ダストチルドレン
amada
第一章 はじまりはいつも終わりだった
Don't be afraid
深く息をついて眼前の相手を見据える。西洋風のプレートアーマーを着用し、大剣を持ったアバター。だが
体格の良い大男が俊敏な動作で撹乱してくることもあれば、痩身のアバターが破壊的に重い一撃を食らわせてくることもある。すべてはアバター本人の思考と、それを外的に操作する
相手が大剣を構えた。こちらの武器は片刃の短剣が両手に一本ずつ。見た目にはあまり分の良い対峙とは言えないだろう。正面切ってあれとぶつかり合うのは得策ではないように思える。なによりここは障害物が多すぎる。であれば。
中世の城を再現したフィールドの中で、苔むした党に向かって跳躍する。丁度相手の右斜め上だ。プレートアーマーの男は俺の方を見上げると、苦々しい顔をした。だがそれは本人がここまで来られないことを意味しない。
大剣が薄緑に発光する。MNDLコード特有の光だ。プレイヤーのバディとしてシンクロしているエンジニアが、プレイヤーの思考を読んでコーディングしたのだ。
男は大剣を地面に叩きつけると、その反動で俺めがけて物凄い速度で飛んできた。
『ミレイ、空中戦に移るぞ』
『へいへい、わかりましたよっと』
足裏に力場が生まれ、それを使って空中を踏みしめるように飛んだ。間一髪、相手の攻撃を避けることができた。破壊力は相当なものだ。塔が斜めに切り裂かれて崩れていく。
空中から男を見下ろしながら、両手に持っていた短剣を一本ずつ、顔と胴を狙って投擲する。が、胴を狙った方は大剣に弾かれ、顔を狙った方は男の動きで躱されてしまった。仕方ない。相手はランカーだ。こんなもの牽制にすらならないのは重々承知。
片手を広げる。今度は一振りの日本刀が生成された。
『おまけ。概念分子間引力を引き剥がすようにしといた』
『助かった』
俺を見上げる男の背に、透けるグリーンの翼が3対6枚吹き出すように現れた。こちらの誘いに乗ってくれたようだ。おそらく舐められているのだろう。俺も空間を蹴って更に上空まで跳躍する。
相手もそうだが、その後ろにいるエンジニアもなかなかの手練れと見える。俺はあまりコードには詳しくないが、それでも状況とアバター本人の思考に応じて的確な出力をしているのがわかる。
城が小さくなるほどの上空まで来た。ここならもう障害物を気にする必要はない。
大剣と日本刀。現実空間ではおそらく日本刀は大剣に折られてしまうだろうが、ここは電脳世界。物理法則はいくらでも破ることができる。不器用な俺にも勝機は十分にある。
相手との距離は100mといったところ。お互いに得物を構える。決着の時が近い。そう直感した。
そして相手が背中の翼を輝かせながら一気に突っ込んで来た。瞬間、俺は意識を切り替える。
『時間線、裁断』
相手の動きがフラッシュのように一コマずつ見える。一コマ、相手が剣を振り上げようとする。一コマ、相手が剣を振り上げ始める。一コマ、相手が剣を振り上げる。一コマ、相手が剣を振り上げ切る。
俺は刀身を倒すと、至近距離まで迫った相手のがら空きになった胴目掛けて、横薙ぎに振るう。
『裁断、解凍』
コマ送りの時間が解除され、相手の胴鎧から凄まじい火花を散らしながら、俺の刀が徐々に食い込んでいく。刀身はやがて鎧を裂き、身体を通り、反対側から飛び出した。血は出ない。胴体も切断されない。ただアバターのライフがゼロになる。
男の背に展開されていた翼は、光の粒子になって霧散した。それと同時に彼は小さくなった城に向かって落ちていった。
「WINNER!KAMBARA GAME CLUB!」
アナウンスが響き、空中に紙テープやらクラッカーの紙片やらが飛ぶ。
『いよっしゃあ!まずは一勝!おつかれトーヤ君』
『あり、がとう』
『どしたん?思考なのに息切らしちゃって』
『脳疲労、だよ。あと、緊張』
『かーわいい』
『うるっさいな』
ゆっくりと高度を落とし、城のレンガの上に着地する。思わずその場で座り込んでしまった。一気に緊張が緩んで気が抜ける。
『んじゃダイブアウトはこっちでやるから。そのまま座っときな』
『助かるよ』
身体が淡い光に包まれていき、徐々にその輪郭を失っていく。やがて自分の形はなくなり、光は線となって空に登っていった。
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