第10話 国王への謁見
ザガート達は兵士に城の中を案内されて、謁見の間と思しき大扉の前に着く。
重い鉄製の扉がギギギッと音を立てて開き、二人が中へ入ると、中央の床にレッドカーペットが敷かれており、その左右に鎧を着た兵士がズラッと並び立つ。列の奥の方には、王侯貴族らしき服を着た者も数人いた。
カーペットの最奥に玉座が置かれており、一人の男が座る。宝石の付いた王冠を頭に被り、
キリッとした顔付きは力強さを感じさせたが、表情はニコニコして温和で優しい。
ザガートは男の姿を見て、「有能な統治者かもしれない」と好印象を抱く。
「おおっ! 貴方がギレネス村を救ったという
二人が部屋に入るや
「村での出来事は一言一句漏らさず報告を受けた……貴方様こそ、神が
魔王の前に立つと、願いの言葉を口にしながら
「国王陛下、顔を上げよ……一国一城の
ザガートは
「おお……何と……何とありがたいお言葉じゃ」
魔王に紳士的な言葉を掛けられて、タルケンが感激の声を漏らす。男の優しさに胸を強く打たれたあまり、目に涙が浮かんで今にも泣きそうになる。
「おお……」
「魔王ザガート……何と慈悲深き男よッ!」
二人のやり取りを見ていた兵士達も深く感嘆する。その気になれば武力で簡単に国を支配できた男が、礼節を
(ふむ……やはり高圧的に出なくて正解だったな)
兵士達の反応を目の当たりにして、ザガートは自身の選択が正しかったと確信を抱く。
彼は恐るべき力を持った魔王だ。今でこそ村を救った英雄として尊敬される身だが、いつそれが恐怖と憎悪の対象へと変わったとしても不思議じゃない。
強大な力を持つ者が、傍若無人に振る舞うほど人々にとって恐ろしい事は無い。それではアザトホースがやろうとする虐殺と何ら変わらない。
そもそもゼウスがザガートを異世界に送ってよこしたのは、世界に渦巻く負のエネルギーを生まない
「国王陛下……貴方に聞きたい事がある。俺はその為にここへ来た」
ザガートは気持ちを切り替えると、当初の目的を果たそうと思い立つ。
「
自分が知らない異世界の歴史について事細かに問う。特に大魔王が過去勇者に倒されたかどうか興味を抱く。
「ウム……」
男の問いにタルケンがコクンと
「この地には元から魔物が住んでおった。それらは決して邪悪な存在ではなく、人類と争ったりはしなかった。彼らは今も人里離れた辺境で暮らしておる」
やがて考えが決まるとゆっくり口を開く。
まずこの世界に善良な魔物がいた事を伝えて、魔族と明確に異なる存在である事を教える。
「だが千年前……アザトホースが突如として地上に姿を現したッ! ヤツは自らの眷属『魔族』を魔法で生み出し、魔王軍を結成した! そして人類を根絶やしにすべく襲いかかってきたのじゃ! 大魔王が何者かは分からぬ……だが限りなく邪悪な存在である事は間違いないッ!!」
突如グワッと目を見開くと、大魔王の恐ろしさについて延々と話す。魔族が大魔王によって作られた魔法生物だという事、彼らが共存も対話も不可能な存在であった事などを語る。
よほど魔族に怒りを覚えたのか、喋りながら全身をわなわなと震わせた。
「過去に二度、勇者が地上に舞い降りた……人類を創造した神『
一旦怒りを
この世界を統治する神の名を口にし、勇者が神によって遣わされた異世界転生者だった事実を明かす。
「……じゃが今回だけは違った。ワシらがいくら祈りを
最後は自分達が神に見離されたと話して、落胆したようにガックリと肩を落とす。村の住人がそうであったように、何の救いの手も差し伸べられないまま、魔族の侵略を受け続けた苦悩や悲しみが十二分に伝わる。
(フゥーーム……)
王の話を聞いていて、ザガートは少し思う所があった。
(俺が勇者ではなく魔王として転生したから、この地に勇者が現れなかったのか? だが俺を転生させたのは、異界の神ゼウス……この世界の神ヤハヴェではない。ヤハヴェとやらは、まさか本当に人間を見捨てたのか? 一体今この世界で、何が起ころうとしている……)
これまで得た情報を元に、世界が置かれた状況について考える。過去に二度現れたという勇者が現れなくなった事に、神の
何らかの予期せぬ事態に巻き込まれようとしているのではないかと危機感を抱く。
(だがまぁ、何にせよ……ここであれこれ考えても
それでも結局、これからやろうとする事に変更は無いと結論付けた。
「国王よ、安心してくれ……たとえ神が見捨てようと、俺は貴方達を決して見捨てたりしない。俺が勇者の代わりとなって、貴方がたを魔族の手から守ると約束しよう」
今後の方針が決まると、再び国王の手を取り頼もしい言葉を吐く。深く絶望した彼らに安心感を与えて、自身への信仰を
「ザガート殿、お心遣い感謝する……このタルケン、貴方の旅の助けとなるなら、協力は惜しみませぬぞ。
男の言葉に深く感激した王が、助力を申し出た時……。
「お父様っ! その男に騙されてはなりませんっ!」
そう叫ぶ女性の声が、何処からか聞こえた。
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