第5話 テスト期間に地獄ゲーム

白い壁の中に、一つのベッドと一つの勉強机。

そして、急ごしらえに配置した同時に4人がノートや教科書を広げたとしても大丈夫そうな大きな机のある部屋で。


俺はスマホのインスタを眺めながらベッドの上に寝転んでいた。


それも私服で。


ピンポーン


一つのチャイムが家中に響き渡り、俺はベッドから起き上がって玄関に向かった。


上下に2つある鍵を開き、ドアを開けると、その先には太陽光に照らされた、隆一、奏音、アズリアの3人が各々にリュックを担いで立っていた。


「やっほ!霧矢くん!」


「よぉ霧矢!」


「おはよぉー霧矢くん。」


俺はバイトの仲間たちに「おはよう」というと、玄関の扉を更に大きく開けた。


「おじゃましまーす」


俺は3人を自室に案内すると、隆一がすぐにリュックをその場へと下ろした。


「それじゃ!勉強しますかねぇ〜」


隆一のその一言にみんなが頷くと、急ごしらえに持ってきた机の上にみんなは各々の教科書を広げる。


「テスト期間かぁ〜」


「テストやだぁ〜寝ていたいよぉ〜」


「だーめ!早く勉強するよアズリン!」


「うぅ…」


今日集まった理由。

それは他でもない、テスト勉強をするためだ。


「うーん…ここわかんないなぁ…」


「どれどれ」


奏音が頭をかいているいる問題を見る。

古代のアジアとタイトルに書いてあるこのページは世界史だと思われる。


「あ、ここね!」


世界史は俺の得意科目!ここは格好良く教えてやるかぁ〜


俺はできるだけ丁寧に教えた。


「それでまぁ、こうなるってわけ!」


「な、なるほど…」


どうやら盗み聞きしていた隆一も理解したようで、隆一は、「じゃあここは…」と言いながらノートのマスに文字を書き込んでいく。


「意外と霧矢くんって教えるの上手なんだね!」


奏音は、眩しい笑顔で言うと、「ありがとう!」と、明るい声で言った。


「うっ!!」


可愛い…

まるで守りたくなるような笑顔だ。


「ど、どういたしまして…」


鏡で写っていた俺は少し耳が赤くなっていた。

机の向こうに居る隆一は、「フフ…」と微笑した。







「はぁ~」


とりあえず一区切りがついた俺は、天井に向かって伸びをする。


「ふぅ…」

奏音も一息ついて、深い呼吸をした。


隆一とアズリアに関しては、特に鉛筆すら持っておらず、アズリアは寝て、隆一は口を尖らせてその上にシャーペンを置いていた。


「どうせならさ、なんかゲームしね?」


その声をかけてきたのは、隆一だった。


「お前…勉強してねぇだろ…」


「面白そう!!なにする!?なにする?」


隆一の言葉に目を輝かせた奏音は、前のめりになって隆一に聞き出した。


「そうだなぁ…王様ゲームってのはどうだ?」


「「王様ゲーム?」」


「そう。王様ゲーム。印の入ったくじを引いた人が王様で、王様は王様以外の人に指令を下せるってやつ!」 


「なにそれ、面白そう!!!」


「ぜひともやりましょぉ〜」


いつの間にかアズリアも入り、俺等は4人で、王様ゲームを開始した。


1回目

「えい!」


奏音の掛け声によって俺達は割り箸で作られたくじを一斉に引く。


「俺は…ついてないな。」


赤いマークの代わりに俺の場合は2の数があった。


「俺もだ」


「私も」


「ということは…?」


俺達は一斉にアズリアの方を見る。

するとアズリアは、先が赤く染まった割り箸を持ち、顎に手を当てていた。


「うーん…そうだなぁ…じゃあ、1番と私で恋人繋ぎしよ!」


こ、恋人繋ぎ!?そ、それって…


「あ!一番私!って、恋人繋ぎって何?」


「恋人繋ぎってのはねぇ〜こうするんだよ〜」


アズリアは眠たそうな目をしながら奏音の手を取ると、指を交互に絡ませながら手を繋いだ。


「あ…!!!!」


「へー!これがそうなんだ!」


「こうやってぇ、二人の身体の温もりを感じながら手を繋ぐのが恋人繋ぎって言うんだよ〜」


「俺たちは一体何を見せられてるんだ?」


隆一はポカンとした顔で二人を見る。


「そうなんだねありがと」


そう言うと奏音はアズリアの手を離した。

アズリアは満足そうに笑ったがそれと対照的に奏音は少し顔が暗い。


「え、えっと…」


「よっしゃ!2回目行こうぜ!」

その隆一の声によって1回目の王様ゲー厶は終わった。


2回目

「せーの!」

俺の声で全員がくじを引き出した。


「またハズレ…今度は1番か。」


「あ!当たりだ!」


今度はどうやら当たりくじを引いたのは隆一のようだ。


「しゃあ!!何命令しようかな〜」


「せめて無理な奴は辞めてくれよ〜」


「あ!そうだ!良いこと思いついた!」


そう言うと、隆一は、指をパチン!と鳴らす。

