第11話 女騎士レジーナ
ザガートの言葉に深く感激したヒルデブルク王が、助力を申し出た時……。
「お父様っ! その男に騙されてはなりませんっ!」
そう叫ぶ者の声が、何処からか放たれた。
声が聞こえた方角に皆の視線が向けられると、謁見の間の入口に二つの人影が立つ。
二人のうち一人は、二十二歳くらいに見える年の若い女性だ。
長めの金髪を後ろで結んでポニーテールにしていて、目鼻立ちは整っている。背は百六十センチ代後半に達するほど高く、手足はスラッとしている。スポーツマンかモデルのような印象を与える健康的な美しさは、あたかも女神のようだ。
青色のレオタードを肌に
左腰にはロングソードと呼ばれる片手剣が、
キリッとした顔付きは、
もう一人は貴族の服を着て、頭頂部が
二人は謁見の間に入るや
「私はレジーナ・ダ・オリヴェイラ・ヒルデブルク! この国の第一王女にして、誇り高き騎士なり!」
男の前に立つと、女性が大きな声で自己紹介する。王族である事を誇るように、胸を前面に突き出して鼻息を吹かせながら、
「ワシはギド……ヒルデブルク国の大臣をしておる」
後に続くように貴族の服を着た男が名乗る。あからさまにザガートを目障りに思ってそうなしかめっ
二人はそれぞれ王の娘と、この国の大臣であった。
(この男……)
ザガートは大臣の方を見て、ある異変に気付く。
「ザガート様、どうかなされましたか?」
魔王が大臣の顔をじっと見ていた事を不思議に思い、ルシルが問いかけた。
「いや……何でもない」
ザガートはそう言って少女の疑問をはぐらかす。大臣を眺めて気付いた事実を、あえてその場では口に出さず胸の内にしまっておく。
「お父様、この男を信用してはなりません!
自己紹介を終えると、レジーナが凄い剣幕で王に詰め寄る。魔王の危険性を早口で並べ立てて、父に翻意を
「ワシも姫様と同意見ですじゃ。国王……毒を
大臣が王女の言葉に賛同する。王の決断が間違いだという事を、冷静な口調で指摘した。
「これはマズいぞ……」
「俺達はどうすれば……」
国内でも王に次ぐ地位にある二人の人間が反対意見を述べた事に、謁見の間が
一旦はザガートを受け入れる方向で固まりかけた空気に
「何じゃ二人ともっ! 昨日の話し合いで、ザガート
国王も負けじと声を荒らげて反論する。二人に言い寄られても、自分の考えを曲げる気は毛頭無い。魔王と
「確かに私も一度は納得しました……ですが昨夜大臣と
レジーナが考えを改めた経緯について説明する。
「その男は、いつ本性を剥き出しにするやもしれませぬ……聞こえの良い言葉を口にしながら、常に腹の中では良からぬ
ザガートを指差して、言いたい放題に彼を
「ザガート様は悪い人じゃありません! 発言を取り消して下さいっ!!」
レジーナの態度がよほど腹に
「何をッ! この
レジーナが今度はルシルを罵倒する。自分に噛み付いてきた少女を狂犬のような目で
「むっ、胸の大きさは関係ありませんっ!」
ルシルが胸を両手で隠しながら、カーッと顔を赤くさせた。心の中で気にしていた身体的特徴を指摘されて、深く
「デカチチ女っ!」
「金髪ワキガ王女っ!」
二人の少女がギャーギャーと声に出して
ザガートの善し悪しからどんどん話がズレていき、ただの女同士の言い合いになる。その有様を、当初レジーナに賛同した大臣すらもポカンと口を開けて眺めていた。
「二人とも、やめないかっ!」
両者の
男に止められて、ルシルはハッと冷静になって黙り込んだものの、レジーナはブツブツと小声で文句を
「王女よ……アンタが俺の事を気に入っていないのは分かった。では問おう……どうすれば俺を認める気になる? 何をすれば、お前の気が晴れる? ここで頭を下げてお願いすれば、
ザガートが冷静な口調で、なだめるように問いかけた。王女の機嫌を
「そうだな……」
魔王の言葉を聞いてレジーナがニヤリと笑う。何か良からぬ
「ならば……私と一対一の決闘を行ってもらう!!」
自信満々に大きな声で叫びながら、魔王に人差し指を向けるのだった。
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