、一日以上も寝てたとは驚きだ。

 どうりで腹が減ってるわけだ。

 カーテンを閉めてから部屋の電気を点けると、まず最初にメシを作ることにした。

 と言っても、賞味期限の近い肉を数枚焼くだけなのだが。

 食料調達の際に一緒に回収してきた香辛料やらソースやらも贅沢に使用する。

 野菜はもやししかないから炒めてから肉に添える。

 ご飯は時間が経ちすぎてるが……まぁ大丈夫だろう。


 ガツガツと大量の肉と米を食べ終わると、ポテチを摘みながらテレビとスマホを使って情報を集めた。

 今度はツマミ系も調達しないとな、と思いつつ幾つかのことが分かった。


 まず、未だ世界は混乱の渦の中にいること。

 次に、各国も自国内のモンスターの対応に精一杯なため、他国からの救援などはないこと。

 また、モンスターは空間の裂け目と表現のしようがない場所から現れるが、その裂け目はある程度拓けた場所にしか発生せず、モンスターを排出し切ったら閉じられるということ。

 そして、モンスターを殺すと人間は強くなるということ。


 特に最後のモンスター殺害による戦闘力の強化に注目すべきだろう。

 強くなるとは言っても単純に身体能力全般が強化されるわけでなく、個々人によって強化の方向性はバラバラらしい。

 この辺はまだ情報が不足しているが、真偽不明の情報もあわせて仮定すると、倒したモンスターの種類と自らの戦闘スタイルや行動スタイル、または生活スタイルが関係していると思われる。

 これは思い当たる節があるからだ。



「……ふむ。同じ階に人はいない。上階には数世帯。下階には数名の生存者がいるな。モンスターはマンション敷地内に十五体……かな?」



 どうやら俺は探知能力が強化されているようだ。

 いや、先程暗闇の中でも室内がハッキリと見えていたので、正確には感覚能力が強化されているのかもしれない。



「まぁ、生き延びるのに最適な強化だな。他には無いんだろうか」



 取り敢えず、汗を流すために全裸になると、風呂場にある鏡の前で全身を確認する。



「んー、少し筋肉質になったか?」



 少なくとも運動不足によりできていたポッコリ下腹が無くなっているのは間違いない。

 若干腹筋が割れてる気もする……なんか手の指も微妙に長くなっているし、握力も上がっているな。

 鋭敏な感覚は気配を探りながら行動したこと、筋肉質は重い荷物を運んだこと、手の指の長さや握力は投擲行動や刺突行動あたりが原因による強化ってところか。

 他にもあるのかもしれないが、総評としては中々の強化なのではないだろうか?



「殺したモンスターの種類による強化は不明だが、いずれ情報は集まるだろう」



 シャワーで汗を流しながら記憶を振り返る。

 えっと、これまでに倒したのは軽トラで撥ねたモンスターも含めると、ゴブリンが七体に、オオカミ系が三体、大型犬サイズのウサギ系が一体だったかな。

 風呂から上がると、忘れないように討伐記録をスマホのメモ帳にも記録すると、スマホが使えなくなった時のために適当な紙にも書いておいた。

 こうなるとさっそくオーク討伐に向かいたくなるが今は夜だ。

 モンスター達の夜の生態が分からない内は遠出は控えるべきだろう。


 ということで、食後の運動がてらマンション敷地内のモンスターを狩りに出かけた。

 新武器は包丁と傘を組み合わせた短槍モドキとベランダにあった物干し竿だ。

 短槍モドキを構成する包丁と傘はしっかりとガムテープで固定したが、実際どこまで使えるかは不明である。

 一方で金属製の物干し竿は鈍器としても長物としても頼もしい。

 この物干し竿を軽々と持てたことから筋力面の強化具合が大体分かった。


 正直言って強化されて浮かれ気味だが、僅かに残った理性で単独で行動しているモンスターから静かに狩っていくことに決めた。

 マンション敷地内を探知できるほどの感覚能力があれば奇襲を仕掛けることは容易い。


 静かにとはいったが、気配を殺して近寄ってから物干し竿を豪快に振り下ろし、ゴブリンの頭部を陥没させていくだけの簡単なお仕事だ。

 通常のゴブリンよりも少し大きいゴブリンという初エンカウントモンスターもいたが、強化された筋力と物干し竿の前には無力だった。

 ただ、この大きなゴブリンーーホブゴブリンと呼称するとしようーーの身体が頑丈だったからか、三体目のホブゴブリンを倒したのを最後に物干し竿は完全に折れてしまった。



「短い命だったな……」



 少ししんみりとしつつ、代わりの物干し竿を調達しに一階の住人のいなくなった部屋のベランダへと向かった。

 道中にいたゴブリンに対して短槍モドキを使ってみたが、普通に包丁を使ったほうが狩りやすいというのが正直な感想だ。

 傘部分も簡単に折れたし、この武器も短い命だった。

 

 最終的にゴブリン七体、ホブゴブリン四体、デカウサギ四体の計十五体を倒してから狩りが終わった。

 戦利品はゴブリンのナイフを十本ほど。これらは投擲用に使うとしよう。

 ホブゴブリンの棍棒もあったが、惹かれなかったので放置してきた。

 さて、次はどんな強化になるのか今から楽しみだ。



 

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