第23話 お泊まりです。(5)
田舎ぐらしの下級貴族令嬢の朝は早い。
夜明けとともに庭の飼育部屋に詰めこまれた卵製造機たちが……って、あれ?
あっ、そうだ。今日はお泊まりだから、卵の回収はお休みだ。
すぐ隣では、フレイクさんが寝ています。お仕事で疲れているのかもしれません、起こさないようにしないと。
ですが、
「おはよう、ココネ」
目を覚ましてしまいました。
「おはようございます、フレイクさま」
嬉しそうな顔をする彼。わたしも嬉しくなりました。
フレイクさんはベッドを降り、
「ここでお待ちください。着替えを用意させます」
着替えですか。確かにネグリジェ姿ですしね。
「はい、いい子にしております」
「あとで朝食をご一緒しましょう」
「はい」
笑顔を返すと、彼は嬉しそうなお顔で頷いて、部屋を出て行きました。
そして間もなく、わたし専属の5人のメイドさんたちのうち、3人が部屋に入ってきます。
「おはようございます、お嬢様」
「おはようございます、みなさん」
メイドさんたちが、ベッドを降りたわたしの身体をチェックし始めます。腕、顔、髪、それに着ていた物も、入念に調べているようです。
(なんでしょう……?)
少し間があって、「はっ!」となりました。
(これ、フレイクさんがわたしに手を出したかを調べてるの!?)
夜の行為があったかを、チェックしてるんじゃない!?
そうだよね、一緒のベッドで寝たんだもん。そういうことをしたと思うのが普通かも。
それに公爵家にとっては、重要案件なのかもしれません。
だけどわたしは、なんだかムッとして、
「よごしてはおりませんわ。おねしょをする年ではございません」
くすくす笑う演技をしました。
ですが、怒りが含まれている笑いであることが伝わってしまったのでしょうか、
「も、申し訳ございませんお嬢様。ご不快に思われたのでしたら謝罪いたします」
彼女たちは揃って頭を下げました。
「ごふかい? しゃざい? むずかしいことばはわかりません。ごめんなさい」
なにもなかったですよ。そうです、フレイクさんはこんな幼女に手を出したりしません。
出すとしても、ちゃんと結婚してから……って、あっ、そっか。
わたしは怒りの原因に気がつき、
「わたくし、かおをあらいたいのですが。公爵さま……」
言葉を切るとメイドさんたちを見て、
「いえ、フレイクさまに朝食のおさそいをいただきましたので、身だしなみをととのえたいです」
彼を「公爵さま」ではなく、「フレイクさま」と呼びなおしました。なぜそのようなことをしたのか、自分でもわからないままに。
「はい、かしこましました。すぐに準備をさせていただきます」
わたしの着替えが、フレイクさんの寝室に運ばれてきます。水やタオル、身体を清める用意もバッチリ。
イスに座らされて、顔を拭かれ、髪をすかれる。
乳液かなにかかな? 顔をつやつやにしてもらいましたが、幼女ですので肌はもとからピチピチなんですけど。ですが、いい匂いです。
「こちらが朝のお召しものになります、よろしいでしょうか」
空色のドレス。ふわふわで幼女趣味ですが、金糸のあしらいが施され、とても高級であることが見るだけでわかりました。
(これも、わたしに用意してあったのですか?)
ドレス何着あるんだろう? 朝のお召しものっていってたよね。昼のお召しもの、夜のお召しものは、また別なのかな。
ちょっと怖くなってきた……。
着せられた服はぴっちりサイズではなく、なんとなくの感じで作られているようでした。具体的には、足元が少し短い気がします。
多分わたし、幼児のわりに腰の位置が高くて脚が長いからでしょうね。仕上げに髪が結われて、宝石細工の花を模した髪飾りが挿されました。
きれいに可愛く、メイドさんたちによって整えられます。鏡で確認させてもらいましたが、口出ししようもない完璧さです。
時間が経ってムカつきが収まり、さっきの態度を申し訳なく感じてきました。わたしは子どもらしく感情の
「……あの、みなさん。フレイクさまは、わたくしのような子どもに、夜のあいてをさせるかたではございません。もしそのようなことがあったとしたら、それはわたくしがのぞんだからです。そのように、心にとめておいてください。おねがいします」
メイドさんたちに頭を下げると、
「かしこまりました、お嬢様。先ほどは大変なご無礼をいたしました。どうかお許しいただけますよう」
リーダー的な人が頭を下げて答えてくれました。
「わたくしも、イヤなたいどでした。わけもわからずに、むっとしてしまいました。ですがよくよく考えますと、そのようなきもちだったのだと思いいたりました。しゃざいするつもりはありません。ですが……」
わたしは小さく深呼吸して、
「好きな人を
親しみを込めた、大人の口調で伝えました。
「はい、もうあのようなことはいたしません。二度とお嬢様をご不快にさせないと誓います。申し訳ございませんでした」
「わかってもらえてたすかります。わたくしはみなさんを、たよりにしておりますもの」
わたしの笑顔に、彼女たちもホッとした顔をくれました。
実際わたしが、この人たちだよりなのは間違いないです。自分ひとりだとなにもできませんから。
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