第8話 紀眞市名産!お祭り騒ぎ!
ヒラリヒラリと浴衣が舞い、雪のような白い肌と、赤い色をしたライトが祭りの屋台を明るく照らす。
「いっぱい屋台出てるねー!」
「まあ、紀眞市て一番でかい祭りだもんな。」
「うう…暑い、暑くて干からびそ〜動いてないのに暑いよぉ〜」
間違えられると悪いので言っておくが、このセリフを言ったのは、隆一だ。
最近なんとかアーカイブにハマり出したらしい。
「隆一くんも、私みたいなこと言うんだね〜」
「ん?ああ、これはただのモノマネだよ。」
「へ〜」
というのは、さておき。
「お祭りだぁー!!!!!」
隆一が、川の水のように流れる人ごみの中で周りを気にせず叫ぶ。
「う、うるせぇ!!!」
「とりあえず何する?」
「私、花火が見たいなぁ〜」
「射的したい!!」
「祭りとかって焼きそばとか食べたくなっちゃうよね。」
「ん〜!!注文が多いな!!」
俺は少し頭が切れそうな状態で言った。
「そんじゃあさ!順番に回ろ?ね!」
「りょうかーい」
すると隆一が、ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねながら、「おい!!あそこに射的あるぞ!!!」と言ってきた。
「まずは射的からで良いか?」
俺はアズリアと奏音に確認を取ると、二人はコクリと頷いた。
「よっしゃ!!行こうぜ!エイムの良さ見せつけてやるぜ!!」
そう言いながら隆一は3枚の100円を握りしめて屋台へと向かった。
「待って〜隆一く〜ん」
そう言いながらアズリアが隆一の後を追う。
「行かないの?」
奏音が声をかけると、俺は、目線の中に留めておいた風景を、奏音の浴衣姿へと移し替えて「いや、行くよ」と言った。
「はいよ!!8発!頑張ってな〜」
射的家のタオルをおでこに巻いたおじちゃんが、アルミの皿に8個の射的の弾を置いた。
「こんなの余裕よ!」
そういうと、隆一は棚の真ん中に置いてある、仮面ライダーのフィギアに射的の銃を構える。
「おら!!」
パン!!!と空気の圧縮された音が一気に解放されると同時に、射的のコルク弾がフィギアに向かって放たれる。
しかし、コルク弾はフィギアに当たるどころか、掠ることもなく、棚の向こうの壁にあたり、地面に落ちた。
「あー、くそ!次だ次!」
「がんばれ〜」
笑顔ながらに球をこめる隆一を応援するアズリア。
そしてそれを真顔で見つめる俺と、少し微笑みながら隆一を見る奏音。
「おら!」
今度は当たりはするが、倒れはしなかった。
「おら!!」
またハズレ
「おらぁ!!」
ハズレ
「行け!」
外れた
「こい!!!」
外れる
「どりゃあ!!!」
擦りもしない。
「く、くそぉ〜!!!」
隆一は渋々の顔になりながら最後の弾を込める。
「別に他の景品狙えば良いじゃん」
「あの仮面ライダーのフィギアがいいんだよ…あれ、俺が初めて見た仮面ライダーのやつだから…」
少し、弱々しい声で隆一が言った。
「それほど欲しいんだ?」
「当たり前だろ!!奏音にはわからないかもだけど、俺にとっては、高校生の1万円くらいの価値があるんだ!!!」
「微妙だな…」
日は沈み、周辺の人口は多くなる。
人間の声がガヤガヤとしていて、うるさい屋台で、隆一は、フィギアの大体頭あたりに狙いを定める。
隆一の手から汗がこぼれ落ちると、隆一の手は震え始める。
どうやら相当集中しているようだ。
すると、何処から持ってきたのか、わたあめを食べながら射的を観戦するアズリアが口を開いた。
「ねぇ隆一くん」
と隆一の背中に触れた。
「うぁ!?え、アズリア!?な、なんだよ!!」
今まで口を開かなかったアズリアが遂に言葉を発したかと思えば、次にアズリアは、「ん」と手を差し出す。
「な、なんだよ…」
「銃、貸してみ?」
アズリアはその一言だけ言うと、石像のようになって固まる。
「え、な、なんでだよ。」
「隆一くんがあまりにも下手すぎて見てられないよ〜。私がやってあげる」
アズリアの無言のオーラに負けた隆一は、何も言わずに、最後の弾が入った銃を渡した。
「ありがと。」
するとアズリアは、銃をフィギアに構えると、2秒にも満たさない内に引き金を引く。
