第12話 胡蝶のいめ
薄暗い、肌寒い、頭がグラグラする……
ここ、どこだ……?……凌空の部屋じゃない…どこだっけ…?
頭をガシガシとかきながら辺りを見回した。なんか見覚えある気がする……
良く見ると自分は4畳ほどの和室にいることを理解した。部屋の中央にある机にはリモコンや空き缶、中身が中途半端に残っているペットボトル、煙草とかいろいろ置かれていた。足元に目をやると足の踏み場が全然なく、パンパンのゴミ箱をぶちまけたってくらいゴミや服、本など散乱していた。
カーテンの隙間から日の光が射し込めないところをみるに今は夜であることがわかった。
「……?」
物音か?静かな空間でも耳を澄まさないと聞こえないような小さな音…いや
「、声……?」
子供のような小さく何かを堪えているかのような幼い声。声はどこから、部屋を見回した。右端の視界に写った扉から。暗くて扉と認識するのに時間がかかった。扉にゆっくり近づき手を掛けようとしたとき、……バンッ!と扉が壊れるくらい強い力で開かれた。
「ッ………………」
俺は咄嗟に口を抑えて部屋の隅で気配を殺した。開かれた扉からデカイ男が不機嫌そうにズシズシと出てきた。男は机に置いてあった煙草を手に取り俺に目もくれずどこかへ行ってしまった。
…………
男が去って静寂の時が流れ俺は男が出てきた部屋へゆっくり近づいた。先ほど聞こえた小さな声の主がこの部屋にいると予想したからである。このまま俺も去った方がいいのかもしれないが好奇心が勝り部屋を覗いた。今いる部屋よりも暗い部屋に少年と母親らしき女性がいた。声の正体はあの少年だろう。少年は右手で目元をゴシゴシこすっていて左手には紙を握りしめていた。女性は少年の肩に手を添えて何か励ましているように見えた。2人ともボロボロだ。
「……ね」
「……も…から」
…………?女性が何か言っている。目を閉じて耳を澄ました。
「ごめんね……お母さんがお父さんを怒らしちゃって…」
「ハルちゃんは何も悪くないわ」
「お父さんが正しいの……」
「母」は「ハルちゃん」に何度も「自分が悪い」「お父さんが正しい」など口にしていた。どこか焦っているような抑え込んでいるような刷り込んでいるようなまるで自分に言い聞かせているかのように……
…………。……ン、……ォン、……ブォン
「……………………」
いつの間にか「ハルちゃん」は泣き止んでおりただただじっと母親を見つめていた。そして男が出てった玄関とか開きっぱなのか風の音が聞こえてきた。
「ハルちゃん」の気持ちは分からなくもないが、同情するつもりはない。道徳心がないとか思われそうだが蟻の巣穴に水を流し入れる寸前で思いとどまったり友人に課題を丸写しさせずにヒントをちょっと出して自力で解かせるくらいの優しさは持っている。でも、今回は、「ハルちゃん」に対して「可哀想」という感情は抱けなかった。、なんか、何て言うんだろう……ん?なんか視線を感じる……
「おわっ」
いつの間にか俺の目の前にハルちゃんが立っていた。気配とかまったくなくめっちゃ今心臓がドクドク言ってるのがわかった。じっと俺を見つめていたハルちゃんに違和感を覚えた。手に持ってるものって紙をじゃなかっ…………
「――――――――――――」
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