第2話 何気ない会話。冒険者と旅人

「そんで、坊主。あんなにワンワン大声で泣いてたのは家族との何かが原因で、からの色々あって〜ってのはさっき聞いたが。これ以上、んな大声で泣いてたらなんか魔物とか獣とか来てたかも知れんぞ? もうすぐ日が暮れるしな……。俺が命の恩人って訳だ!」

 

 彼は自信ありげに鼻を擦りながらそう言った。

 僕はアスターさんに付いて行き、話を聞いてもらいながら、森の道中を歩いていた。

 未だ状況は掴めて居ないけど、生きていただけ、幸運って言うべきなのか……。


「それで、何処に行くんですか? ここの土地勘とか無いんですよね……落ちて来たの何かして来たかはわかりませんけど……。それに本当にここがどんな場所なのかとか、まったくわかりませんし……」


 僕はそう、彼に問いかけた。

 その問いを鼻で笑い返すと、何故か歩みを止めて身振り手振りで色々解説し始めてくれた。


「坊主が泣いてたのは魔物にそんな狙われもしてない平和で、しかも栄えてる街への行きしの道にある森の中! 俺はちょ〜っと名の知れてる旅人で、俺に魔物の調査と退治の依頼があってだな! せっせとこの先の街へ急いでた訳だ!」


 この人、旅人さんだったんだ……確かにちょっと話しただけでもわかる、自由奔放なイメージがあるかも。


「そして、たまたまさっき俺が泣いてた坊主を見つけて……んで、目的地の街にも近かったし泣いてる奴を無視して通り過ぎんのもなんかなって事で、ちょっとは面倒でも見てやろうかって思ってな! 最近、ここら辺に嫌な噂あるしなぁ……」


 名の知れてる冒険者なのに徒歩なんだな、と言う疑問は飲み込んで、とりあえず今はそのご厚意に預かる事にした。

 ここでいやいや僕なんか、のネガティブないつもの自分を発すると折角の温情を無下にしそうだし……。


「ありがとうございます……。ごめんなさい、急いでるのに僕なんかが面倒事で手間取らせちゃって……」


 そのセリフを発した時、さっきのネガティブを出さない様にしようと言う俺の考えを一気に思い出し、この謙遜というかネガティブというか……本能に刻まれてるんだな、と深く反省した。


「なんなら今から置いて行っても良いぞ? 

……冗談だって……あからさまに悲しい顔しないでくれ……オッサン特有の気遣いっちゃ気遣いなんだよ……。まぁ、俺の気が向いたからってだけだ! 本当急いでるって時なら人の話とか聞かないだろ?

特に理由もないけど、他人に優しくしたい! って時たまにあるだろ? それだよ、それ!」


 そう言いながら、彼は僕に歯を見せて豪快に笑って見せた。

 少しだけ困惑とか後悔とか……そういう、煩わしいのが薄れて来た気がした。


「と言うか、結構歩きますね……後何分位で着く予定なんですか?その、目的地の街って……」


「あと、長くて30分位だと思うぞ? 歩いてればいつか着く」


 彼はそう言って、足を進め続ける。

 最近、しばらく運動も歩いてもなかったせいか、僕はもう疲れ始めたけど……。


「旅人さんってのは聞きましたけど……。冒険者さんって事なんですか? それとも別物ですか?」


「おっ、冒険者なんて奴よく知ってるな〜? 俺も昔は冒険者だったんだよ。まぁ、色々挫折して微妙な所で辞めちまったけど……旅人と冒険者は別物だな、大分」


 アスターさんは人差し指で頭をぽりぽりと掻いている。

 ちょっと話すのが恥ずかしそうって感じがする。


「旅人は、特に報酬とかも貰わずに好きな所旅してる奴。ちなみに、俺は依頼のある街の町長とちょっと知り合いだから今回の依頼は縁故採用みたいなもん。本来は冒険者に頼む事案だな」


 今は知り合いの困り事を解決しに行ってる、って感じなのか……。


「冒険者はどう言う物なんです?」


「冒険者はアレだ、ギルドに加入して……依頼受注して特定の魔物倒したり、色々納品したりそう言う事ばっかする力仕事だ。魔物討伐で世の中の為にもなるし、ついでに金も貰える。後はランクって概念があって……。こっから話すと長くなりそうだから辞めとくか……」


 冒険者に関しての話をぶつ切りされて、ちょっと消化不良感があった。


「簡単に言えば、ランク制度はこの冒険者はこんくらいの強さで、ある程度経験があって、これ位信頼に値しますよって名刺みたいな物だ。ランクの個別の名前とか一々言ってたらキリ無いしな……はい、これで俺の話せる冒険者に関してのアレソレはお終いって事で……」


「む、昔話とか無いんですか……?」


「三日三晩話す事になるから、ここで野宿して良いなら話すが?」


「遠慮しておきます……」


 その後も、アスターさんには色々話を聞かせて貰った。

 話しながら歩いていると、目的地まであっという間の様な気がした。


「久しぶりに長距離歩いたな〜……やっぱ、適度に運動した方が良いぜ? 坊主」


「僕は運動とか、本当してませんでしたね……」


「ちょっとだけでもお日様浴びて、ちょっとだけど歩くだけでも生活が楽しくなるぞ? ま、俺は定期的に運動してないから憶測で物言ってるだけだけど」


 あ、運動してなかったんだ……。 


「そろそろ歩き疲れたし、さっさと着いてほしいんだよなぁ……坊主も、そろそろ足限界だろ?」


「さっきから、ずっと山道ですからね……流石にキツい……」


「おっしゃ、早歩きで行くか! 疲れを感じる前にとっとと辿り着くぞ〜!」


「激辛料理食べる人じゃないんですから……」


 そう言いながら、僕達は早足で目的地の街へと進み出した。

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