弾は、ポン!と勢いよく空気の抜ける音がすると、コルク弾をフィギアの頭に当て、そして、フィギアを棚の上から落とした。
「おお!やるね姉ちゃん!!はい!これ景品!」
そう言うと、屋台のおじさんは落ちた景品を手に取り、フィギアをアズリアに渡した。
アズリアはもらったフィギアを隆一に渡し、「はい!これ、あげる」と言うと、隆一は、もらったフィギアをまじまじと見つめた。
そして、「う、うわー!!ありがとう!!!!!ずっと欲しかったんだよ、これ!!!」と言いながら、アズリアのことを抱きしめた。
アズリアの小さい体は少し地面から浮き上がる。
「ぬ…ぬう…い、痛いよ…隆一くん」
「あ…」と奏音は声を少し漏らす…
隆一はあまり気にしてないようだが、相当な力で抱きしめたようで、アズリアはとても顔が真っ赤になっている。
「ん?アズリアなんか顔赤いぞ?」
自分でしたことなのに他人事のように隆一はアズリアの顔を見て言う。
「え?え?そ、そうかな…あ、わ、私ちょっと、トイレ行きたくなっちゃった!ちょっと行ってくるね!」
「あ、私も行ってこようかな!」
アズリアの後を追うようにして今度は奏音も何処かへ行ってしまった。
「アズリアめちゃくちゃ苦しかったみてぇだったけど?」
「え?何が?」
俺は少し呆れながらも、「何がって…」と隆一にため息を漏らした。
◇
ドクンドクンと、心臓の鼓動が、身体中に響き渡る。
呼吸が激しく、深く息を吸わないと、死んでしまいそうだ。
心の中で、私は興奮状態に陥っているようで、何もない神社の前まで全力で走ってきた私は、疲れの過呼吸状態と緊張の過呼吸状態の2弾重ねで、今にも心臓が破裂しそうだ。
「隆一くんに…抱きしめられた…」
その事実が私の鼓動の速度を速くさせる。
「あ!ようやく居たよ!!アズりん!」
神社の影から出てきたのは、奏音ちゃんだった。
奏音ちゃんは、整っていた髪を少し崩して、汗を垂らしていた。
どうやら私みたく走ってここまできたようだ。
「アズりん足速すぎ!!」
私はさっきまでの混乱状態の顔を、いつもの笑顔へと直し、「か、奏音ちゃん〜どうしたの?こんな所まで来て〜」
「どうしたの?って…アズりんが言える事じゃないでしょ!全く…トイレに行くって嘘ついてさぁ!すごい顔、赤いよ?」
「う!?」
と私は驚きの声をあげてしまう。
表情は隠し切れても、顔色は隠し切れていないようだ。
私はスマホを自撮りにして、自分自身の顔を見た。
とても赤い。
それはまるで、梅干しや、りんごのように、赤く染まっていた。
今にも爆発しそうなくらいに。
「ほんと、アズりんって恋愛のこととなると、いつもこうだよね〜。小学生の時も、塾であった人が〜とか行ってめっちゃ赤くなってたじゃん!」
「べ、別にそ、その時のこととは、関係ないよ〜!!」
「関係あるなんて聞いてないけどな〜」
奏音ちゃんは、私をおちょくるように、喋る。
「で?どうなのさ!!隆一くんのこと!!もしかして…いや、もしかしなくても狙ってるんでしょ!?」
「ね、狙ってるって言い方やめてよ〜!私が、肉食みたいになるじゃん…!」
顔に熱がこもり、暑くなる…
いや、この異常な気温のせいなのかもしれないけど。
「べ、別に今はまだ…そういうことは…考えてないけど…」
「へー、考えてるんだ!!」
奏音ちゃんは、少しにやけながら私のことを見る。
「か、考えてないよ!!」
「ほんと、アズりんってこういう恋愛のことに関しては、ウブだよね〜いつも余裕そうな顔してるのに、今は顔が真っ赤だよ?」
「う、うるさいよ〜!!」
「ま、青春だと思うけどね。私はさ。」
「か、奏音ちゃんは何言ってるの…?」
「ふふふ!」と奏音ちゃんが笑い声を漏らすと、奏音ちゃんは自分のスマホの画面を見た。
「あ!もうちょっとで花火だって!行こ!!」
「あ、待って!!まだ心の準備が!!!」
私は無理矢理奏音ちゃんに手を引っ張られると、無理矢理、隆一くん達のいる方向に戻らされた。
心臓の鼓動はまだ、静まらない。
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