「モノポリー0」~10代から20代に書いた詩

天川裕司

「モノポリー0」~10代から20代に書いた詩

「不死鳥。」

 自分の家につぼがあって、青白い閃光を放つ。そのつぼは、決して、一人で飽きるということはなく、そういう魔力があった。だから、そのつぼを持った男は、いつまでも、一人に飽きるということなく、そのつぼのある自分の部屋にいた。窓からは、ふしぎそうに彼の姿を眺める女連れのカップルや、夫婦や、女達の姿が存った。その中には子供もいて、しかし、子供の内の何人かは、その光景の意味がわかったという。そうらしい。男は、決して、その部屋を出ることはなかった。しかし、その部屋にいる間が大変、幸せであったため、窓の外が楽しそうにも見えていた。それは自然の成り行きであった。それだから、ある日、少しばかりのお金を持って、外に出て行った。(お金は同じアルバイト先で、こつこつためていた)。そのお金を持って、彼は、外に出て行った。はじめに、男が目にしたのは、子供である。子供は2,3人居り、不思議そうに彼をみていた。出なかった事を知っていたからである。かるくあいさつをして、繁華街へとくり出して行った。

繁華街は、男女、老人で溢れかえしていた。これが、世間の、日常の、通り相場である。男は、久々に、見た気分で、はじめは、たしなみ程度に、次第に、憂うつをおぼえていった。疲れたのだろうと思った。しかし、男女を見ている内に、その世間が楽しいものとわかってきた。その自分に気づいていた。情熱的になった。或る、有名人のポスターが、男の入って行くカフェの奥に飾られてある。そこには子供は居なかった。いるのは、男女と、あと中年の夫婦や、或いは、人々である。しかし、その光景が、男には新鮮だった。長い間、そうした気分に浸っていなかったからであろうが、自分でそう思うことにした。笑っていた。その内に友達が出来、女友達が出来、町に、自分の好きな所も出来た。男は、又、家から出て行った。(中略)。

帰るのが嫌になった。横目で、自分の家を見るようになっていた。それを自分で気付いた。否、自分で気付く以外、どうしようもなかった。ある、有名人の死をきっかけに、その町での生活がたのしくなり、自分の部屋が、何もかも、色あせた。部屋に置こうとしていた飾りも、あとでいいと思った。どうでもよかった。

たのしかった。すべて、たのしかった。一つの労苦除けば、すべて、たのしかった。他人への気遣いである。生きている、と実感した。そんな最中、自分の部屋に帰ることが、くやしくなった。もし、今、ここで、帰ってしまったら、あのつぼのお陰で、又、自分は、自閉症みたく、部屋に閉じ篭ってしまうのではないだろうか。この今のたのしさを、ふいにしてしまうんじゃないだろうか。今、生きている実感のある、こちらの方がずっと良いと、思い始めていたのだ。

 つぼが怖い。あの青白く光る、つぼが、何となく、怖い。..........

明るく、たのしく、パラダイス。人々の群れが、流れが、まるで、自分のためにあるような気さえした。やわではない。やわではない。男は世間知らずなのだろうか。否、そんなことはない。そういう、世間のたのしみ方も、この世間には、きっと、在る筈だから。

 男は、相当(かな)りの美男であった。しかし、女は、それに見向きもしなかった。彼は、流行の言葉を知らなかった。女の陰険なやさしさは、男をだめにした。又、久しぶりに、見る態度であった。”苦”ではない。空想が頭を巻いた。そこに見たのは、青くなった、煙の中にひっそり浮かんだ、つぼのある部屋だった。

 いろんな会話が、男の頭上で交されていた。一人になった寂しさを味わった。(中途).....


「いと安き。」

 (追記)

手足をやられて頭がおかしくなった人の所へ行って、何か役に立つ事が出来ないか、と問えば、私は自分の栄光をみたからここにいるとの返答。きもちは見事にうち砕かれた。

これから、死んでゆく人の為のparadiseとも呼べる場所を創りたいという夢は、自然の流れでまけ、頭から足のさきまで姿を消していった。

暗い、悲しみの中で、別の生き方を強いられた人がいた。その人がどんより曇った空の下、病院の屋上から景色をみているその前で、同様に悲しみを背負った一人の人がやってきて、笑ったまま、屋上から飛び降りて亡くなってしまった。始終目の当たりにしたその人は口元を歪ませて、唯々、一点をみつめて、感覚が戻らないのを哀れに思いながらその情景に浸っていた。

本当に、愛情を人に注ぎ、そのまま果ててもいいと思った。すべてを抱み込んだまま、一緒に天国へと行ってみたいとも思った。すべて、意味がある事である。大きな囲いの中、人は神に繋がって、又互いも繋がって生きている。その真実をずっと永遠に信じたい。


「ぼんやり。」

 「黒っぽい服をきてピンクの鏡をもった男が切り裂き魔のように、無口を装って、灰色の世界から一人やってきて、そこに息を吹きかけて、まわりの一つ一つのものは凌駕されたまま、その者と共にいる。」 いちばんこわいものは、人間である。愛を知り、殺戮を知り、一定の節度を知っている。同志、無垢。今、何をみたって灰色にしかうつらないで、心では生粋の自分だけが、息絶えようとしている。きっと、晩年かわらないだろう。とりわけ目立たなく、何も辟易せず、そこでのうのうとしている。父はなにか、少し意外だが、わたしの話をきいて、解ってくれたようだった。母は、ずっと悲しそうなかおをしていた。きっと、それが当たり前なのだと思う。苦しかった。


「苦悩と悪戯。」

 人の気持ちがわからなくなるまで落ち込んだ。まるで奈落の底にでも落ちて、二度と這い上がれなくなったきもちで、むなしさをおぼえて、辛かった。どうしようもない日々を仰ぎ、早く、ここから目覚めることを望み明るい光が射すのを願った。

今日、父と母と、今の自分の心境についていろいろ話した。何を話すのか自分でもよくわからなかったが、所構わず、愚痴を零し、友人、今の自分の人間関係、気落ちしているきっかけ、なにかとにかく、自分の味わった苦労等すべて、かき出す思いで、一生懸命、喋った。でもやっぱり無理だった。駄目である。自分の弱さを晒け出す羽目になるのが、自分でもわかって居り、始めから敗北の言葉を父母にぶつけ、それもすぐに終わる優越をみたいがために続けてゆく。案の定、悶々する悩みの中で躰をひねらす自分のさまが手に取るくらい、わかった。もとより始めから勝算などなく、優越は、あるわけがない。この白紙に、久しぶりにペンを取り、何かしら言葉をなぐりつけたい衝動にかられたのは、無垢な自分を呵責したいためと、未熟な自分の妄執を軽減する努力について完遂させたかったからである。懊悩、苦労。


「モノポリー0」

 「愛してその人を得ることは最上である。愛してその人をうしなうことはその次によい。」---1738

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「モノポリー0」~10代から20代に書いた詩 天川裕司 @tenkawayuji

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