06-12-24 - 06-18-24

 心残りがあったOさんの場合(06/12/24)

 お題:

【カシャン砂漠】

 >【鉛の兵隊】

 >【くね垣】

 >【日医】

【ULFA】

【ナハリン】


 兵隊とナハリンに引っ張られた回です。


 ナハリンというのがどうにも要領を得ず、使用している辞書ファイルを見てみるとアフガニスタンにある町の名前とのことでした(ナフリンとも)。それは良いのですが、最初はサハリンと誤読し、さらに鉛の兵隊の兵隊成分も相まってそちら系に考えが引っ張られていったのです。


 しかし、戦争ものと言うのはよほどの覚悟がないと書き始められないものですので、なんとか別の話をと考えを散じてふと思い浮かんだのが、竹垣(くね垣)越しに顔が見えないまま交流する妖怪と人間の絵でした。当初は「妖怪が少年をあの手この手で騙して外におびき出して食べようとするが、徐々にほだされてしまい、死病にかかった少年を救うために囲炉裏に飛び込んで北斗七星に延命を願い出る」という話を考えていたのですが、これを鉛の兵隊と言うのは流石に無理があったので路線を変更することに。


 元が鉛の兵隊ですので、スタンダードにラブストーリーかなと軽い気持ちで書き始めたのですが、よく考えれば鉛の兵隊は兵隊も紙のバレリーナも炎に消えて愛の名残だけが残るエンディングなので、これで良いのかと少し悩みました。しかし、戦争に引っ張られた思考がまあ戦時中なら仕方がないかなという無責任な囁きをしてくれましたので、ラブストーリーに最初の構成の一部を混ぜることにしました。


 妖怪話から流用したのは「外の人物が嘘を付く」部分と「中の人物が病に侵されている」部分だけなのですが、結果的に女主人公のキャラが良い感じに立ってくれました。


 エンディングで双方死亡することが決定していましたので、せめて交流は希望が持てる形にしようと、女主人公の言動は少しコミカルさを意識しています。一方で、男性側は嘘を付く必要性を作る部分で少し悩みました。しかし、ヒロインが交流を通じて生きる活力を取り戻していくというストーリーラインを補強する形で、白い嘘を付くという方向で模索した結果、本文のような顛末となったのです。


 後半では戦争に行く(水路に流される)ことになった男性が活力を貰う側になっていますが、こういった時によって相互に助け合う関係というのは好きな設定ですので、機会があれば積極的に使っていきたい所です。まあ、今回はデッドエンドですが。


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 軽率だったP氏の場合(06/13/24)

 お題:

【モントルー】

【鞍橋】

 >【ミティオライト】

 >【ドゥリリング】

【にぎり】

 >【爾霊山】


 日記形式というのも簡単ではないのだなという回です。


 これが実にその通りで、現実の日記というのは書いているうちに書式がある程度固まってきます。どのような書式になるかというのは人によって異なるとは思うのですが、淡々と記録をつけていた日記がいきなり感情丸出しの恨み帳を書くようなことは、よっぽどのことがないと起き得ません。逆に言えば、よっぽどのことの重大さを表現するのには役立つのですが、それ以外の部分で書式が強く限定されるために取り回しが悪いのです。


 書式が限定されるというのは大抵の表現法に共通ではあるのですが、日記の場合は筆記者が知っていることかつ重要だと思っていることを筆記者の言葉で端的にしか書けないため、状況を伝えることが極めて不得意です。そのため、長い物語の中のフレーバーとして用いるなどのサブとしては便利ですが、今回のように一話きり掌編の場合は表現力不足に悩まされるということを経験から学びました。愚者ですね。


 実のところ表現の困難に薄々気がついてはいたのですが、なぜ日記形式を採用したかといいますと、中編相当の話を掌編に圧縮するためです。お題を見ていくつか話は思い浮かんだのですが、一番短く書けそうだった話が今回採用した話でした。お察しの通り、 FBIが主人公の某ドラマに影響を受けた作品になっているのですが、アステロイドベルト探査が活発になった昨今、意外と笑い事ではないのかもしれません。まあ実際にやってきたところで、 T(U)ACGを使っている保証もないので大変なことになるか全く何も起きないかのどちらかだとは思いますが。とはいえ、 Denis A. Malyshev達の研究[https://doi.org/10.1038/nature13314] あたりを見てみると、意外とファジーなのかもしれません。


 別にそういう話題に警鐘というような意図はまったく無く、単純にちゃんと手順守ってじっくりやろうねという話なのですが、何か恐ろしいもののように見えるのは 203のせいだと思うことにしましょう。


