転移青年の手向け花(スイートピー) 〜異世界で出会った仲間と共に行く旅の果て、卑屈の殻を破って僕はあの場所へ〜
たいよね
第一章 異世界転移。出会いと修練。【コスモ街編】
第1話 追憶と記憶の始まり
──辺りでは、鬱蒼と茂っていたはずの根深い森林や……。
何年も生きて来ただろう、草花が無惨に燃え盛っていた。
「『文明の祖よ、我らに炎の力をっ……!』」
──何かを言う彼、アスターさんの手の中で業火が渦巻き始め。
勢い良く、禍々しいオーラを放つ黒い影の元へと打ち出される。
その炎は影の中に呑まれると、虚しく消えてしまう。
「──クッソ! 吸収か……まぁ、このジャングルを馬鹿みたいに燃やした張本人が炎が得意じゃない訳は無いか。坊主! 注意しろ!」
「あっはは! もうへろへろじゃん? ちょっと遊んであげただけなのに、人間って体力無いんだね?」
目の前の霧の様な影が一気に晴れると、中からピエロらしきのマスクを被った女が姿を表す。
僕達を笑いながら、見下している──。
「お前ら魔族、しかも魔王軍の幹部のお前がバケモンなだけだろうが……! アイビー! ルリ! せめて、来斗だけは守るぞ! 坊主は絶対死なせちゃいけないからな……!」
「はい、承知しております……! 元からそのつもりですから!」
「うん。わかってる。来斗くん、後ろに」
息も絶え絶えだと言うのに、皆が僕の事を庇いにくる。
申し訳なさと同時に、不甲斐ない気持ちが胸を締め付ける。
「も〜? 束で盾になっても同じだって〜! 私の鎌ちゃんが、この位の肉壁切り裂けないと思う?」
「やってみないとわからんだろ……!」
奴は鎌を振りかぶる──。
その時、自分でも理解出来ない程の速度で、体が動いていた。
咄嗟に、彼らを庇うと──。
僕の剣は、振り回される筈だった奴の鎌を受け止め切った。
余波でとてつもない風がこの辺り一帯を襲い、全てに燃え盛っていた筈の炎が全て消えていた。
「──なッ……!」
「俺の仲間に手を出すな……! しかも散々馬鹿にしやがって……! これ以上、守られてばかりじゃいられない……! 僕が守られた分だけ、今! 皆を守るんだ!」
「坊主……お、お前……いつの間にそんな……」
仲間達は、安心と同時に、恐怖に怯えた顔でこちらを見つめている。
当然だ、目の前に死が迫っているのに無理して僕の事なんて庇ったんだから。
いつもは頼れる人達だけど……どんな人でも怯える時はある。
「僕……いや、俺は今までみんなに庇って貰った分の恩返しをしなきゃいけないんです! なんでこんな力が出せるのかは知りません。でも、一つわかる事は……コイツを倒せるって事だけです!」
奴は俺から距離を取ると、もう一度鎌をこちらに向ける。
過去の出会い、過去に溢れ出した悲しみや怒り、幸せ。
全ての感情を思い出す度に力が溢れ出るような、そんな感覚だった。
「はは、油断してた〜……。君みたいなチビくんがそんなに強いとはね。異世界から来た子だ、ってのは聞いてたけど……神の加護でも貰った?」
「神様なんて、僕に微笑んではくれてない……。
でも、この世界にいる人達が俺に力をくれたんだ!
出会いが変えてくれた。この力は俺一人の力じゃない……俺なんかの事を思ってくれた優しい人達、全部、全員がこの力になってるんだ! この勇気は貰い物。だから……この勇気をくれた場所、この世界に住んでいる人達を守りたいってだけだ!」
勇気を奮い起こす。
力を振り絞る為に、道を思い出すんだ。
俺の、守りたい人達と出会った旅路を……!
────────────
「来斗、もう一ヶ月も休んでるじゃない……。お母さん、心配で……」
「だ、大丈夫。ちょっと、体調不良が続いただけだからさ……うん」
いつも通りの母さんとの問答。僕は高校を休んでいた。
クラスに馴染めなくて、虐められて。
ずっと1人で、勉強さえも出来なくて……色々嫌になってしまったってだけの理由だった。
勿論、望んでこんな事をしている訳じゃない。
「何か悩みでもあるの……? お母さん、聞ける事なら……」
「本当、大丈夫だって! ちょっと、散歩に行ってくるから……」
家を飛び出すと、外はもう夜だった。
鈴虫の音と、けたたましいと言える程のカエルの鳴き声が響いていた。
イジメを受けている事を母さんに言えない理由は、本当に簡単な事。
心配して欲しくなかったから。
言わない事で逆に心配をかけていたけど、それでも言う勇気が出て来なかった。
河川敷に辿り着くと、川辺に足を運んだ。
水の流れる音は落ち着いて、気分が少しはマシになるから。
僕は度胸も、何もなかった。殻に篭って助けを待つだけの雛。
僕を表すにはそれが一番だった。
そんな自分を変えたくて……何度も何度も考えを巡らせたけど、結局辿り着くのは自己否定の言葉だけだった。
水辺をぼんやりと眺めているうちに、少しはネガティブな気持ちも晴れた。
帰ろう。
そう、考えて後ろを向いた瞬間……ザッと音を鳴らして、水に濡れた足はあらぬ方向へと向かってしまう。
この川が浅い事を祈るしかなかった。
「助けっ……!」
助けて、なんてそんな言葉は虚しく夜に響き、僕の体は背中から勢いよく川へと落ちた。
カビ臭い水が口の中に入る。
体は段々と深く、深く沈んで行く。
もがく腕も何も意味は無い。
目の中が熱く、視界が滲んで。
今まで全部、自分の全て、諦めて目を閉じた。
ー
走馬灯の様に広がる思い出。
