結美様の生き甲斐は少女漫画に出てくるイケメンを蹴落とすことです。~決して無差別ではありません~

田中鈴

第1話結美様の男運0パーセント

佐々木裕美。32歳独身、彼氏なし。絶賛、自暴自棄中。


私の勤め先はまあまあのブラック企業。

1ヶ月ぶりの全休にテンションが上がった私は、結婚を前提に同棲している彼氏の携帯で、彼と一緒にふるさと納税の返礼品を選んでいた。

それが運のツキ。

マッチングアプリの通知が来て、浮気されていることに気づいてしまった。

浮気の件を少し問い詰めたら、彼は逆ギレ。

挙げ句の果てに私を突き飛ばし、馬乗りになって殴ろうとしてきた。

私は、バチギレして、金的を喰らわせてみぞおちに思いっきりパンチをお見舞いして家を出てきた。


「あーもう、何やってんだっ」

てか、なんであいつはビンタしてきたわけ?殴っていいのは私だろうが。

思い出したらすっごい腹立ってきた。

「…お酒、飲んじゃお〜かな〜」

こういう時は飲むしかない。てか飲みたい。

今の私を癒せるのは…焼酎水割り、あなただけよ!

「ダーリン待ってて、今行くわ。しっかり濃い目でオーダーするからね♡」


「ぷはーっ!やっぱ美味いわぁ」

お酒が美味しいこと。即ちそれは、人生が楽しいということ。産まれて良かった、この命を授けてくれた暁美、尚忠(両親)ナイス!まじ感謝!

「私の華々しい未来にー!K〜P〜♡」

浮気男には心底腹が立つけど、結婚する前にゴミ男だって分かって良かった!!


「あああぁ〜」

現在2軒目。よくよく考えたんだけど、結婚を前提に同棲してたのに浮気って、そんなんアリ?しかもマッチングアプリって‥。

それに、私32よ?私にだって人生設計ってものがあるのに、最早犯罪の範疇じゃない?

「なんでいっつも、こういうゴミ男ばっかと付き合っちゃうんだろう…」

やばい、泣きそう…。人を見る目の無さと言うか、自分に無性に腹が立つ‥。

「出るか〜外歩いて気分転換しよ〜」

イライラしててもお肌に悪いし。お散歩して飲んだ分のカロリー消費しよっと。

「お会計お願いします」

「はーい。7860円になります」

「うわ〜結構飲んだな〜。2軒目で焼酎15杯も飲む女いる〜?あ、私か!私だわ。すみません。てか、本当にクズとしか付き合ってないわ〜。なんで皆ああなんだろ…」

「お姉さん大丈夫ですか?心の声が漏れてますよ」

「あらやだ。すみませんねぇ」

店員さんに心配されちゃったわ。

焼酎15杯も飲んで、思考ダダ漏れでごめんなさいね。今撤収しますんで許してください‥。

店の引き戸を開けた途端、夜風に吹かれた暖簾が顔に纏わりついた。

「あああ!何よもう!どいつもこいつも、いい加減にしてよね!」

メイクが崩れるでしょ!?ベースがよれるとか、アイシャドウの粉飛びとか考えてよね!

あーやってらんない。

宛もなく夜の街を歩く。夜風が心地良い。

すごいふわふわする。これからどうしよう。仕事も辞めて、どこか遠くへ引っ越そうかな‥。

「お姉さぁ〜ん?超綺麗だね!一人?この後時間ある?」  

「あ?」

モリモリの頭に、てっかてかのシルバースーツ。

センス無さすぎだろ、時は令和ぞ?10年前からタイムスリップしてきた?

え?タイムトラベラー?かっけえ!

「ねえねえ無視しないでよ~俺泣いちゃう~。ねえ、俺そこで働いていてんの!一杯飲もうよ、初回安いしさ!イケメンいっぱいいるよ!!」

真っ直ぐ前だけを見て早歩きに切り替える。このままフル無視で振り切ろう。

「ねえってば!待ってよ!」

男は追いかけてきて、私の腰に馴れ馴れしく手を回した。

「ね、一緒に行こ?」(恐らく精一杯のイケボ)

ぞわわっと全身鳥肌が立つ。ダメだ、限界。

「行かない、飲まない、必要ない。腰の手どけなさいよ。触らないで。」

腰に回されていた手を引っ剥がした。

「痛ってぇなあ!黙ってれば調子乗りやがって!」

ぐえっ

突然胸ぐらを掴まれる。 

「髪型と服装ダサすぎ!誘いかたも下手すぎ!よくそんなんで声掛けようと思えるわね。手を離しなさい。警察呼ぶわよ」

男は顔を真っ赤にして、胸ぐらを掴む腕に更に力が入る。

「お前、俺より年上だろ!?少し美人よりの顔してるからって好き放題言ってんじゃねえよ!!俺よりババアだから、いい金づるになるかもって思って声かけただけだよババア!!」

「ガキが。ほんと、小さい犬ほどよく吠えるわぁ」

「てめえっ」

ガキッ

うっわぁ‥痛ったぁ‥こいつ、裕美様を殴りやがった!

酔っているせいもあるのか、すっごい頭がグラグラする。身体に力が入らない‥。

ガキッ

2発目。左、右、左‥と、そのままタコ殴りにされる。

遠くから悲鳴が聞こえる。

「やめて!お姉さんが死んじゃう!」

誰かが男を止めようとしてくれる。

ありがとーどこかの誰かさん。でも、もう遅いかも‥。痛みがなくなってきた。

むせ返るほどの血の匂いの中で、私は意識を失った。

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