「あーあ、だから言ったのに。そこ罠あるって言ったよね?」──勇者ちゃんはわしらが育てた──勇者候補生のダンジョン配信を視聴した指示厨おじさん愉悦部活動記録(ネタバレ:感情を食う化け物がでてきます)
第1話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──御使マナカのケース──①
「あーあ、だから言ったのに。そこ罠あるって言ったよね?」──勇者ちゃんはわしらが育てた──勇者候補生のダンジョン配信を視聴した指示厨おじさん愉悦部活動記録(ネタバレ:感情を食う化け物がでてきます)
浅草文芸堂
第1話 勇者ちゃん、ゴブリンの住む洞窟に行く──御使マナカのケース──①
配信画面にはオープニング映像が流れている。
デフォルメされた女の子のアニメだ。
水色の服を着た小柄な少女が右から左へ走っていた。
少しダボついた服が揺れて動いている。
胸は揺れない。
それが切り替わった。
画面に大きく映し出されたのは、少女の顔のドアップ。
まだどこか幼さの残る、銀髪の女の子だ。
「みなさん、どうもこん勇者~。⚡充電120パーセント、天罰くらわしちゃうぞ? 天界からの派遣のバイト、御使マナカです~。どうもどうも~」
その少女、マナカが画面の中から手を振ってくる。
ダボついた袖口が揺れて見えた。
と、画面脇にあるコメント欄が流れ始めた。
びよーん『こん勇者~』
まるア『こん勇者~』
説教筋肉『遅いっ‼‼‼‼』
ひろし『まってた』
ケツパジェロ『顔近くね?』
「顔、近い? じゃあ、これで……音は? 大丈夫そう? ……改めまして、こん勇者~、御使いマナカでーす。さて、今回はですね、ゴブリン洞窟に挑戦してみた! ということでね、やっていきたいんですけれども」
マナカがそう言うと、配信画面が動く。
画面には鬱蒼と茂る樹々。
と、よく見るとその奥に岩山がある。
その岩肌にはぽっかりと開いた黒い穴。
穴の付近にはなにか立てられているようだ。
動物の骨などで飾られたトーテムだろうか。
「……あれが今回探索する洞窟、かな? このゴブリン洞窟、なんか最近、他の勇者の子達の間でも流行ってるらしくて、結構配信されてるよね」
マナカの発言を受けて、コメント欄も反応する。
ねっちょりぼんくん『ポーラちゃんの配信で見た』
青いゲリラ『トラップありの初見殺しダンジョン。殺意は高い』
ひろし『ゴブリン期待』
もちっこ『ゴブリンの巣窟……美少女勇者1人……何も起きないわけもなく……』
ひろし『ごぶりんがんばえー』
マナカは小首を傾げて見せた。
「ポーラちゃんの配信のサムネで見たんだけど、ゴブリン相手だからヌルゲーかと思ったら結構てこずる感じかな?」
青いゲリラ『難易度はそこまで高くない。冒険に慣れてない初心者には厳しい』
♰Michaer♰『たまに即死トラップがあるから……』
説教筋肉『罠など臆病者のごまかし、力づくで踏み潰せぃっ‼‼‼‼』
青いゲリラ『だが、ここのトラップはマナくんにとって相性がいいので有利に進められる』
骨ロック『こん勇者~』
「あ、こん勇者~。まあ、どんなトラップがあるか楽しみだね! ではでは早速攻略していきたいと思います! あ、そのまえに注意! コメントでネタバレは禁止、だかんね? この洞窟の先になにがあってなにがいる、とか具体的に詳しくコメントしちゃダメだよ?」
ひろし『は~い』
青いゲリラ『心得ている』
もちっこ『詳しくはしないよ?』
まるア『なんで?コメントは自由じゃないの?』
マナカは眉根を寄せて難しい顔。
「ていうのも、なにが起こるか初めからわかっちゃってると経験値貰えなくなっちゃうから。それに、見てるみんなも僕がこの先になにがあるか知ってたら面白く思えないんじゃないかな? わざとらしくなるっていうか」
闇姉妹『わかる』
まるア『危ない場所とかがあったら親切で教えてあげようってだけなのに……』
びよーん『ネタバレされちゃうと、マナくんがびっくりしてても本当は何が起こるか知ってたくせに……ってなる』
ケツパジェロ『びっくりした演技より素のびっくりをみたいよな』
説教筋肉『勇者がヘマやらかして発狂台パンする素の姿でしか食らえぬ栄養というものがある……っっ‼‼‼‼』
ひろし『やらせなし、ガチゴブリン、そしてぽんこつマナくん……興奮してきたな』
マナカはコメント欄を見て、顔をしかめた
「はあ? はあああ!? 僕、やらかしたりなんかしないけど? もうゴブリンなんてワンパンだよ? ごめんね? このゴブリン洞窟最速でクリアして配信5分で終わっちゃうかも。せっかくみんな僕の配信楽しみにしててくれたのにねぇ? すぐ終わっちゃうねぇ?」
はちみつ『イキリ天使』
ひろし『これはわからせが必要』
もちっこ『即落ちフラグやめな』
説教筋肉『いいぞ、その調子だ……‼』
