海戌家のお狐様

このは

海戌家に拾われた

「僕は狐だ!」

 ここに来てからとういもの、何度もそう反論しているが会う人みんな

「可愛い犬っころだね」「海戌みいさんとこの犬っころは……」

 とか言って、誰も僕のことを狐だと思いやしない。

 たしかに、犬とは近縁種ではあるが同種ではないんだ。一緒にされては困る。

 そもそも、なんでこんなことになったかって?それは数ヶ月前に遡る。


 僕は山に暮らす狐だった。

 群れの長でもなければ、その息子とかいう訳でも無い。ただひたすらに森の中を駆け回っては、ネズミやウサギ、木の実なんかを採っていた。

 好奇心旺盛だった僕はこの山の向こうには何があるんだろうと興味本位で向かった。

 それが、こうなったはじまりだろう。

 住処から出て、いつもの道をただひたすらに駆け抜けて住んでる山のてっぺんへと向かった。そこまでは、いつも来ている場所だ。でも、山の向こう側には行ったことがない。

 別に禁じられている訳では無いが、ここまででも住処からかなり離れてるので狩りとかしてると帰れなくなるのだ。

 でも、今日は関係ない。ただひたすらに山の向こう側へと下っていくだけだ。生い茂る木々を駆け抜けて、川を渡り、また木々を駆け抜ける。やがて地面が平になってくると、人家が立ち並ぶようになる。

 親には何度も人と会うなと言われてきた。理由までは言われなかったけど、消えた仲間に対して「人に会ったか」そう言っていた。

 このまま帰れなかったら、親もまたそう思うんだろうな。そう思いながらも、好奇心に負けた僕は隠れるように家の間を抜け、道を通り抜けて行った。

 そのうちに、嗅いだことない鼻につくような臭いが辺りを漂うようになると、今まで駆けていた地面は広大な水に呑まれるように無くなった。

 初めてだ見たその光景に僕は

「これが大地の端なんだ。僕は地の果てまで来れたんだ!」

 そう感動したのもつかの間、何も食べず無我夢中でここまで来たのを思い出し僕はその場で気を失ったのだった。


夢を見た。僕がまだ生まれてないころの夢を。無邪気に山の中を駆け回り、力尽きた僕を住処まで運んでくれた母親の、、、

あの頃は、首根っこを咥えられて、左右にぶんぶんとふられていたっけ。などと思いながら、今もまたあの頃のように運ばれている。いつもなら首根っこを咥えられていたそれは、全身をやさしく包み込み、左右に揺らすそれは、上下に心地よく揺れている。

「もう大丈夫だからね。お家に帰ったらご飯でも食べよっか」

そう話しかけてくるその声は、とてもやさしくて、心地よくて、目を開けることさえ忘れていた。


周りがにぎやかだ。今まで感じたことのない騒音に目が覚める。

「ここはどこだ!!」

太陽とはまた違う、感じたことのない明るさのその場所に恐怖を感じる。

「僕は住処に帰りたいんだ!早く帰してくれ!!」

そう叫んでいると、足音とともに見知らぬ生物だ駆け寄ってきた。

咄嗟に僕は

「来るな!触るな!あっち行け!」

そう叫んでも、そいつには伝わらない。それどころか

「大丈夫だよわんちゃん。何も怖くないよ。」

そいつは座りながらそう言うと、手を広げた。

そいつの声に聞き覚えがある。いつかの夢の中で聞いたあの声に。優しく包み込んでくれたあの声にそっくりだ。

「おいで、わんちゃん。ご飯食べにいこっか」

まだ、怖い。それでも優しく話しかけてくれたそいつのところに駆け寄った。

別にお腹が空いていたからとかじゃない。その声に安心するからだ。


そいつに抱えられ、違う場所に来た。そこには、そいつに似たやつらが3匹いた。

「あ!ワンちゃん起きたんだ!!俺が何回つついても起きなかったのに!!」

「あら、ワンちゃん起きたのね!美鈴みすずもごはん用意してあるから、わんちゃんのごはん用意したら食べましょ!」

「うん、たべる!」

そんなやり取りをしながら、そいつ、、、いや、美鈴は山盛りに盛られた餌らしき何かが入ったお皿の前に僕を下すと、椅子に座った。

「もう、美鈴が海見に行ったと思ったら、ワンちゃん抱えて帰ってくるから、お母さんびっくりしちゃったわよ」

「だって、砂浜にぐったりしてたら心配になるじゃない」

「それもそうだな。俺もぐったりしてたらつれて帰るだろうし」

「もうお父さんまで」

「あ、お姉ちゃん!あのワンちゃん名前どうするの?」

「そうよ!名前!まさか美鈴考えてないとかじゃないわよね?」

「あ、えっと、、」

「あー、考えてないの?」

「だって、心配すぎてとりあえず抱えてきちゃったんだもん!そんなこと言うなら、流風るかが考えてよ」

「は?なんでおれ?」

「いいから考えてよ!」

「そんなに考えるのが嫌なら『つな』でいいんじゃないか?」

「なんで?おとうさん」

「そりゃ、俺が今ネギトロ食べてるから」

「なんじゃいそりゃ」

「俺は賛成だぞ!」

「お母さんもそれでいいと思うけど、美鈴は嫌だ?」

「別に、、、」

「なら、つなで決まりだな。つな、それはじめてだろう?うまいか?」

そんなこんなで僕の名前『つな』になったらしい。

ちなみに、この餌は無茶苦茶おいしい。あと僕は狐だ。わんちゃんなどではない。

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海戌家のお狐様 このは @konotuna

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