じゃない方聖女、学校をクビになったけど実力を発揮します

uribou

第1話

「君、ちょっといいか?」


 学校の裏庭でいつものようにお弁当を食べてたら、イケメン三人組に声をかけられた。

 顔は知ってる。

 第一王子ブラッドリー殿下とその取り巻きだ。

 何と眼福、今日はいい日だなとのん気に思ってた。

 おバカな自分を殴りたい。


「聖女のヨーコ君で間違いないかな?」

「はい、間違いないです」


 王子の感情を隠したフラットな顔で気付きゃいいものの、この時点でも聖女のあたしのファンかしら、なんて考えてたわ。

 いや、我が国に聖女は二人しかいないから、勘違いもムリからぬことではあるでしょ。


 聖女?

 神様に気に入られて大きな力をもらった女性のことだよ。

 大体回復とか浄化とかが得意で、魔力が豊富とされている。


「僕のところに上がっている報告書では、ヨーコ君は聖女としての能力に問題があるのではないか、とあるんだ」

「ぎくっ!」


 あたしの魔力は大きいらしいんだけど、細かい操作がからっきしなの。

 聖女でない普通の癒し手でさえ使える回復魔法ヒールすら使えないから、魔道研究所通いだわ。

 聖女らしい癒しの施しのお仕事なんかは、もう一人の聖女である公爵令嬢アンジェリカ・カラッティアスちゃんにお任せだわ。

 そのせいであたしは『じゃない方聖女』って呼ばれてるの。


 あーあ、アンジェリカちゃんはいいなあ。

 可愛いし魔法が上手だし、おまけに公爵令嬢だもんなあ。

 あたしとは大違いだよ。


「ヨーコ君は聖女なので、平民にも拘らず特待生として王立貴族学校に通っていると聞いた。相違ないかい?」

「はい、間違いありません」

「今から僕が言うことは決定事項だと思ってくれ」


 嫌な予感がする。

 聖女として働けてないから、当然学校に通わせることはできないとか?


「結論として、ヨーコ君が王立貴族学校に通うことはムダだ」

「やっぱり!」

「荷物をまとめて女子寮から出て行きたまえ」


 がーん、いきなりクビだよ!

 予想できなくはなかったけど!


「お、お世話になりました……」

「む? ヨーコ君は宿の当てがあるのか?」

「ありませんけど……」


 宿どころか、今後の生活の当てすらないよ。


「魔道研究所に寮がある。そこへ行きたまえ」

「い、いいんですか?」

「いいも悪いも、魔道研究所はヨーコ君の仕事場なのだろう?」


 あたしは学生だから(だったから)、仕事じゃないよ。

 あっ、仕事という名目で、魔道研究所で暮らしていいって仰ってるのか。

 王子いい人!


「報告書によれば、ヨーコ君の魔道研究所における勤務実績は極めて真面目とある。毎日時間に遅れずに出勤すると」

「えーと……」


 背中がむず痒い。

 お菓子をたくさん食べさせてくれるから、喜んで行ってるだけだ。


「では今日の午後は引越しに時間を充てたまえ。学校の方の手続きは僕が済ませておく」

「わかりました。よろしくお願いいたします」


          ◇


 ――――――――――ダンカン宮廷魔道士長視点。


 聖女の出現率は時代を経るごとに減っている。

 これは聖女の必要のない世の中になっているのか、人類が神に見放されつつあるのか。

 あるいは他の要因があるのか、見解の分かれるところではある。


 我がルダーネリア王国には二人も聖女がいる。

 他国に大きな顔ができる理由の一つだ。

 アンジェリカ嬢は並みだが、ヨーコ嬢の魔力は図抜けている。

 歴代聖女を見渡してもそうそういないレベルではないか?

 だからこそヨーコ嬢の扱いには慎重にならねばならぬのだが……。


「ねえ、ダンカンさん。あたし聖女クビになっちゃうのかなあ?」


 クビ? ヨーコ嬢が?

 あり得ん。

 というか聖女をクビになるなんて聞いたことがない。


「クビなんてことはないから安心しなさい。だがどうしてそう思ったんだ?」

「昨日ブラッドリー殿下に会ってね? 聖女としての能力に問題があるから、学校は退学だ、魔道研究所に行けって言われたの」

「えっ?」


 かなりニュアンスが違うんだが。

 学校内のことだからブラッドリー殿下が処理すると言っていたが、真意がヨーコ嬢に伝わっていないのではないか?

