優しい裏切り者


なんと、奴が裏切り者だったのか。どうやってそれを知ったのかは忘れたがその時の衝撃は覚えている。

裏切り者と知ったことを知られてはいけないと思っていたがあまりにも衝撃すぎたためか奴にバレてしまった。

しかし、それにも関わらず彼は穏やかな態度を一向に崩そうとしない。

何故そのような態度をとれるのかが私には疑問だった。


彼の携帯に電話がかかった。

裏切り者と知ったことがバレているならどんな行動をとっても良いだろう。

そう思った私はすぐさま彼の携帯を奪ったがすぐに奪い返されてしまった。

彼とつながりのある者の情報を得たかったがさすがにそれは無理だった。

落ち着いた様子の彼は電話に対応する。

「いえ、なんでもありません。」

微かに聞こえた声はそれだけだった。ニコニコしている彼の様子を見る限り電話を奪った私の行動については何も言っていないようだ。まるで私の味方かのような振る舞いをしている彼のことがよくわからない。

彼は何処かに行ってしまった。


私は彼を追いかけた。そういえば奴はいつもあの場所を通る。先回りをして待ち伏せをしよう。


そう思い、先回りをして路地裏に隠れていると女性が声をかけてきた。

女性の方を見ると見覚えのある顔が目に入った。

彼の母だと思う。

奴が裏切り者なら彼女も裏切り者だろう。年老いた女性であれば組み敷いて情報を聞くことができるのではないか?



そう考えたのは間違いだったらしい。

私は彼女と戦ったが負けてしまった。不意をついて組み敷こうと思っていたのに今は私が組み敷かれている。


これからどうなるのだろうか。

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