lemon peel



綺麗な綺麗な、

満月の日の夜に


我が家の屋根の上から

歌が聴こえてきたんだったね。


まったく、人のうちに登って

夜中に歌を歌うなんて

けしからんな、なんて思って

小言を言いに歌の主に会いに行った。


けしからんな、

こんなに美しい繊細な歌を

世に出さずに独り占めしているなんて。


歌い終わりの君に、

声をかけたね。


君はきょとんとして

『僕が見えるの?声が聴こえたの?』

と何やら金色に光る何かが入った水瓶を

抱えながら


嬉しそうに、こちらへやってきて。


ごめんなさい、

今まで叱られたことなんてなかったから

勝手に屋根を借りました

今日の満月で蜜を作るためには

この屋根から見える月が一番美しかったんだ


お詫びにと、

出来上がったばかりの月の蜜を

私に舐めさせて

飛んでいってしまおうとするなんて。


もう一度

聴かせておくれよ、

君の歌を


あれは歌ではなくて

月に蜜を分けてもらうための

祈りだよ


そうかい

では、もう一度聴かせておくれ

君の祈りを


だめ、次の満月まで

お祈りはおやすみ。


君は次の満月も、

その次の次も また次も

僕のそばで祈りを囀った


そんな日々がずっと続くと

そう願っていたのに

どうしてだい

Sugar Plum Fairy


君にありったけの僕の音楽を

捧ぐ



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童話『糖花通りに咲く花は』より

君との日々に捧ぐもの

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