 いや、本当の理由などヨーコ嬢は知らなくてもいいことか。

 あえて誤解されるような言い方で誤魔化したのかもしれない。


「退学というのは語弊があるな。ヨーコ嬢の学業成績はとてもいいだろう?」


 マナーと淑女科目を除けばトップだと聞いている。


「赤点スレスレの科目もあるけど」

「平民聖女のヨーコ嬢にマナーや淑女科目なんか期待してないんだと思う。とするとこれ以上学校に通っていてもさほど意味はない。大体学べることは学んだだろう?」

「うん」

「退学じゃなくて卒業扱いになってるはずだ」

「そーなの?」

「ああ。ブラッドリー殿下が仰っていたからな」


 こんなことで喜んでいる。

 すごい力の持ち主なのになあ。

 可愛いものだ。


「ただ卒業扱いと吹聴すると、贔屓だとガタガタ言う者も出てくるからな。黙っていなさい」

「はあい」


 自分では全然理解していないようだが、ヨーコ嬢は聖女として素晴らしい素質を秘めているのだ。

 しかもヨーコ嬢の極めて大きな魔力量に目をつけた研究所の魔道士達が、菓子で釣って実験に付き合わせている。


 ……ヨーコ嬢の魔力量は段々増えているような気がするがなあ?

 魔力は使えば伸びるものと知られてはいるが、傍から察知できるほどとは。

 さすがに聖女は規格外だと思わざるを得ない。

 いや、ヨーコ嬢が規格外なのか。


「あたし、聖女としてはダメダメだよね」

「む、どうしてだ?」

「アンジェリカちゃんみたいにうまく魔法を使えないし」


 持ち魔力量が多過ぎて出力を絞れないからだ。

 大きな魔法なら問題なく使えることは立証されている。

 例えば回復魔法ヒールをうまく使えなくても、範囲魔法化したリカバーならヨーコ嬢は使えるのだ。

 癒しの施しの場ではムダだからやめろと言われたみたいだが。


「得意不得意があるのは仕方ないであろう」

「そう?」

「魔道研究所では役に立っているのだ」

「役に立ってるのかなあ? ダンカンさんは優しいね」


 またしてもわかってないみたいだが、ヨーコ嬢の豊富な魔力量を利用できるおかげで、魔道士達の研究は捗っているのだ。

 十分過ぎる働きなのだが。


「あたしは魔道研究所で何をすればいいのかな?」

「今までと同じでよいのだぞ」

「ええ? 何もしてないのは気が引けるから、仕事したい」


 ヨーコ嬢のモチベーションを下げるのもよろしくないか。

 ヨーコ嬢ほどの聖女が他国に流出したら、我がルダーネリア王国の一大事だ。


 ……魔道研究所にヨーコ嬢を隔離するのは、その身を守るためでもある。

 平民のヨーコ嬢には後ろ盾がないから、他国に狙われやすいと考えられているのだ。

 幸いヨーコ嬢には、アンジェリカ公爵令嬢ほどの知名度がない。

 せいぜいが『じゃない方聖女』ってくらい。

 魔道研究所で保護しておけばまず安全だ。


 もう一つ、第一王子ブラッドリー殿下の婚約者の座を巡る争いがある。

 順当に行けば聖女かつ公爵令嬢のアンジェリカ嬢だろう。

 ただアンジェリカ嬢は性格や知性に問題があると聞いている。

 他の高位貴族令嬢には決め手がない。

 学業成績が優れていてずば抜けた魔力を持つヨーコ嬢が、ダークホースとして候補に上がることもあり得るのではないか?

 貴族間の駆け引きの場に、力ある平民聖女のヨーコ嬢を放り込むのは危険だ。


「仕事か。ヨーコ嬢には莫大な魔力を提供してもらっているからいいのだが」

「あたし自身は何もしてないんだよね」

「気になるのか。では蔵書の整理を頼んでいいか?」

「蔵書? 本?」

「うむ」


 研究者に整理整頓が得意な者はいない。

 とは極端な言い草かもしれないが、少なくとも魔道研究所に所属する魔導士は片付け下手ばかりだ。

 自分の研究データならともかく、共用の書物や資料が行方不明なのは、実は地味に困る。


「蔵書の管理は、ある程度内容を理解していなくてはならん。ヨーコ嬢は学校で学ぶべきことはもうないかもしれない。が、魔道研究所の蔵書には知らないことも多く書いてあると思うぞ」

「そうだね。ダンカンさんありがとう!」


 これでいい。

 楽しく過ごしてもらえれば。

 しかしヨーコ嬢の処遇は国でしっかり定めるべきだと思うが。


          ◇


 ――――――――――公爵令嬢アンジェリカ・カラッティアス視点。


 目障りなガリ勉ポンコツ聖女ヨーコが退学になりましたわ。

 ああ、何と嬉しいこと!


