フラれた直後に好きな人ができてしまった…すまん!

最悪な贈り物

第1話 卒業式と入学式

「お、お、お、お、俺と!!!!つ、付き合ってくだひゃい!!!!」


桜の花が舞い散り、春を告げる学校の裏門。

俺、最上モガミ霧矢キリヤは今、絶賛告白中だ。

目の前にいるのは学校のマドンナ。中学校最後の告白は、学校のマドンナだった。

そして、俺が手汗を吹き出していた時、唐突に返事は返ってきた。


「え、えっと…お、お気持ちは嬉しいんですけど…あ、貴方は誰…ですか?」


桜が舞い散る。

その春休みは、醜態を晒して、告白をし、そして失敗するという、俺の人生史に残る嫌な思い出しかなかった。






「う、うわあああああああああああ!!!!!!!」


「はは…ど、どんまいどんまい…」


卒業式の帰り道。

車通りの多い大きな道路の歩道で俺は人目を気にせず、泣き喚いていた。

なぜなら、俺は3年間も好きだった女子に告白し、見事失敗してしまったからだ。


「げ、元気出せって…!もうちょっとしたら高校なんだし、きっと新しい出会いがあるよ…!!」


俺は俺の親友…卜部ウラベ隆一リュウイチに対して、今にも呪う様な目つきをする。


「お、お前は良いよなぁ!!!なんもなくて気楽でさぁ!!!」


俺は隆一の胸ぐらを掴んで鼓膜をぶち破る勢いで言った。


「は、ははは…と、とりあえず、その手を離してくれ…」


俺が胸ぐらを掴んで隆一を睨むと、隆一は、何処か物寂しそうな瞳をした。


「そんなんで騙されねーぞ!」


「あ、バレた」


「10年も親友なんだ。そんな、「俺も同じだよ。」みたいな顔には騙されねーぞ!!」


俺は胸ぐらの手を離すと隆一を再び怨む目で見た。


「悪かったって!」


「お前、マジで許さん」


「うーん…どうしよ…じゃあなんか許してくれる事あったらいいか?」


「ふん。別に許してやれる程の価値がある事ならな。俺は今、めっちゃ鬱だから、ジュース1本奢るなんてレベルじゃあ許さねぇぞ」


「カラオケ行こうぜ?」


「許す」




__________________________



「痛く殴って!ダーリン!迷わず蹴って!ダーリン!全て壊して!ダーリン!なぶり殺してダーリン!」




赤い「カラオケ館」の看板の下、俺達はマイクを握って、喉を震わせていた。


「霧矢、お前、病んでるのか?」


「なんだよ!ニューダーリン歌ったからって、なんで病んでる風になるんだ!!」


「いや、なんか歌詞が病んでそうだな〜って」


隆一は、ポテトを摘み、それを口の中に入れながら言った。


「じゃあ、次は俺か」


そう言うと隆一はもう一つポテトを摘み、反対の手でマイクを握った。


「何歌うんだよ。」


「じゃあ、そうだなぁ、マキシマイザーで」


「おけ」


電子音で彩られたイントロが部屋の中に響き渡る。

さすがは3000万回再生の曲だ。


俺はイントロにつられて、足を一定テンポで揺らす。


「唖々、臨海実験に付き合う朝、14听を嗤う蔑奴…」


あの人は、俺のことをどう、思っていたんだろう。

それを考えるだけで、心の底から負の感情が込み上げてくる。

まるで、風呂の浴槽の中に水が溜まっている様に。

水は浴槽から溢れようとばかりに一気に溜まっていくのを感じる。


「おい!霧矢!」


「あ?え!?」


「お前の番だぞ。ん。」


俺が考え事から解放され、一番最初に視界に映ったのは、マイクを渡そうとする霧矢の姿だった。


そしてその次に見えたのは、カラオケの部屋の中に設置されているTVに映った81点の文字。


平均近くらしい。


「おっけ。」


俺は霧矢のマイクを握った。


「何にする?」


「じゃあ、コインロッカーベイビーで。」


「おけ。」







入学式があって、から数日後。


「はあ…まじで、憂鬱…」


「ははは…まだ引きずってんのか…」


「そりゃあ、引きずるだろ…」


桜が舞い散る。


「おお!あれが新しい学校か!」


憂鬱な俺を置いて行って隆一は明るい声で、学校の校舎を見て言った。


白く染まった校舎は見る限り新しそうで、グラウンドを挟んで、校門から大勢の学生が校舎の中に吸い込まれていく。


紀眞市立高等学校きましりつこうとうがっこう。まさか俺たちがここに入学できるなんてな〜」


「まあ、それに関しては俺もびっくりだよ。あの人がここに入学するからって必死に勉強してさ、挙句果てにあの人は入学しなかったし。」


「ははは…俺も霧矢と離れたくなかったしなぁ…必死に勉強したなぁ…」


俺たちは苦笑いになって真っ白い校舎を見つめた。


「とりあえず、入るか。」





黒板の「ようこそ!!」と大胆に書かれた白い文字。

俺たちは黒板の名簿表に書かれた自分の名前を確認すると、指定された席に卒業式の日に配られたバックを置く。


「おっも〜」


「まあ、ここで新しい出会いがあるって!」


「ふん。まあ、それはお互い様だけどな。」


俺が、隆一にその言葉を放ったところで、教室の扉が開く。

扉の奥からは、スーツを纏った女性が出てきた。

その人は見るからに若く、教室に色々なところに散らばっている女子とさほど変わらないように見えた。


「そ、それではみなさん!!席についてください!!出席名簿を取ります!!」


若干、緊張気味の先生のような人は、青いファイルと自身の両手を教卓の上に置くと、しばらく教卓を見つめていた。


「え!?は、早く座って!」


先生の少し慌てた、その言葉に教室に居た生徒は一気に自分の席に座った。


「そ、それじゃあ、出席名簿を取ります!!1番、藍沢さん!!」


