第7話 オズワルドの子供達

 

「にゃう」

 

 猫のジークは汗ばむ背中をよじ登る。

 頭頂に至り前を見つめた。

 

「どこでも良いけど、落ちるなよ!」

 

 賢太郎も猫が傷つくのを見て楽しめる様な酔狂ではない。かと言って速度を気にしていられる程の余裕もない。

 

「……別に、そんなに仲良くないんだけどなっ!」

 

 立ち漕ぎをしながら独りごつ。

 

「…………」

 

 ジークは腹の下にある賢太郎の頭に目を向ける。自転車は目的地に向けて進み続ける。

 

『────おや、もう来たか。ほら、姫。お待ちかねの王子様だ』

 

 自転車を投げ出して、賢太郎が飛び込んだ先は潰れたホテルのエントランス。ラジカセが鳴り、声を発している。

 

「……あ、あ」

 

 腕がない弘が座らされている。

 側には黒い外套、顔の見えない男が一人。動かずに突っ立っている。

 

「…………」

 

 ジークが賢太郎の頭から降り、ツカツカとラジカセのある方へと進む。

 

「おい!」

 

 賢太郎は呼び止める。

 

『……ツイてない。私はとことんツイてないな。久々の再会、家族としては喜ぶべきかもしれんがな。どうにもお前も、アイツも。私にとっては都合が悪い……かもしれん』

「…………」

 

 ジークは鳴き声すら発さず、警戒心を顕にしてラジカセを睨みつける。

 

『どれ、憶測で話すべきではないな。脳があるのだから。口があるのだから。ジーク、お前は人魚の居場所を知っているのか?』

「…………」

『まあ、答えなくても構わない。私には確信がある。津継宗尭が死に。その息子も、その妻も既に死んでる。一体何処の何奴の仕業だろうな。それは良いか……まあ、人魚は宗尭が持っていたのは知っていたさ。お前もだろ? オズワルドはそう言っていたしな』

 

 答え合わせでもなんでもなく、これはジークの反応を見ているだけだ。

 

『さて、と。早いところ津継賢太郎を捕まえてしまいたいが』

 

 間に入る様にしてジークが構える。

 

『お前はそうするだろうな。お前の事はちっとも分からないが、そうするというのは理解できる』

 

 ジークがラジカセに向けて飛び掛かろうとした瞬間、入り口が開かれる。

 

「……誰だ?」

 

 ジークも賢太郎と同時に振り返る。

 立っていたのは鉄鎧。

 

「シャアアアアアア!!!」

「……おい! もう用件は済んでるんだよっ」

 

 先程迄の比ではないほどの敵意をジークがぶつける。しかし鎧は全く気にも止めず、ラジカセに向けて歩く。

 

『やれやれ。また来たのか。ジーク……コイツは私が呼んだ訳で────』

 

 ガシャン!

 

 ラジカセが叩き壊される。ガ、ピ、ガ、ピと不愉快な音がこだまする。

 

「行くぞ」

 

 弘を肩に担ぎ、ジークも回収して賢太郎はホテルの外に出る。

 

「安達、文句は受け付けないからな」

 

 鎧、ティンはラジカセの破壊を確認してから振り返る。

 

『…………』

 

 そこには誰も居なかった。

 この空間には壊れたラジカセと、ティン。そして黒い外套の人物のみ。

 

『…………』

 

 ティンは黒い外套を掴み、引き取る。中には案山子の様な物があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る