 ブラッドリー殿下が追い出したそうです。

 当たり前です。

 聖女ヨーコはまともに魔法を使えないんですから。


 おかげで庶民への癒しの施しの聖務は、わたくしにばかり回ってくるのです。

 ああ、面倒くさいこと!

 わたくしに負担ばかりかけ、聖女面するのもいい加減にして欲しかったです。


 でももう少しわたくしの出番を減らしてもらえないかしら?

 遊ぶ時間が少なくなってしまいますわ。

 癒しを施す相手が庶民じゃなくて有力者だったら、ちょっとはやる気になるんですけれども。


 学校を退学にできても、聖女の称号は剥奪できないそうです。

 聖女を決めるのは神の領分で、下界の者が立ち入ることはできないんですって。

 ということは、わたくしも神が認めた聖女ってことよね?

 ふふん、誇らしいですわ。


 でも聖女ヨーコに対する、魔道士達の評価は高いんですのよね。

 魔法を使えないクセに魔力量は多いから。

 ええ、学校の成績と魔力量だけは敵わないのですわ。

 本当に忌々しい!


 ブラッドリー殿下の婚約者が誰になるかは、ルダーネリア王国民の重大な関心事ですわ。

 それはわたくしにおいても同様。

 殿下は統率力の優れた素敵な方です。

 なかなかハンサムですしね。

 ちょっとお堅い印象はありますけれど、いずれ王太子から王になるブラッドリー殿下の婚約者は、わたくしに相応しいポジションではなくて?


 わたくしが第一候補だということも理解していますわ。

 だって聖女でカラッティアス公爵家の娘ですもの。

 このまま聖女としての実績を積み重ねていけば……。


「お嬢様、王家からお手紙です」

「王家から?」


 珍しいわね。

 一瞬婚約の打診かと思いましたけれど、それならお父様宛てに来るはずですし。

 ええと、何々?

 辺境で大型魔物が出現?

 退治のために聖女一人を同行させる意向?


 じ、冗談じゃないですわ!

 魔物なんて怖いですわ!

 ええ、こんな要請はポンコツ聖女が受ければいいのですわ。

 だってわたくしには癒しの施しの聖務がありますし。

 お・こ・と・わ・り・し・ま・す、と。


          ◇


 ――――――――――第一王子ブラッドリー視点。


 凶悪な魔物が出たという辺境にガタゴトと馬車を走らせる。

 僕が魔物退治の司令官だ。

 理由はいくつかある。

 立太子間近なので武勲が必要であるとか。

 王族が率先して退治に向かったという姿勢が必要だとか。

 退治に成功したら魔物学の単位を特Aにしてくれるとか。


「もうすぐ到着ですねえ」

「うむ」


 聖女ヨーコが同行している。

 最初は王子の僕がいるせいか緊張していたものの、今やすっかりリラックスしている。

 適応力が高いと言うか図太いと言うか。

 頼りになる気がする。

 さすがにダンカン宮廷魔道士長が強力に推しただけのことはある。


 僕の婚約者ナンバーワン候補は、一般にアンジェリカ・カラッティアス公爵令嬢と目されている。

 でもなあ。

 アンジェリカのことは昔から知ってるが、我が儘で見栄っ張りで肝の据わってない令嬢なんだよな。


 アンジェリカが聖女認定を受けた時は、これで僕の婚約者は決定かとガッカリしたものだ。

 が、すぐ決定とはならなかった。

 おそらく父陛下もアンジェリカが王妃となる未来に不安を覚えたからだと思う。


 それでも今回の魔物退治で率先して従軍する姿勢を見せたなら、アンジェリカも変わったのだと信じることができたのだが。

 即行で断ってきたわ。

 まるで成長していない。


「ヨーコ君はどうだ。魔道研究所での生活は」

「はい、皆さんよくしてくれますので快適です」

「そうか」


 ニコニコしている。

 女性にとって魔道研究所での生活が快適なわけはないだろうが。

 質素な暮らしで満足できるのは、それだけで価値がある。

 現に今みたいな遠征もあり得るわけだし。


「もうそろそろ到着だな」

「山の主と言われる魔物が里まで下りてきてしまったと聞きました」

「ギガグリズリーという話だ」


 クマの魔物だ。

 肉食魔獣に比べれば凶悪な魔物ではないが、人の味を覚えてしまっている。

 家畜を潰してエサとして与え、時間を稼いでいるらしいが、確実に駆除しなければならん。


「少し予習してきたんですよ。魔物化したクマは身体が大きくなり、毛や皮膚が非常に硬くなるとか」

「うむ、そう言われているな」

「あたしは何をすればいいでしょうか?」

「ん?」


 ……特に聖女ヨーコに何かをしてもらおうという気はなかったな。

 聖女が退治に参加したという実績ができればそれで。

 