「は、はい…」


「つ、次!2番、ラングレーさん!」


「はぁい。」


「さ、3番!天音さん…」


ゆっくり、時が流れる。


今、あの人は何をしているんだろう。


俺は青空を眺めながらそんなことを考えていた。


俺が告白に失敗したのはなぜだろう。

どうしたら、ちゃんと告白できただろう。


雲一つない晴天。

どこに焦点を合わせれば良いのか、迷うような晴天。


はあ、なんでだろうなぁ…


「…さん最上霧矢さん!!!!」


俺は先生のとても大きな声で、現実へと引き戻された。


「あ!は、はい!!!」


俺が、慌てて答えると、教室中に笑い声が広がった。


「ぐ、ぐぬぬぬぬ…」


ま、まさか初日から赤っ恥になるとは…




「まじで最悪…」


「は、ははは…な、何にも言えねえや…」


「黙れ!」


誰も居ない教室で、俺は隆一の支度が終わるのを待っていた。


「早くしてくれ。早く帰りたい。なんかそんな気分だ、今は。」


「はいはい…」


隆一は最後の教科書を入れると、カバンを持ち上げて「行こうぜ」と行って、夕日が漏れ出している廊下に出た。



下駄箱に着くと、隆一はすぐに靴を取り出し、地面に置く。


外はどの部活も特に活動はしておらず、夕日が直接、学校の玄関に差し込んでいた。


「あ。綺麗。」


俺はそんなことをいつの間にか呟いていたんだ。


「ん?ああ。確かに綺麗だな。」


隆一はその言葉を放つと、吐いた靴の調子をコンコンと床に足を叩きつけて整える。


「写真…」


俺はそんな隆一を背景に、この風景を撮りたいと思い、慌てて制服のポケットを探る。


「あ、あれ!?」


「どうかしたのか?」


「いや、なんかさ、スマホがない!!」


俺は少し汗を流して言った。


「まさか教室にでも置いてきたか?」


「マジか、ちょっと取ってくる!!」


俺はそういうと、すぐに、走って教室に向かった。

まるで、あの日にあの人に告白する時のように、何かに魅了されて、走った。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


息切れをしながらも、俺は夕日の差し込む廊下を走る。


そして、1年C組が見えてきたところで、俺は走るのをやめた。


廊下の風景も、隆一と喋っていたばかりで、とても綺麗に感じる。


「ここも、写真撮ろっと。」


俺は、1年C組のクラスに入ると、そこには夕日に満ちた教室。赤く染まった机と黒板。


そして、一つの窓から入り込む、風に靡かれて、髪を揺らす、ショートヘアーの黒い髪の女子がいた。


その女子は、俺の席の横で、俺のスマホを持っていた。


女子が俺のことに気づくと、スマホを俺に向けて


「これ、貴方の?」


と、問いかけてきた。


「え?あ、そう!!あ、ありがと…」


「いえいえ。」


俺は教室に入り、その女子が手に届く距離まで詰める。


「ありがと…」


と言いながら俺はその女子の持っている、俺のスマホに手を伸ばすと、スマホを「譲らない。」と言わんばかりにスマホを自身の方へ引っ込めた。


そのおかげで、俺はスマホを取る事ができず、腕を伸ばしたまま、少し放心状態になる。


しばらくすると、その女子が微笑して、「これ、欲しい?」と聞いてきた。


俺は手を伸ばしたまま、コクリと頷くと、女子は


「じゃあ、名前教えてくれたらいいよ。」


俺は、彼女の狙いについて少し考えたが、やがて、「最上霧矢。」と答えた。

そして、彼女は少し笑うと、


「私はね〜小林奏音って言うんだ〜!よろしくね!霧矢くん!」

と笑顔で答えた。


その時、胸がギュッと締め付けられるように、呼吸が荒くなった。


奏音の笑顔が夕日によって照らされる。


俺は奏音からスマホを受け取ると、自分の今の気持ちを言葉に表した。


「ね、ねえ。奏音さん…?」


「奏音でいいよ。なあに。霧矢くん。」


俺は胸の鼓動の高まりを感じながらも、変なことを聞いてしまう。


「しゃ、写真撮って良い?」


予想外の言葉に奏音は少し、目を開き驚きながらも、やがて


「良いよ。」


と優しく答えてくれた。


奏音が夕日のスポットライトに照らされているように、見えた所を俺は写真に収めた。俺のスマホ、iPhone14プロはここぞどばかりに実力を見せてくれた。


「どう?綺麗に撮れた?」


奏音が俺のスマホを覗いてきた。

すると、奏音は感心したように、両手を合わせて、


「わー!綺麗に撮れてるー!」


と喜んだ。


「それならよかったよ。」


「今度送ってね!!」


奏音は自分のスマホを取り出すと、画面を開いて、「もうこんな時間!?」と呟き、


「バイバーイ!」


と言うと、教室を去っていった。


教室の中には、奏音がつけていたのだろうか。

香水のいい匂いが、妖精の粉のように舞っていた。


外を見ると、俺は放埒になった心臓の感覚を感じながら、外の桜を見ていた。


外の桜では、まだ咲いていない、桜もあった。


俺はそんな、まだ咲いていない桜に向かってiPhone14プロのレンズを合わせシャッターを切る。


「良いなこれ。」


俺はその一言を残し、教室を去った。


今日は憂鬱な日では無かったな。


それが今日の感想だ。











霧矢くんビジュアル

https://kakuyomu.jp/users/Worstgift37564/news/16818093078877231684












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