異世界迷ヰ犬奇譚

@kumanonn

プロローグ 

はあっ はあっ はあっ


荒い呼吸音が鉄の味が充満する口内から零れる。抉られた左目からどくどくと血が流れ、肘から先がない右腕からも大量の血液が流れている。貧血か、疲労か。頭が鉛玉のように重く、ナイフで何度も突き刺されているような激痛がする。異能手術で強化した身体はもうとっくに悲鳴を上げている。このままだと失血死は確定だ。


だが、こんな痛みなんて今更だ。死への恐怖などとうの昔に置いてきた。死にかけたのはこれが最初じゃない。腕が千切れたことも、大分昔の事だが、ある。顔中を大火傷した事もあれば、両足が抉り取られたこともあった。その時は、彼女――晶子姉さんに治癒してもらったが、今はこの近くにはいない。いたとしても、絶対に巻き込むものか。『この男』には、晶子姉さんは、勝てない。いや、もしかしたら、英雄である隊長殿でさえも勝てるか怪しい。


目の前に立っている、外套を着た男。何か、小さな杖のようなものをこちらに向けている。その周りには、大量の模様――そう、いつの日か読んだふぁんたじー小説にあったもの。


『魔法陣』。


彼は、先ほどから魔法のようなものを扱い、こちらを蹂躙している。自分はこれでも、軍警最強の組織に所属している。弱くはない、筈だ。だが、この男は先ほどから私をそこらの蟻でも踏みつぶすように、その圧倒的な能力で私を蹂躙していた。


彼の異能は最早人間の域を超えている。国一つ滅ぼすのも彼には造作もないのではないか、とすら思う。それ程までに、圧倒的な力だ。異能力の域を超えている。世界に数十人しかいない超越者すら、軽く凌駕するのではないか。そんな相手に、自分は勝てるのか。否。分かり切ったことだ。恐らく自分は殺されるだろう。だが、絶対にここは通さない。たとえ無理だと分かっていても、こいつをここで殺す。


「……貴君は何が目的だ?誰の差し金だ。欧州のものか?」


「……」


「例え、何が目的だろうとここは絶対に通さない。私の全てをを懸けてでもここを守り抜く。ここを突破されれば、隊長殿の世界征服の計画が潰えてしまうからな。」


にや、と悪役のような笑みを浮かべ、相手を見る。彼からは自分は世界征服に加担する悪に見えているだろう。異能の特性上、演技は得意だ。恐らくこの男は欧州の人間。世界征服でも止めに来たのだろう。欧州がこんな人外級の異能者を保有していたのは驚きだが、今はその様なことはどうでもいい。こいつを止める。隊長殿を討つのは彼ではない。


福沢諭吉


彼が、隊長殿を打ち取らなければならない。でなければ、今迄犠牲にしてきた人々、隊長殿の全てを賭けた計画が、破綻してしまう。この世には、又あの地獄が繰り返される。もう、戦争は嫌だ。


この先の空港では、隊長殿が、命を張り、名誉を捨て、自分の全てを捨ててまで戦争を止めようと、無くそうとしているのだ。隊長殿に救われたこの命、今使わずにいつ使うと言うのだ。死後、世界の敵だと。蔑まれようが、死体蹴りされようが構わない。

だから。


「うおおおお!」


左腕で思い切り隠し持っていた暗器を投げた。勿論、たかが小刀、すぐに異能らしき結界の様なもので防がれる。……が。


「!?」


その結界を擦り抜け、男の眼前に迫った。が、咄嗟に男は異能を使い、小刀を高熱の炎で燃やした。異能で強化された腕力で全力で投げたんだが……矢張り駄目か。


「……何をした。」


「!」


初めて男が口を開いた。体格で男と判断したが……声が隨分低いことからも男というのは確定か。まぁ、彼の異能なら性別偽装ぐらい、簡単にできそうだが。


「……簡単なことだ。゛一度物体をすり抜けられる゛異能付与がされた暗器を投げただけのこと。」


特務課の監視下にある『触れた物体を゛一度だけ゛コンクリートだろうが灼熱のマグマだろうがすり抜けられる異能』を持った異能者が付与した暗器。私が政府に申請し、常に懐に入れていた物だ。暗殺者時代の癖だな。真逆こんな所で使うとは。あまり役には立たなかったが。


「……そうか。次、何か手を打たれる前に早く手を打っていたほうが良いな。死ね。」


「は」


起承転結無く殺害予告をされ、先程とは比べ物にならない程の、そう、ピアノ位の大きさの炎の玉と言えば分るだろうか。太陽のように燃える灼熱の火の球は私の元に急速に向かって来ーー私の身を、包んだ。


「あああああああ!!!」


「……一つ、良いことを教えてやろう。まず、俺はお前が言う欧米の人間では無い。何やら勘違いしていたらしいが、お前が言う隊長殿に興味はない。俺の目的は始めからお前だ、ユウ・イブキ。それと、冥土の土産に一つ、お前に助言をしてやろう。お前は之からーーーー。」


男はその言葉を最後に、クルリと方向転換し……消えた。その言葉を酸素が足りずにあまり働かない頭で聞き……隊長殿を狙っていたのではないと聞き、安心し、遂に意識を手放した。








『ーーーお前は、此処とは別の世界に転生するだろう。』





☆★☆


此処迄です。結構更新遅めです。名前は文豪から取った……とかはありません。私のオリジナルです。裕ちゃん彼を欧米の人間だと思ったのは強者感が半端なかった上に空港の近くにいた猟犬の隊服を着た自分に突然襲い掛かってきたから。



■伊吹裕

異能力者。元ポートマフィア幹部にして現猟犬隊員。異能の特性上、仕事とは短期の潜入捜査が多い。与謝野女医に会いに探偵社に良く通っていた為(同期の太宰さんに用があることも)、探偵社とは可也仲良し。隊長は命の恩人。優しいが割と非道な性格で、人を殺す事に躊躇が無い。拷問もいける。但し懐に入れた人には可也甘い。


武器は基本的に日本刀か拳銃。が、割と何でも扱える。体術も上手い。


年は二十二歳。容姿はかなり整っている。黒髪に金瞳。無造作に一つ結びが多く、本気を出すときはポニテ。女子力が皆無。おしゃれなんかよりも訓練したい、強くなりたい。口調が硬い。双黒とは同期。酒豪で、いくらでも飲める。良く中也さんや梶井さん、広津さんと飲みに行ってた。マフィアを抜けたのは原作より一年から半年前ぐらい。人脈が滅茶苦茶広い。事件ホイホイとかトラブルメーカー気質とかにより色んな人と知り合いに。頻繁に事件に巻き込まれる為、綾辻さんとか探偵組と良く知り合う。原作の半分位は参加しちゃってるかもしれない。仕事はちゃんとしてます。大体潜入捜査が任務なので(ポトマじゃないよ)ヨコハマにいることが多いんです。


カタカナやら横文字に弱い。殺意やら敵意やらには敏感な癖に人の感情に疎い。特に恋慕には。女子力ないんだから恋愛に関してもダメダメ。貧民街やマフィアにいたのでそういうことは良くわかるが、普通の純粋な恋愛知識は皆無。これから異世界の男達を振り回す未来が良く見えるね。

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