第79話 女性のままでも

 アマナスは朝早くから目を覚まし、決意を胸にオーメンとリコの部屋をノックした。

「オーメンさん。おはようございます」

「おはよう、アマナス。こんな早くにどうしたの?」

「ちょっと聞きたいことがあって」

 アマナスは真剣な表情で答えた。リコがまだ寝ているため、二人は屋上に移動することにした。


「それで、聞きたいことって何かな?」オーメンは優しい表情で尋ねた。

「俺は、自分の弱さを受け入れられていないのでしょうか?」

「そうだね。だから性反転したんだと思うよ」

「やっぱり……。じゃあ、俺の弱さって何ですか?」

「君の弱さか……」

 オーメンは少し考えた後、答えた。

「思い込みの強さじゃないかな?」

「思い込み?」

「君はとても真っ直ぐで、その分危ういところがある。例えば、倉庫で一人で突っ走った時みたいにね。その真っ直ぐさが、君の弱さなんだと思う」


 アマナスは少し考えた後、もう1つ質問した。

「オーメンさんにとって、魔道具って何ですか? そして、それを譲るということはどういうことですか?」

「魔道具は私にとって希望であり、家族のような存在なんだ。だから、譲るということは子供を他人に渡すような感覚だよ」


「それを知っていたら、俺たちも他の方法を考えたのに」

「最終的に判断したのは私だから。欲しい物が一番じゃなかったしね」

「死者蘇生の魔道具ですよね」

「そう。あれだけは譲れないし、奪ってでも守りたい」


 話を終え、アマナスは部屋に戻り、オーメンの言葉を反芻した。彼の真っ直ぐさは弱さであり、オーメンもまた魔道具に対しては同じように真っ直ぐだった。しかし、彼女は優先順位をつけて、必要なら他を犠牲にする柔軟さを持っていた。アマナスもその柔軟さを見習おうと決意した。


「試しにこの状況を受け入れてみよう」とアマナスは考えた。「今、俺は女体化している。このまま戻れなくなったらどうなるのかを考えてみよう」

 女性として生きることを想像すると、さまざまな変化が頭をよぎった。生理や女性物の服、化粧、仕事の選択肢、そして恋愛や結婚の相手も変わるだろう。「あ、オーメンさんとは恋愛関係になれないのか……」


 朝食の時間になり、アマナスは思い切って質問してみることにした。

「オーメンさんって、どんな人が好きですか?」

「突然だね」

「ちょっと気になって」

「そうだね……深い知識と精神性を持った人かな」

「お相手の性別は?」

「普通に男性だけど?」

「ですよね……」


 アマナスは焦ったが、まだ希望を捨てるわけにはいかない。「深い知識と精神性を身につければ、女性のままでもオーメンさんに振り向いてもらえるかもしれない。ならば勉強だ」と心に決めた。しかし、今は外に出られず、本もないため、オーメンから直接学ぶことにした。


「オーメンさん!」アマナスは勢いよく扉を開けた。

「うわ、びっくりした!」リコが驚いて反応した。

「ごめん」

「どうしたの?」オーメンが尋ねる。

「オーメンさんの知識を教えてください」

「知識を?」

「オーメンさんのような深い知識と精神性を身につけたいんです」


 オーメンは少し考えた後、話し始めた。「知識は一般と特殊の2軸で得るのが基本だよ。教科書に書いてることとか、常識やマナーが一般。小説とか、人それぞれの考え方が特殊に分類される。まずは一般を学んで、そこから特殊に進むと良いよ」


 アマナスはその言葉を心に刻み、オーメンから本を借りることにした。本を読みながら、彼は考え続けた。「男に戻りたい気持ちは変わらない。でも、男らしさに囚われるのは良くない。どうすればいいんだ?」


「オーサーさん。好きな人に振り向いてもらえない人生ってどう思いますか?」

「まさに今の俺の人生がそうなんだが」

「そうでしたね。それでどうなんです?」

「辛いけど、会えないよりかはマシだな」

「なるほど」

 なら俺も、女性のままでもオーメンさんと一緒にいられたら幸せだと思った方が良いのかな?


 そう思った瞬間、体から煙が立ち上った。

「⁉」

「おい、大丈夫か?」

 オーサーが心配する。

 激痛が走る。骨と筋肉が音を立てて形を変える。特に股間の痛みは強く、意識が薄れる。

「あ、……がっ」

「アマナス!」

 煙が晴れるとアマナスは男に戻っていた。

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