第11話 裁判前夜

裁判前夜

「話してくれてありがとう」

 重々しい空気の中、オーメンが口を開く。

「愛されてるんだね」

 と優しい微笑みを浮かべながら言う。

「うん!」

 リコは元気よく返す。


 コンコンと戸が叩かれた。

「リコちゃんいる?」

「おばちゃんだ!」

 二人の心拍が一瞬早くなる。どんな人なのかと期待する。

「元気だった?」

「うん!」

「あら? お客さんでもいるの?」

「「お邪魔してます」」

「あら、二人も」


 琴は二人に茶を出した。二人はそれを飲みながら、この村に来てからのことを伝えた。

「じゃあ、証明書は取れそうなのね?」

「必ず取ってみせます」

 オーメンが強く肯定する。

「良かったわ。そこだけは、私たちじゃどうにもならなかったから」

 琴は心底安心したように、そう返す。

「あの店長は駄目だったんですか?」

 アマナスが質問する。

「駄目ね。あの人、人情の人じゃないから」

 二人は話を思い出し、なるほどと思った。

「それより……」

 琴はアマナスを見る。

「失礼承知で聞くけど、貴方のその魔力。リコに与えても大丈夫なの?」

 黒い魔力。魔物と同じもの。これだけで、心配するには充分すぎた。

「恐らく問題無いかと」

 オーメンが答える。

「元から魔力を持っている人間なら、黒い魔力を受け入れられないと思います。しかし無魔力者なら、それに適合する確率は高いです」

「それでも、絶対じゃないでしょ?」

「そこで、魔物を食べることを提案します」

「「!!」」

 アマナスと琴が驚く。

「ちょっと貴女何考えてるの!? そんな危険なことさせられるわけないでしょ!」

「気持ちは分かります。しかしこれ以上に適合率を上げられる方法はありません」

「そんなの信じられるわけないでしょ!」

「食べ物は私達の体と魔力を作ります。だったら、魔物を食べれば、黒い魔力への適合率が上がって然るべきです」

「それでもやっぱり野蛮よ!」

「リコちゃん。貴女はどうしたい?」

「えっ?」

「やらなくても、適合する可能性は高い。そして、食べればより可能性は高くなる」

 リコは数秒考えた。そして

「私は危険でもそれで良くなるなら、頑張りたい」

 と。

「決まりだね」

「リコ……」

 琴以外は決意が固まった。


「ねぇ、魔力を与えられるかは、裁判で決まるのよね?」

「そうですよ」

「ならせめて、魔物を食べるのは判決が出てからにしてほしいの」

「早い方がいいと思いますけど」

「否決となったら、魔物を食べても無駄になるでしょ? 無駄になるかもしれないリスクは背負わせたくないの」

「じゃあそうします」

 その言葉を聞いて、琴も覚悟が決まった。


 そんなこんなで二日はあっという間に過ぎ、手紙が来た。

 開廷は二週間後午前十時。その日は早く寝て翌日に備えた。

 そして今、裁判が始まる。

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