「……逆にヨーコ君が得意なことは何だったかな?」

「浄化や結界、重力魔法でしたら」

「え?」


 浄化や結界は聖女だから可能かもしれないが、重力魔法?

 ハイレベルな魔法だろう?


「ヨーコ君は魔法が不得意だと聞いていたのだが」

「細かい魔法がどうにも苦手で。あんまり出番がないような魔法は得意なんですけど」


 何だそれ?

 ちょっと何言ってるかわからない。


「ヨーコ君が適切だと思うタイミングで援護をくれ」

「わかりました!」


 まあいい、元々当てにはしていない。

 さて、到着か。


          ◇


 ――――――――――負傷者が寝せられている小屋にて。聖女ヨーコ視点。


「ひどい……」


 案内された先には重傷者が一〇人以上も。


「皆、ギガグリズリーにやられたんだな?」

「はい、死亡者も一〇人以上出ているんです。騎士様に来ていただいて助かりました。心強いです。地元のハンターでは手に負えなくて……」

「ヨーコ君、回復魔法が苦手なことは……」

「はい、お任せください。リカバー!」


 包帯の下はわからないけど、見える擦り傷は全部消えてる。

 いいんじゃないかな。


「お?」

「い、痛くない!」

「動けるぞ!」


 よかったね。

 亡くなった方には申し訳ないけど。


「あ、あなた様は?」

「聖女のヨーコと申します」

「おお、聖女様!」


 大げさだな。


「ヨーコ君は回復魔法が苦手ではなかったのか?」

「ヒールが苦手なんです。範囲内にいる人全部治すリカバーみたいな、大雑把な魔法は得意なんですけど」

「大雑把な魔法……」

「オレ、肩凝りが治っちゃいましたよ」

「ああ、よかったですね」


 アハハ。

 そんなことよりクマの魔物は?