 序盤に横文字が大量に出てきて少しわかりにくいかもしれませんが、この日記の書き手は一応宇宙物理を研究(多分国立天文台とか)している設定です。最初は大規模構造の形成とかに興味があったのが、受入学生に付き合ってるうちに惑星物理に興味が出ちゃったタイプですね。


 しれっと学生が修論一回落としていますが、コロナ禍だったのでそんな人は多かったかもしれません。そんな中飲みに行ってるんじゃないと言われれば、グゥの音も出ませんが。グゥ。そもそも、普通は人数呼んでのセミナー連続で3日も開けない(少なくとも夏の学校ぐらいの規模……?)とは思いますが、まあそこら辺は創作ということで。


 最後に日記の筆記者が退場してしまいましたが一応吉報を届けておきますと、 Ham君はM認定通りました。よかったですね。


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 撮影現場でのQ(06/14/24)

 お題:

 >【柳川市】

【クルップ】

 >【出歯亀】

【ニカイア帝国】

【羽生】

 >【アグフア】


 柳川市が謂れのない風評被害を受けた気がする回です。


 モノを世に出すからには説得力が必要になるとは思うのですが、気を付けてはいてもなかなか思うようにいかないものです。私などはつい都合の良い方向に場面を誘導してしまい、いつの間にか独りよがりな文章を書いてしまいそうになりますし、実際書いているのですが、そんな時は深呼吸して書き直しをしています。書き直せているとは言っていません。


 それはさておき、場面描写をするときは頭の中でシーンを映像にするとある程度マシに書ける気がしているのですが、映像は映像でもやはり説得力のあるものとないものに分かれます。その分岐点というのはやはりリアリティということになるとは思うのですが、一山いくらでお譲りいただけるものなのか、私は存じ上げないのです。もっと物事をしっかり観察したいですね。


 という内容をキャラクターに喋らせただけのお話です。


 実のところ、お題で何も浮かばなかったので検索の結果ヒットした出歯亀の語源となる事件をなんとなく描写しながら展開を考えていると、いざ被害者を殺す段階に来たときにどういう映像がそれらしいかと悩んだ。という地点から出発しています。映像のリアリティについてはいつも悩んでいますのですが、今回はアグフアがお題に出ていました。このアグフアというのを私は存じ上げなかったのですが、どうも近年までフィルムの大手だった会社だったということでじゃあ映画でも撮るかと決めたのです。


 この構成のために、最初の数段落は登場人物の行動が機械的になっていますが、これはこれでわかりやすくなるという利点もありますね。その後の描写にリアリティがあるかについては黙秘させていただきます。


 脳内に一人ぐらいカントクがいれば良いのですが、残念ながら生息域外のようですので自分で整合性チェックをしなければなりません。そのため、話の中のカントクが話していることが実際のところ正しいのかはわからないのですが、少なくとも多少の説得力があれば良いですね。


 余談になりますが、私はリアリティと説得力を分けて使うことがあります。多くの場合はリアリティは自然な流れ、説得力は補強材のようなものとして導入しているのですが、本来あるべきではない何かの都合上分けて扱うことがあります。そのため、リアリティがなくても説得力をもたせようとする文章や、その逆がこれからも出てくるかもしれませんが、ご容赦ください。


 最後になりますが、柳川市は本当に何も考えず福岡だし赤レンガ倉庫の一つでもあるだろうと検索すると、本当にあったというだけの理由で採用しています。柳川市の人ごめんなさい。


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 夢の中で見たRの場合(06/15/24)

 お題:

【六ツ石山】

 >【ワインレッドの心】

【大内山村】

 >【長命寺】

【エンジャメナ】

 >【モホス郡】


 地名5つ+曲名1つでどうしようかと頭を抱えた回です。


 結果的には使いましたが、ワインレッドの心を使うことはないだろうと決めて各地名について調べることから始めました。しかし、どうも共通項を見出だせずにどうしよううかと思っていると、モホスに関連してアマゾン文明の記事がヒットしました。古代アマゾン文明の話はなにかのテレビ番組で見た覚えがあったので、少し調べてみるとかなり成熟した謎の多い文明とのことでしたので、これは使えるかなとお題の中央に置くことに。


 調べる最中で出てきた農耕地跡が何故かブドウ畑に見えたので、結局ワインレッドの心も使うことにしました。たぶんブドウ畑ではないとは思うのですが、主食についての記載がなかったため、翻って畑で何を育てていても良いじゃないかと開き直ることに。それを主張するはぐれ発掘員が周りにバカにされつつも心にそれを秘めるという大まかな構成が出来上がりました。


