「操練場」~(『夢時代』より)

天川裕司

「操練場」~(『夢時代』より)

「操練場」


「1995年から1999年当時の映像を見るのが好きな理由は、俺が若返る事が出来て当時の雰囲気に自分を仕舞い込めるからだ。」

こんな事を呟き呟きしながら見た夢。


アイドルグループが出て来た。Kがイタリア語か何かを喋って居り、Kaが色んな事をして居り多才だと思わされ、見直して居た。あちらこちらへ諒闇不景気が進行する中、そのTVの中だけは心の中と裏腹で尻込みする位に圧倒が押し戻され、又、白紙に書き連ねる我が身の独身を独りで謳歌する如く、鷲掴んだハブラシの柄の部分に垣間見た一粒の汗には人間の姿が見え、俗世の成長と己が成長の懸け橋と成る処には唯只管〝上京〟成る糧を啄んでは億劫がる我が居た。一匹の侍の内に在る、僕(しもべ)の謀反の様でも在った。

アイドルグループに飽きた俺は階下へ下りてトイレを探して居たのだ。只管探して見付けたトイレは女子専用トイレで在り、俺はそこへ入る迄気付けず、仕方が無いから、又、誰も居なかったのを良い事に、俺はそのまま中で用を足して居た。ドボドボドボ、ジャ――、と何時もの豪快を鳴らしながら一端の口を利く為の準備段階の様なものを俺はしながらふと壁を見ると、何時の間にか自分が座って居るその便座が傾き始めて居るのに気が付き、しかし俺はじっと、慌てず用を足し続けて居た。どうもそのトイレ、始めから斜面に設置されて居た様子で、誰もその着工段階から完成迄の間何も言わずに放置して置いた為、そのトイレはその様に出来上がって仕舞ったみたいなのだ。拙い文章程面白く味が在り、人の稚拙にも見える天才を奏でて居る努力の様なものが垣間見られる。この文句を俺は心中で繰り返して居り、しかし、人は一向に誰も此処へは来なかった。〝寂しい〟と言うよりも〝自然〟だ。俺は何時か、この〝自然〟を唯愛してたんじゃ無かったのか、と一気に項垂れる様な焦燥と言葉と、その傾向を教えられながらも又、一人、しんみりと空虚な階段を覗いて居る。きっと向こうから、その上階から、誰かが、見知った誰かが、ぶっきら棒(打っ切り棒)にも下りて来て、俺に一声掛ける筈なのだ。唯俺は、その契機(起点)を待ち続けて居た。

俺は急いで居た。早く用を足し終えて、今自分が所属して居るクラスへ帰らねば、戻らねば、と躍起に成って居り、完全に用を足し終えた後、ズボンのチャックを急いで締め(閉め)上げ、少し位開いて居ても後から体裁繕えるから構わないと、じゃぶじゃぶ両手を洗ってドアを開けた。何か、高校か、中学の頃にタイムスリップして居るかの様で俺の心は既に制服へと着替えさせられて居た。そうしながらも何故か俺はそのクラス(教室)へは一向に辿り着けずに、薄緑色した、或いは空色した様なフェンス越しに身を置き、構えて居る。「構えて居る」のは、クラスに迎えられ易い様に、と自身を低く構えて居る、の意だった。何時もの様にして居た。そうして居ると〝カキ―ン…!〟と遠くから野球部か何かが密かに練習して居るかの様な、白球を打つバットの金属音の様な音が聞えて来た。始め耳鳴りか、と少し俺は躊躇しながらそれでも唯、その音をも一度、真面目に聴いて居た。して居ると、俺が現実に於いて以前働いて居た元職場の上司Nさんが居て、「○○ー(私の名前を呼ぶ)、済まんけど此処の土均してくれるか?あかんねん、これどうしても付くねぇん!」と手の指を見せて来て、白っぽい、少々粘土質でコールタールの様なマウンドとグラウンドの土を疎らに付けた、自分の億劫を言い放って居る様だった。どうせ直ぐに落ちるんだろう?とか思いながらも俺は〝○○―、〟と自分の名前を気安く呼んでくれた、現在ではもう希薄な存在に周りの皆が成りつつ在るこの世の中での瞬時の出来事に、唯感嘆し、崩れる位に嬉しかったのだ。