どうせ、隆一のことだ。下らないことを言うのだろうと思っていると、隆一は思いもよらぬ言葉を発した。


「あのさ、森崎喫茶あるじゃん?」


「うん。それがどうかしたの?」


「新メニューとか考えね?」


「し、新メニュー?」

俺はあまりのまともな発言にオウム返しする。


「そう!新メニュー!森崎喫茶ってさ、日頃からあんまり人いないじゃん?それって要するにこういっちゃアレだけど、人気がないわけじゃん?」


「まぁそうなっちゃうよね〜」


「じゃあさ!どうせなら新メニュー考えて森崎喫茶を盛り上げようや!ひと泡吹かせようや!!」


「そ、それ良いね!!!」


奏音は隆一の提案を聞くや否や、子どものように瞳を輝かせる。


「それいつやるの!?いつやるの!?」


「今すぐでしょ!!」


「いや、テスト終わった後じゃないか?」


「う…た、たしかに…」


「はぁ…わかってねぇーなぁーお前らは。」


隆一はそう言うと両手を広げてため息を付き、明らかに「これだからガキは…」と言うような表情をしている。


「あのなぁ…森崎喫茶の危機なんだぜ?そんなテストテストなんて言ってられるかよぉ…」


俺は隆一の頭にチョップを繰り出し「アホか」と言う。


「いでっ!?」


「森崎さんも、平均以上行かねぇとバイトさせないっていってただろ?」


「え!?そ、そうだっけ!?」


「ああ。お前、話聞けよ…」


隣で奏音も、頭を縦に振る。


「く、くそぅ!!!俺は…俺は…勉強するしかないのか…!!!!」


「はいは〜い次行くよ〜」


3回目

「いっせーのーで!!」


みんなが一斉にくじを引くと、俺はまず自分のくじが当たってないかを確認する。


「当たってねぇなぁ…」


その代わりに、俺の引いたくじには3の数字が刻まれていた。


「あ!当たってる!!」


次に喜びの声を上げたのは奏音だった。


「ま、まじか…」


うっすらと何かを俺は期待しながら、奏音の言葉を待っていると、奏音の口が開いた。


「じゃあ…」


何を命令するんだ!?何を…


「これからも、仲良くしようね!!!」


「へ?」


あまりに唐突で、そしてあまりにも奏音らしいその言葉に俺は戸惑いながらも、奏音の言葉を半分飲み込んだ。


「え?あ、良いよ…」


「おう!これからよろしくな!!」


隆一はいつもの明るい笑顔を奏音に向け、アズリアは

「これからもよろしくね〜」

と言った。


4回目

「てい!!!」


え?まじか、当たりがで、出ない!?


俺はくじを引くと、2と書かれた数字が出てきた。


「あ!私だ!やったー2連続!」


ま、まじか…運良すぎだろ…


奏音はそこから子悪魔のようななにかを企むような笑顔を浮かべると命令を俺等に下した。


「じゃあ、1番が3番にキス」


「は!?」

最初に反応したのはどうやら隆一のようだ。


案外そういう命令も下すんだな…王様ゲームでの権利をフル活用してる…

まぁ、2番の俺には関係ないが…


「は、はあああああ!!!!!」


俺がそんな考え事をしていると隆一の蕩けるような声が聞こえた。

そして、俺が前を向くと、目の前に座っていたアズリアは、隆一の頬に口を付けていた。


「は、はわわわわ…」


隆一が変な声を漏らすと、アズリアは隆一の頬から唇を離した。

唇からは蜘蛛のような唾液の糸が一瞬だけ引かれたが、すぐに切れる。


「な、な、な、なに、なに、なにをしてんの!?!?!?」


太陽のように真っ赤になった隆一は、煙を頭から吐き出しながらアズリアのことを見つめた。


「あーあ。唇狙ったんだけどな〜」


「お、王様ゲームのキスなんて!!そ、そんなに本気になってするもんじゃないぞ!?!?か、奏音も!!!!奏音も変な事言うな!!!!」


「ま、まさか…アズリんが本当にやるなんて…へへへ…ごめんね…」


「そ、そんなことよりも!!!早く勉強をするぞ!!!!こ、こ、このままじゃ、あ、赤点取っちまう!!!」


顔が真っ赤に染まった隆一は、そういうと、すぐそばに置いてあった教科書とペンを取り出した。


「さっきまで、あんなに暇そうにしてたのにな。」


「う、うるせぇ!!!!霧矢、お前も勉強しろ!!!」


俺は頬を緩ませると「はいはい。」と言ってシャーペンを取り出した。


その日は隆一の顔はずっと太陽のように赤く染まっていた。


「ちょっとやりすぎちゃったかな?」

アズリアは隆一の横で、頭を爪で掻いた。





森崎喫茶店 間取り図

https://kakuyomu.jp/users/Worstgift37564/news/16818093079420726773














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