 問題はこのはぐれ発掘員のキャラクターですが、大々的に主張して殴り合いの喧嘩をするようなキャラクターを書けるほどの知識がなかったため、陰気なキャラクターに決定。ブドウの流入経路は古代ならローマかなと思いつつアマゾンという土地がネックでした。しかし、「白い顔の先祖」伝承というちょっと怪しいサイトがヒットしまして、権力争いで大西洋を奇跡的に渡ってきたローマの有力者が文明を築いたというちょっと強引な説を押し通すことに。実際、土器の意匠が年代を経ても変化していないとするページも有りましたので、バックグラウンドはとりあえずこれで良いとしました。


 問題は、発掘の中途であるため上の設定をロクに活かせないという点です。とりあえず土器については触れましたが、 1時間で設定に触れるところまで書き切る事はできないと判断し、途中で切ることに。結果的にかなり薄味になりました。


 長命寺は聖徳太子縁のお寺とのことで、聖徳太子伝承キリシタンの説話変形説というちょっと強引な説つながりで、ヨーロッパ地域からの流入という発想をキャラクターのバックグラウンドに植え付けられないかなという浅はかな努力の結果です。間違いなく伝わっていないと思います。


 ロベールは日本人を海外の言葉で書こうとした際に、最初に思いついたのがジャポーネだったのでフランス人っぽい名前をつけただけです。一応最後は主人公を少しだけ認めていますが。


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 ハルカミライのSの場合(06/16/24)

 お題:

 >【唯心】

 >【鉄面皮】

【ノ・ムヒョン】

【ネルボ】

 >【弁慶六指】

【フュージョン】


 弁慶六指を見た瞬間に、グルオ・ベンケイムサシという単語が脳裏に浮かんだ回です。


 グルオ・ベンケイムサシ(グルオ・ジュウロクムサシ)とは何なのでしょうか。グルオはおそらくgluon(SU(3) gauge field)のことだとは思うのですが、なぜ出てきたのかは不明です。まあ由来はともかく、グルオ・ジュウロクムサシという単語が頭から離れなかったため、これを扱えるような話を考えることにしました。


 変な造語が出てきてしまい、更に良くわからない横文字でしたので仕方なくSFを書くことにしました。そもそもSFを書くのは苦手なのですが、それに輪をかけて掌編で書くのは難しいのでなるべき書くまいと思っていたのです。とはいえ、これも練習と思い書いてみたのですが、ここでSFの世界ユートピアにしたくない病の発作がおきまして、さらに話がややこしく。


 SFの世界ユートピアにしたくない病というのは不治の病でして、科学に少しでも親しんだことのある人間はすべからく患っているであろう病です。科学に触れると解ることなのですが、自然界とその法則というモノは人間が想像できる以上に果てしないものでして、その恩恵だけをジャンバリと享受していった世界観がまともに幸福な理由が無いと思ってしまうのです。ただでさえ今の社会が陥っている状況を見るとあながち的は外していない気もしますが、それをなんとか幸せにするのも科学の仕事ではあります。とはいえ、創作というのは極端な方が作りやすいのも事実ですので、その場合は大抵ディストピアが選ばれるのかもしれません。


 そんな理由でこの作品も例に漏れず、ディストピア系のサイバーパンクに設定されました。


 世界観の大枠が決まったところでいい加減グルオ・ジュウロクムサシを何者かに落ち着けないといけないのですが、gluonの理論というのは閉じ込め(粒子をまとめて逃さない性質)がある理論ですので、コミュニティがより強固かつ排他的になった世界にしようということに。十六六指がちょうど親が子供の間に割って入って排除していくゲームですので、ぴったりだろうということでグルオ・ジュウロクムサシについての考えはここで打ち切りました。なので、特に具体的なルールは決めていません。


 SFですのでフュージョンなども使いやすそうだったのですが、コミュニティ方面のディストピアを強調したかったので唯心と鉄面皮でストーリーを作ることにしました。唯心ということで精神至上主義、すなわち情報優勢と読み替えて、ネットワークが高度に発達した設定を生やしました。


 コミュニティを何でまとめようかと思ったのですが、十六六指がコマを親と子で分けるゲーム(非対称ゲーム)ですので、世代で分け、コミュニティ外の異分子を同列に扱わないという方向でまとめることに。つまり人を人扱いしないということなのですが、それを承知で自分の技量を平気な顔で切り売りする登場人物というのは親兄弟への鉄面皮と言えないかなということで大まかな流れが決まりました。