「憎むべき魔物はどこだ。早々に退治せねばならん」

「斥候にチェックさせています。向こうですです」


          ◇


 ――――――――――第一王子ブラッドリー視点。


 ギガグリズリーの退治は呆気なかった。

 ギガグリズリーが弱かったというわけではない。

 立ち上がると成人三人分くらいの高さのある、とんでもなくデカい個体だった。


 いきなりぶうんと振り回してくる前脚にまずいと思ったが、聖女ヨーコの結界に弾かれ、むしろギガグリズリーの方が前脚を痛めていた。

 どれだけ硬い対物理結界なんだ。


 結局聖女ヨーコの重力魔法でギガグリズリーを地べたに押さえつけ、騎士全員で首を狩った。

 いや、初めは刃がほとんど通らなかったんだが、聖女ヨーコが付与魔法をかけるともうスパスパ。

 チーズを切るような感じで、従軍騎士全員が興奮していたくらいだ。

 肉は村民に提供し、頭部と毛皮は証拠兼戦利品として持ち帰った。


 聖女ヨーコの実力には本当に驚いた。

 これが神に愛された聖女の真の実力なのかと。

 魔法が苦手とは何だったのか。

 癒し手モドキの聖女とは全然違うじゃないか。


『ヨーコ嬢は、見せかけじゃない方の聖女ですからな。絶対に役に立ちますぞ』


 ダンカン宮廷魔道士長の自信がわかった。

 聖女ヨーコの実力を正確に把握していたからだ。

 何がじゃない方聖女なんだ。

 従軍騎士達はケガ人も出さず、簡単に仕事が片付いたことで、聖女ヨーコを崇めんばかりに賛美している。

 それよりも……。


「何事もなく終わってよかったです」

「しかしヨーコ君の本来の職務ではなかっただろう?」

「いえいえ、あたしは今まで聖女らしい働きができていませんでしたから。ホッとしました。こういうのはあたしの得意分野ですのでお任せください」


 聖女ヨーコは魔道研究所勤めだ。

 軍人としての訓練を受けているわけではないので、アンジェリカのように断わってもよかった。

 しかし喜んで従軍してくれ、大きな成果を出してくれた。

 不平たらたらで癒し手をしているどこぞの聖女とはえらい違いだ。


「ヨーコ君」

「何でしょう?」

「僕の婚約者になってくれまいか?」

「ええと、いいんでしょうか?」

「もちろんだ」

「では、よろしくお願いいたします」


 うん、思い切りもいい。

 ダンカン宮廷魔道士長が言うには、間違いなく世界最大の魔力量を誇る聖女だと。

 我がルダーネリア王国の誇る至宝であると。

 とても信じられなかったが、底知れぬあの魔法の実力を見たからには大いに頷けることだ。

 父陛下がアンジェリカを僕の婚約者に定めなかったことも、聖女ヨーコの従軍を喜んだのも、僕が聖女ヨーコを妃とする可能性を考えていたからだろう。


 目の前の聖女は美しい。

 やり遂げた喜びに輝いているのだ。

 ルダーネリアの国母に相応しいのはこういう女性だ。

 惚れた。


「こちらこそよろしく」


          ◇


 ――――――――――聖女ヨーコ視点。


 王都への帰り道で、ブラッドリー様に婚約の申し出を受けた。

 魔物をやっつけた高揚感もあって、勢いで受けてしまった。

 いやだって、王子様だよ?

 受けるでしょ、普通。

 ブラッドリー様イケメンだし、気遣いできる人だし。


 ブラッドリー様もテンション上がっちゃって、何となく口に出しちゃったのかなあとチラッと考えた。

 後からお断りされるかもなと思ったから、特に誰にも言わなかった。

 そしたら魔道研究所の寮宛てに、マジで婚約の申し込みが来た。

 当然大騒ぎになった。


 ヨーコちゃんクラスの聖女なら当然だよな、とかブラッドリー殿下見る目あるとか。

 あれ? あたしって意外と評価高い?

 じゃない方聖女ですよ?

 宮廷魔道士長ダンカンさんがすごく喜んでくれたのが嬉しい。

 ダンカンさんはいい人だから。


 アンジェリカちゃんが魔道研究所に押しかけてきたこともあった。


『何であなたがブラッドリー殿下の婚約者なのっ! きーっ!』


 という魔物みたいな威嚇音を出していた。

 あたしが言うのも何だけど、淑女らしくないなあと思うよ。

 あたし自身ブラッドリー様の婚約者に相応しいと思ってるわけじゃないから、あたしは何を言われても構わない。

 でもブラッドリー様の感覚がおかしいの頭が狂ったの言われた時はカチンと来た。

 ブラッドリー様は悪くないわ。


『聖女として任務を受ける姿勢と学校の成績で決めたみたいですよ』


 とでまかせ言ったったら、ぐぐぐって唸ってた。

 アンジェリカちゃんは魔物の真似が上手。

 今度は目付きまで似せてきた。

 でもアンジェリカちゃんせっかく可愛いのに、ムダな芸じゃね?


 あたしは再び学校に通うことになった。

 あたしが魔道研究所に押し込まれたのは、聖女として類を見ないパワーを持っていたから、他国から狙われないようにっていう配慮もあったようで。

 ええ? 魔力量ってそんなに大事なの?

 じゃない方聖女としてはビックリだよ。


 もうブラッドリー様の婚約者として護衛もついてるから、通学してもいいんだって。

 復学と言えば復学なんだけど、あんまりカッコいい理由じゃないんだ。

 マナーと淑女科目で補習食らったの。


『ヨーコさんはブラッドリー殿下の婚約者なんですからねっ! 相応しくあるまでビシビシ行きます。王立貴族学校の誇りに懸けて!』


 何という気迫。

 魔物だ、ここにも魔物がいる。

 クマの魔物よりもよっぽど恐ろしい。


 ブラッドリー様?

 あたしが甘いもの好きと聞きつけたらしく、時々おやつをお土産に持ってきてくれる。

 わあい、嬉しいな。

 いや、おやつもだけど、ブラッドリー様が会いに来てくれることもね。


 よく知らない頃は、ブラッドリー様は理知的なクールな人だと思っていた。

 魔物退治を通して、正義感のある熱い人だとわかった。

 そして婚約者となって、瞳の優しさと柔らかく抱きしめてくれることを知った。


 あたしは応えなきゃいけない。

 ブラッドリー様の愛と期待に。

 何てね。

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じゃない方聖女、学校をクビになったけど実力を発揮します uribou @asobigokoro

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