と、画面の中のマナカは元気よく腕を振り上げた。
そして、びしっとかっこいいポーズ。
「まあ見ててくださいよって! じゃ、いっくよ~!」
そうしてマナカは右手にショートソードを掲げつつ、洞窟へと足を踏み入れていく。
◆
ぐへへ……と鳴き声をあげる薄汚いゴブリンたちは、手に手に粗末な武器を持っていた。
防具の類は何もつけていない、ほとんど半裸の状態だ。
その方が、なにかをおっぱじめるのに手間がかからないとでもいうように。
そんなゴブリンたちと対峙するマナカには臆した様子もない。
ショートソードを構えながら無手の左手を掲げる。
と、掲げられた左手に青い雷がバチバチと閃いたではないか。
雷の発光で、マナカ自身も青く染まった。
「おらよ、天罰ちゅぅうっ!」
マナカがそう叫ぶと同時に、その左手から雷は放たれる。
「ぐげえあああ!」
耳をつんざくような雷鳴がそれから何度も轟き、ゴブリンたちがことごとく焼け焦げて倒れる。
ケツパジェロ『つええ!』
♰Michaer♰『天罰はローコストで雷撃魔法連発できるのが強いな。さすが勇者』
説教筋肉『思うがままに蹂躙するがよしっ‼‼‼』
ひろし『ごぶりんさん!なにしてんの!やくめでしょ!?』
もちっこ『しんだしんだ』
そうして、その場に立っている者はマナカだけになった。
そこはゴブリン洞窟内の少し広くなった空間だ。
見張り役のゴブリンたちの詰め所のような場所だったらしい。
「ふう、さっそくのゴブリンたちのお出迎えだったけど……楽勝じゃぁん!」
マナカはこちらの画面に向かって笑顔でピース。
ケツパジェロ『おめ』
おまえら『やるやん』
はちみつ『またイキる』
青いゲリラ『問題はこの先だ』
マナカはゴブリンたちからドロップした投げ槍やスリング、錆びた短剣などを丹念に拾っていく。
「もう取り残しない? ない? ……なんだこれ、キノコ? 食べれるのかな?」
ゴブリンのドロップ品の中からキノコを拾い上げ、マナカは首を捻る。
毒々しい色合いの大きなキノコだ。
闇姉妹『絶対毒』
もちっこ『食べてみたらわかるよ?』
びろーん『ゴブリンの武器とか使わんだろ』
青いゲリラ『なんでゴミもカスも全部持ってこうとするの?荷物でパンパンになるよ?』
もちっこ『やってること完全に強盗』
流れるコメント欄に、マナカは噛みつきそうなくらい歯を剥き出しに言い返す。
「……置いていったらもったいないでしょうが! 売ればいくらかにはなるかもしれないんだから!」
デンタル『せこ』
はちみつ『ケチケチ天使』
説教筋肉『貪欲にっ‼‼‼ 全てを喰らうかっ‼‼‼』
「……いいのっ! 荷物いっぱいになったらその時整理するから! ……で、洞窟はこの先、右と左に道が分かれてるね。どっちに進めばいいかな……?」
マナカはゴブリンの見張り場所から左右に分岐する洞窟を前に首を捻った。
どちらも一瞥しただけでは薄暗く、先が見えない。
僅かな光といえば、洞窟内のそこかしこにある鍾乳石が濡れて光っているくらいか。
左側に続く洞窟にはその鍾乳石がなく、右側には生えている。
と、コメント欄が思い思いに指示し始めた。
まるア『左!』
青いゲリラ『ネタバレになる』
説教筋肉『右だ‼‼‼‼』
まるア『ポーラちゃんは左に進んでたよ』
コメント欄を見ていたマナカの頬が一瞬ピクリとし、それから笑顔を形作った。
「……へぇ~、そっか~。じゃあ、右に行ってみようかな」
そう言って、マナカは右側の曲がりくねった通路に足を踏み入れる。
途端にコメント欄が、
カスタム二郎『あーあ』
まるア『あーあ』
長生き『やっちゃったね』
青いゲリラ『判断するヒントは目の前にあったのに』
ざわつき出したコメントに、マナカが口を尖らせた。
「ちょっとなにぃ? なんですか?」
ひろし『あーあ』
説教筋肉『あーあ、やっちまいやがった』
もちっこ『あーあ』
青いゲリラ『ちょっとした観察力さえあれば、右と左、どちらの通路に歩きにくい石が多いとかゴミが落ちているとか見つけられたはず』
1234『あーあ。初見です』
「あーあ止めろ。あーあ止めてください」
文句言いながら、マナカはそれでも歩みを止めない。
右側の曲がりくねった通路を進んでいき、
「……あ!」
ずぼっ、と地面を右足で踏み抜いた。
落下する。
まるア『あーあ』
カシス『あーあ』
びろーん『だからいったのに』
青いゲリラ『なんらかの痕跡のある通路はゴブリンたちによく利用されている通路だと考えられる。それがない通路にはゴブリンたちが利用しない理由がある。それは行き止まりだったり危険だったり……罠があったり』
はちみつ『はい、落ちた~』
もちっこ『どんまい来世!』
コメント欄がお悔やみの言葉で溢れた。
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