 ただし、鉄面皮ちゃんくんを主人公にすると凄まじく暗くなるか過剰に明るくなるかになりそうでしたので、視点は相手プレイヤー側に置いています。


 他の造語については、単語の意味っぽい感じのなんとなくそれっぽい意味です。解りにくそうなのは時間単位のwcsですが、あれはセシウム(Cs)の振動数(ω)です(普通は角振動数なので6倍ぐらい変わりますが)。何にしても、掌編でSF書くのはやめておいたほうが無難ですね。


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 あるTの絵について(06/17/24)

 お題:

 >【ヨガワリグサ】

【猿面冠者】

【ヨーク岬半島】

 >【ワニス】

【鳴子町】

 >【イーグルアイ】


 鷹を腕に乗せて遠くを見ている絵を描きたくて始めた回です。


 私は鳥があまり好きではないのですが、大型の海鳥や中型以上の猛禽は好きです。鳥を見ているとその目の凶暴さと体躯の小ささがアンバランスでどうにも好きになれないのですが、ある程度大型なら問題ないということでしょう。これらのために、鳥というのは私にとってどうしても攻撃的なイメージが付きまとってしまうのです。


 それもあって、最初はイーグルアイを西洋側で出そうとしていました。ヨガワリグサが鉄道の発達と共に全国に広がったという記事を見て、滅んでいく文化というのをテーマにしようと決めていたからです。しかし、よく考えてみると日本の猛禽というのは現在追いやられている側ですので、どうもミスマッチかなということで鷹匠を配置して彼経由で出すことにしました。


 主人公を絵描きにすることはワニスを見たときにふと思いついていたことでしたが、彼のバックグラウンドについては決めないまま書き始めました。明治期に西洋画の画材を手に入れられるというのはそこそこ裕福でないと難しいかと思い、富豪の坊っちゃんというのも考えたのですが、坊っちゃんを消えていく文化と対峙させるだけで 1時間使い切りそうだったので文化の中に主人公を置くことに。


 この時点で、最後に鷹の絵を見て回想するエンディングにしようと決めていたので、後は間を埋めて書き上げました。絵に限らず、創作物は当時の状況を反映し保存する能力もいくらかは持ち合わせていますので、ノスタルジー系のお話とは相性が良さそうです。ノスタルジー感を補強するために途中いくつか大嘘をついてしまった気がしますが、流れとしてはきれいになったので今回は気にしないことにします。


 西洋文明の流入で在来の文化が消えていく様子は、なんとなく前日のSFを引っ張っている気がするのですが、実際に文化は消えやすいので注意していきたいですね。


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 小姓のUが付く感情(06/18/24)

 お題:

【十日町市】

 >【念人】

【イラン語】

【ヤクタット】

 >【ニホンリス】

 >【ナマス】


 すべてを忘れて書いた回です。


 私は同性愛が好きでも嫌いでもなく、お話としては異性愛と同様に面白ければ読む立場です。立場なのですが、お題に念人が来たのがすべての元凶です。


 まず、はっきり言っておくのは、この作品に書かれた言葉は全く深読みをする必要はないし、まったくそのまま読んで構わないということです。つまり、慰み者というのは本当に慰めるということだけですし、激しいというのはおそらく鍛錬のことでしょう。貫かれるというのは刀か何かに貫かれるというそのままの意味でしょうし、なますは、その、あれです。食事中に落としたのでしょう。このことだけは、はっきりと言っておきたかったのです。


 さて、それはさておき、念者の契と言うのは実際にあった衆道の制度なのですが、日本の衆道というのは流行り廃りこそあ、近世まで続いてきたれっきとした文化であります。そのため、前日に文化についての話しを書いた以上、避けて通れぬ道でしょう。そこで、江戸時代の衆道を書くことにしたのですが、どんなシチュエーションにしようかと思ったときに最初に思い浮かんだのが薩摩でした。


 薩摩は江戸後期にあっても衆道が盛んで、西郷隆盛も僧侶(男)との心中未遂をした逸話が残っております。薩摩と言えば他に示現流が有名ですので、絡ませやすいかなとなますを採用して薩摩を舞台に書くことに。ただし、薩摩弁はわからないので標準語です。ニホンリスは現在九州に生息していないようなのですが、そもそも昔はいたのかについてもよくわかっていないようです。しかし、その曖昧さがフィクションを強調することを期待して導入しましたが、そもそも有名な話でもなさそうなのでただの自己満足となっております。


 ニホンリスの存在意義がそれだけというのも可愛そうですので、ヒロイン(……?)はリスのように小柄と設定し、屋敷の中から逃がすことで展開の暗示に使わせてもらいました。


 久昌と義詮のキャラ付けは私の趣味です。

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