面倒で不安定な馬鹿息子の為に、女手一つで面倒を見てくれた。
僕は、そんな母さんに、自分以外の誰かに甘えきっていただけだった。
誰かに自分の苦痛を相談すると言うだけの勇気さえ出さず……。
馬鹿な空元気や、今まで与えてしまった不安を謝る事も出来ず……自力では何も、何も出来やしない僕は水底に落ち込んで行く。
ごめんなさい。
ー
目が覚めるとそこには青く澄んだ空が広がっていた。
暗い夜の水の中に沈んだ、目の中の熱い感触はそのままだって言うのに、太陽が更に目の中を眩しく、そして熱く照らす。
「死んだのか? は……はは……。
勇気も出せず、何も出来なかった奴の末路がこれか……馬鹿みたいだ……ほんと……」
体を起こせば、軽く舗装された道の真ん中に座っていて…周りには木々が広がっていた。
ここはあの世か? 思っていたのと違うな。
そう軽く心の中で呟きながら、グルグルと頭が回り出した。
「あ…...あぁ…...あぐっ…...あぅ……」
己の罪悪と後悔が押し寄せる。
こんな死に方をした自分に対する殺意と憎悪。
結局自分自身の手で何も恩を返す事の出来なかった、生前の知り合いや家族達。
自分の何もかもを恨みたかった。
「あぁ! う……あぁ……ああああああ! なんでっ! なんでこんなっ…...! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
ひたすらに泣き叫んだ。
もうあの場所へ戻ることもできない。
どうしようもない。
ここが例え天国であろうと、その先が幸せになれるとしても。
本当に大切なものはそこにはない、待ち続ければ来てくれるだろうか?
会ったとしても喰らうのは苦痛から逃げた者を見る軽蔑の視線だけか。
ひたすら泣いた。
半狂乱になりながら、助けを、救いを……求めていたのかもしれない。
結局、ここまで来ても他人に頼るしかない自分に心の中で心底呆れていた。
「どうしたんだ? 坊主、そんなに泣いて……。
菓子とか居るか? バックの奥に何時からか入ってる俺も忘れてる奴しかないけどな!」
振り返れば、そこには元住んでいた田舎では見た事の無い、染めた物ではなさそうな金髪の少し無精髭を生やしたオジサンがいた。
目、凄い青色だな。
カラーコンタクトとかじゃ、無いだろうし……。
泣き続けてたせいか、気配に気づくことができなかったみたい。
「あ……えと……何でもないです、気にしないでください……」
馬鹿みたいな自分に対する大声の罵声と、こんな姿を他人に見せてしまった事が……素直に恥ずかしい。
冷静になるとサーッと顔の血が引く感覚と、恥ずかしい心で顔と耳が暖かくなる感覚が同時に来た。
凄くお腹が痛む。
久しぶりに大声を出したからだろうけど……。
「無理すんな、さっきから見てた! と言うか、こんな道端のど真ん中で泣いてる奴が何でもないなんて、純粋無垢な赤ちゃんでも騙されんぞ……?
バッチリ見させて貰った! あんま恥ずかしがんなって、俺もそうなりたい時あるし、普通に」
彼は、僕の隣へ胡坐をかいて座った。
二人の男が道の真ん中で座ってる光景は、周りから見たら結構怖いとは思うけど。
「話せないなら話さなくていい、話せるなら聞こう。どうだ、坊主? 生き辛いなら、無駄に長く生きたオッサンの処世術講座でも……」
彼は体を大袈裟に動かして、凄く活発に動いてる。
元気付けようとしてくれてるのかはわからないけれど、少し笑いがこぼれてしまった。
「僕は……」
全てを話すことにした。
知らない場所、知らない人だからか、臆することなく話せた。
現世じゃ、こんな風に相談出来る人なんて居なかったかも。
それか……さっき会ったばかりなのに、少し良い人だと思えていたのかも。
または自暴自棄になっていたのかもしれない。
途中途中目を丸くしながら聞いていた彼は目を細め…...。
「話聞いてるだけでもわかるが、自虐入れ過ぎじゃないか……? 辞めといた方が精神衛生上良いぞ? まぁそれは良いとして、だ。言っていることはほとんど理解できなかったが……行く当てがない、ってことか?」
「はい……。まぁ、もう死んでる様な物ですから……」
僕はへらへらと笑いながら、今までの出来事を目の前の彼に軽く、そして拙い言語力で伝え切った。
「なら一緒に来いって! 一緒に着いてくるだけで人生豊かに! お得! とかじゃねぇけど、ほっとけないんだ。オッサンの悪い癖のお節介焼きだ!へへ……」
「良いんですか……? 僕、なんかに……」
「良いよ良いよ! これもなんかの縁って奴だ。
ただ一つ教えといてやる!」
彼は歯を見せて自慢げに笑いながら、人差し指を立てて左右に振って……。
僕に突き立てた。
「ここは天国なんかじゃない!」
「じゃあ地獄ですか……?」
「地獄でもねぇって……話聞け……。
坊主の心臓は確かに鳴ってる筈、だろ?」
彼は咳払いすると、腰に手を当てて。
「お前は確かに生きてる! この世界でな!
ちゃんと息して、自分の思う事言えてるだろ?」
そう、確かに言った。
そしてもう片方の手で背後に指を差した。
「どうだ?カッコ良かったろ!久々にカッコつけてみるもんだな……お〜っし、着いてこい! とりあえず安全な場所にでも案内してやる!」
「あっ……はい! ちょ、ちょっと待って下さい……」
とりあえず、僕は彼に着いていく事にした。
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