Nさんを横に置いて俺はふとそれ等の状況から目を離すと、次は一度真っ暗な闇の空間へと一歩足を踏み入れて仕舞った様で、又直ぐに灯りが点きホッとする。エクソシストのリーガンが又出て来て居たのだ。場所は俺の母方の田舎で、愛媛県M市に在る小さな農村を想わせる歓楽街だ。否、俺からはそう見えて居た。しかしそこが、時折父方の方か母方の方か判らなく成る事が在り、困った。何か、家屋は父方の田舎の家で、中身(人、人と物のオーラ、等)は母方なのだ。一階のdrawing room(まぁ応接間とも言い難い出入り自由な場所)に俺は居り、何人か従兄弟、叔父、叔母、が居て、天気は矢張り良かった。俺から向かって正面の網戸越しには外からでも二階へと上がれる階段が見えて居た。その一階の部屋で網戸だけを閉めて、母親と他の友人や、何処かの祖父母の知人達が集って居り、ガヤガヤと、又静かに話をして居る。祖父母は向こう(離れ)に居た様でその会話、団欒には参加出来なかった。未だリーガンには悪魔が取り憑いて居た。母親が俺に「あの時あの子(リーガンの事)、(誰かと)喋りながら片足下げてたやろう」と、態々片足を下げて居たリーガンの在り方が表現されて居たそれ迄に見た1シーンを思い出す様にして、何か答を聞きたい、という様子で俺に聞いて来た。俺が眠る前に読んで居たダンテの「神曲」の内で書かれて居た「土手の斜面を歩きながら片足は斜面の上側に置き、もう片方は下側に置いたままの姿勢で歩き始めて居たので、(がったんごっとんギクシャクで片輪走行の態で歩く事に成った)人の下方の足が何時も身を支えて居た」という内容を思い出して居た様子がこの時二人共に在り、私はその内容をもう一度その深意を伝える様にして母に話して居た。「あれを表現したかったんだろう。(その時の彼女の歩いて居た方向を決めた上で、)きっと左足が上側で右足が下に成って居た筈だから右足の方が下がって居たやろう?」と見た訳じゃ無かったが、その母親が見た、と言うシーンを頭の中で俺はその時見、教えて居た。俺はちょろちょろと勝手に修羅場に成って居たので在ろう今は閉められて居る網戸の外の縁側を気にして見ながら、気丈にそれでも振舞って居た。

すると祖父母に連れられて出て来たリーガンが姿を現した。赤毛に近い茶~金髪で、妙に余裕が在る様にも思わされた。祖父母は何かをリーガンに話して居る様だったが、その光景・情景から小耳に出来たのは、祖父母(特に祖母)がリーガンに、俺の居所を教えて居る際の内容の様だった。俺に、何か押し付けて居る様な気がして、「くそ、あいつ等…!」と俺はそろそろ逃げる算段をし始めて居た。


「え~~~~ほんとぉう~~―、ありがとう――~~」と祈る様に手を合せて、爬虫類か犬に似た様な逆三角形の口をして笑い、リーガンは祖父母に応えて居た。


その時のリーガンは躁鬱病に罹って居る様にさえ見えて、俺は「絶対未だあいつ(リーガン)は取り憑かれて居る…!」と確信して、今度は父方の田舎の家屋だとはっきり判る二階へ足早に駆け込み上がり、光おいちゃんと叔母ちゃん、否誰でも良い、誰かに会う事を期待して直走りに走って行った。そうしながらも祖父母に応対するリーガンはそれなりに成長して〝お姉さん〟に成って居り、陽光が頭上から差して天使の輪を綺麗に揃えられた髪に映し出して、まるで飛び入り参加で来た新しい生娘、誰もが認めるだろう〝美少女〟の体裁で在った事に俺は気付かされ思い出し、少々あの清潔な、春風に吹かれて良い匂いのしそうなベビー服に顔をどっぷり埋めて、そのリーガンに甘えたい様な気もして居たのだ。あの祈る様にして対応して居た、そういったリーガンの姿が、絶え間なく途轍もなく綺麗で可愛く見えて仕舞い、何時か俺を散々に世話してくれた旧友に似て居るとさえ思い感じ、人として甘えたくも成って居た。あの変幻自在に若さを操り、美貌だって思いのままのリーガンの天賦の才に、俺はじっとやられて仕舞って居たのかも知れないとつくづく、改めて思い知らされて居た訳で在る。


俺の居場所を祖父母から聞き知ったリーガンは、もうすぐ後方を追い付いて来て居り、先程駆け込んで、息咳切らして走り上って来た階段を「ねーえぇ 待ってよーぅ」と声はか細く、しかし芯が通って居る様な強靭の態を見せながら、もう上り終えて居た様子だった。その時、ちらと見えた(観音の様にも見えた)叔母ちゃんと光おいちゃんを俺は走りながら確認して居て、そこで少々安心はしたが奈何せん力不足、否タイミングの悪さでか、一瞬逃げ切る事がもう面倒臭く成って仕舞い、その時直ぐ背後に居たリーガンに対して(女と言う事も在り)跋の悪さを憶えて俺は向き直って仕舞って居た。そして俺は、光おいちゃんと叔母ちゃんが居る場所から逆の方向へと身体を向けて走り、勇み出て、そのリーガンの両肩をガシッと鷲掴みに持ち、部屋の中に置いて居た観葉植物の植木の傍迄追い遣って、リーガンがその時既に懐刀の様にして持ち歩いて居た太い剃刀の存在に俺は気付いた上で、切られる痛みにゾッとする恐怖を覚えつつその恐怖に耐え、リーガン丸ごとその対象をぶっ潰そうと言う衝動(衝撃)に駆られて居たので在った。しかし剃刀はリーガンの両手の中に二枚隠す様にして在った。俺は無理して強気に出て、剃刀を二枚共取り上げ、「俺がこうするんだよ!!」とリーガンを殺す振りをして凄んで見せた。リーガンはその強靭をその時には一度も見せずに、唯々素直に言い成りに成って居る様に俺には見えたのだが、しかし又妙な余裕が在るかの様な屈託の無い笑顔を俺に見せながら次の行動に移ろう、という未知成る恐怖をも俺に突き付けて居る様だった。するとリーガンは急に(矢張り)形相が恐ろしく変り、「そうだ殺せ!この娘を殺せ!!」と真に迫る勢いで何重層にも聞える様な大声を振り上げて、俺に挑み掛って来た。しかし俺は無理強いして居た為それ以上に踏み込む事が出来ず、夢の内とは言え、しかし矢張り内心負けた気分で在った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「操練場」~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