異世界転生したけど色々世界が終わってるのですが(仮)

houki

第一話 「異世界に来てしまったようです」

 窓の外で小鳥が気持ちよさそうにさえずいてる。燦々さんさんと陽光が降り注ぎ、な子供達はボールで元気に遊んでいる。そんな光景を羨ましそうに見つめる少年がいた。


「斎藤さん、体調はどうですか」


 ふと声の方角に視線を向ける。声の方角に立っていたのは純白の白衣をまとった医師だった。彼は斎藤綾斗さいとうあやとの担当外科医、鈴木ゆうた先生だ。先生は、八年程前からずっとお世話になっている方であり、綾斗は感謝してもしきれないほどだ。


「体調いいですよ」


そう言い、すぐにまた窓の外を見つめた。

 綾斗は不治の病に侵されていた。それは世界中探しても、綾斗以外にかかった人間は存在しなかった。病の症状は、定期的に体の一部が石化してしまうというものであり、当然治療法など存在せず、石化の度に石を手術で摘出していた。

 しかし度重たびかさなる手術によって少しずつ、確実に綾斗の体は弱っていた。その事実に一番気付いているのは、綾斗自身であった。今では足が弱り、もう立ち上がることができない。外で遊んでいるな子供達の様に元気に友達と遊ぶことなど五年も前に諦めている。


「また窓の外ばかり見ていたんですか」

「今日も外はですからね」


綾斗がそう言うと先生はばつが悪そうな顔をした。

 悪い人ではないのだが、時々先生はデリカシーに欠けたことを言い出す。容姿が良く、頭もいいかなりの優良物件なのだが一つの欠点で人間は他の人間からの評価を落としてしまう。そんなどうでもいいことを考えていると、珍しく先生は一つ提案をした。


「今日もなら、外出許可でも取ってきましょうか」


・・・・・・


 久しぶりだった。車椅子に乗るのも、外に出てくるのも。先生に車椅子を押してもらい、病院の敷地内をゆっくり散歩する。すぐ近くで遊んでいる中学生達が挨拶してくる。あんなに遠くにいたはずなのに。

 先生にはまた感謝しなければいけない。自分の体では敷地内であっても、外出の許可が容易に下りることは無いと思っていた。だからこそ、誰にも外に出たいとは言わなかった。


「ずっと前から外出許可については検討してたんですけど、体の状態をみてからってなってたんですよ」

「そうなんですか......ありがとうございます」

 

 自分のことを気にかけてもらえることは嬉しい。そして、お礼を言うのは少し照れくさい。

 その後はしばらく話をしてから部屋に戻った。


 その日の夜、様態が悪化した。


・・・・・・


 頭が痛い。目を開けているはずなのに、何も情報が入ってこない。なにか警告音のようなのがなっているがそれどころではない。だんだん呼吸が苦しくなってきた。体に力が入らない。音もだんだん小さくなってきている。

 分かる。これは死ぬ。頭も回らなくなってきた。


「斎藤さんっ! 聞こえますか、斎藤さん! 」


 その言葉を最後に意識が暗闇の中に吸い込まれていった。


・・・・・・


 目が覚めた。自分は助かったらしい。


「あれ? 」


 明らかにおかしいことに気がついた。自分は病院にいるはずなのだが、目が覚めたここは病院ではない。草原にポツンと生えている大木の下なのだ。少し立ち上がり周囲に人かいないか見渡した。


「誰かいませんか! 」


 その呼びかけに反応する人はいなかった。

 そして自分に起こっているに気付いた。なぜ自分は歩けたのか、自分の足は使い物にならないはずだが。何もなかったように動く自分の足に驚愕していると少し離れたところで大きな爆発音が聞こえた。


「なんだよ」


 次から次に起こる異変に混乱しながら音の方を見た。そこには信じられない光景が映っていた。

 耳の長い男と鎧をまとった女騎士が剣を交えていた。時折お互いに距離をとって大きめの火の玉をぶつけ合っている。


「ここは......異世界......? 」


 前に本で読んだり、アニメで見たことがある。しかし、最初に世界についての説明をしてくれる女神やかわいい魔法使いなんてものはいない。しかしそんなものがいなくても今、完全に分かったことがある。それは、


「異世界に来てしまったようです」


 ここが異世界だということに。






  

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